ウクライナへの軍事侵攻が、静岡県内のロシア料理店にも影響を与えている。「他国に侵攻するような国の料理など必要ない」といった心ない手紙が届き、禁輸でウォッカが入手困難になった。そんな苦境を救ってくれたのは、常連客の一言だったという。
コロナ禍から回復の矢先に軍事侵攻…心ない手紙が届き仕入れに影響も

浜松市中区にあるロシア料理店「サモワァール」は1974年、県内初のロシア料理店として開業。ボルシチやピロシキなどの料理で人気を集めてきた。しかし、店は今、苦境に立たされている。
サモワァール・松木伸太郎 店長:
コロナで先が見えない中で店も踏ん張ってきたんですけど、ウクライナ侵攻で二重に苦しい
新型コロナの影響で売り上げは3分の1に。ようやく客足が戻ってきた矢先、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。

松木店長:
戦争が始まって最初はそんなに感じなかったが、戦争が拡大していくイメージを感じた時から、お客さんが少ないかなというのは正直ありました
それどころか店には、「他国に侵攻するような国の料理など必要ない」などと書かれた心ない手紙も届いた。
そして仕入れの面でも、大きな影響を受けている。

松木店長:
アルコール類がこれからストップしてしまう。ロシアのウォッカやビールを店で出していますが、これから(輸入が)完全にストップしてしまうので、店で扱えなくなってしまいます
政府は4月にロシアへの経済制裁の一環として、ウォッカなどのアルコール飲料の輸入を禁止した。この影響で、常に100本ほど用意していたウォッカの在庫が、いまは15本程度しかない。
松木店長:
これからは特に暑い時期になるので、ウォッカもなかなか手に入らないものもある。お客さんは楽しみにしていると思うので非常に残念です
「料理に罪はない」
こうした中、店を励まそうと来店するお客さんもいる。
来店客:
ここの料理が好きなんで、ロシア料理が無性に食べたくなるんです

別の客:
風評被害にあっている様子をみると、すごくかわいそうという気持ちもある。いろいろ感じる事はあるけど、料理には罪はないですから

松木伸太郎店長:
多くの人に「大丈夫?」と心配する声をかけてもらった。先が見えない中でどうしようという不安もあるが、来ていただいたお客さんに笑顔になっていただける、それが皆さんへの感謝の気持ちになりますので、前向きに店をやっていきたい
ウクライナにもルーツがあるロシア人…非難おそれ情緒不安定に
一方、静岡市葵区で通訳や翻訳サービスを手掛ける「P&S」。経営しているのはロシア人の長阪有美奈さん(44)だ。長阪さんはウクライナの現状に心を痛めている。
長阪有美奈さん:
今回は(限定的な)軍事作戦ではなく明らかな戦争で、ロシアの判断としては正しくないと私は思う。民間人を巻き込むのはなしでしょ

ロシアの極東部ハバロフスクで生まれ育ち、23歳の時に語学留学のため来日した。父と、母方の祖父はウクライナ出身だ。

長阪さん:
私のような(親族がウクライナ人の)ロシア国民はたくさんいると思います。ルーツはウクライナですが、アイデンティティはロシアです。それだけ私たち(ロシアとウクライナ)は親密な関係で、国をまたいだ家族のいる人も多い

両親に頻繁に連絡して、日本で得られるウクライナの情報を送っているが、当初は信じてもらえなかったそうだ。しかし戦況が長引くと両親の様子が変わってきたという。
長阪さん:
(両親は)報道の内容より私の事を心配してくれている。「この情報を送ってあなたは大丈夫なの」と。ロシアは情報機関が追跡している可能性が高いので、娘のことが心配なのです
侵攻が始まった当初は、長阪さんは情緒が不安定となり、突然涙があふれ出る事もあったという。
長阪さん:
戦争が始まった時にショックがすごく大きかったから、「(自分は)ロシア出身」とは言いづらかった。「まわりから冷たい目でみられているのではないか」とか、「ロシアは敵の国だからロシア人とは付き合わない方がいいか」とか(心配した)
息子の無邪気な一言で救われた
そんな長阪さんを救ってくれたのは、無邪気な息子(6)の姿だった。
長阪さん:
他の人の前で息子は必ず、「僕のママはロシア人」と言うのです。ちょっと困りますが、何か応援しようとしているんですね。3月には私が落ち込んでいたから、新しい人と会うたびに「この人はロシア人、この人はロシア人」というので、逆に私は「(自分は)ロシア人と気にせずに言っていいのかな」と思うようになった。子供の応援があったからこそ、励みになったと思います

長阪さんはウクライナへの募金活動や支援プロジェクトに積極的に参加している。
長阪さん:
ロシア人とウクライナ人のいま大きくなっている亀裂を、民間レベルで修復できないかなという思いがあります。ロシア人だからこそ、かつて兄弟国であったウクライナの人たちに少しでもお手伝いできれば思っています

仕事や生活に影響を受けながらも、前を向いて過ごす日々。ロシア料理店の店長とロシア人女性に共通する願いは、一刻も早い事態の収束だ。
(テレビ静岡)