コロナ禍になり3度目の夏を迎える。外出先でのアルコール消毒やマスク着用等の感染対策もすっかり日常に溶け込んだといえるだろう。

マスク着用は夏の到来とともに緩和の動きが見られるが、アルコール消毒についてはどう対応したらよいか?

1日の新規感染者が4万人を超え感染拡大に再び警戒が必要な中、今こそアルコール消毒の意義や正しい方法についておさらいしておきたい。

北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学研究室の片山和彦教授に話を聞いた。

消毒用アルコールは「濃度」が重要

ウィズコロナの日常で、施設の入口でのアルコール消毒がすっかり習慣化した人も多いだろう。ただ日々に浸透しすぎると、その意味を忘れがちだ。「どれくらい感染防止効果があるんだっけ?」と首を傾げる人もいるかもしれない。

そんな人はまず「コロナウイルスは、アルコール消毒でほぼ完全に消毒できます」という片山教授の言葉を改めて頭に入れておきたい。

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コロナウイルスは「エンベロープ」と呼ばれる外膜を持つが、そのエンベロープは脂質性のためアルコールによって破壊されやすい。そのためアルコール消毒がウイルスの不活性化にとても有効だ。

ただし、せっかく消毒しても次の2つのポイントを押さえなければ十分な効果を期待できない。1つ目は「アルコールの濃度」だ。

「コロナウイルスは、50%以上のアルコール濃度があれば1分間でほぼ不活性化します。それ以下の濃度では、完全な不活性化は望めません。濃度は消毒容器のラベルを見れば判断できますが、わかりやすい目印は『火気厳禁』という表示があるかどうか。アルコール濃度が60%以上の商品には『火気厳禁』と表示するよう消防法で決まっています」

あなたの消毒方法は大丈夫?

2つ目は「正しい方法」で行っているかどうか。片山教授によれば、なんと「大半の人が間違った方法でアルコール消毒を行っています」という。

よく見られるのが、アルコール液を手に受けてすぐ全体に伸ばし、手をひらひらさせて乾かす動作だが、残念ながらこれでは十分な消毒効果を望めない。「それでは十分に不活性化できず、手についたウイルスを周囲に撒き散らしているようなものです」という。

では、正しい方法とはどんなものか?

「まずはしっかりワンプッシュして手の平にたまるくらい十分な量を使用することが大事です。そこから指の先端と手の平全体を丁寧に濡らす。そして、しばらく両手を組んだままにして30秒ぐらい我慢しましょう。本当は1分間そのまま待ってほしいのですが、それは難しいのでせめて30秒。その後、左右の手全体にアルコールを伸ばして乾かしましょう」

最近ではゲル状で粘度の高い消毒液もある。これらの製品はアルコールが揮発しにくいため、より効果的に消毒できるという。この場合も、上記のような正しい手順で行うのが大切だ。

ノンアルコールの商品も上手に活用

十分に消毒しても、ひとたび店の商品を触ったりトイレに行ったりすると再びウイルスが付着してしまうこともある。そのためショッピングモールなどでは「入口で一度消毒したら終わり」ではなく、店ごとに設置されたアルコールでこまめに消毒することが大切だ。

ただ、肌の弱い人は頻繁なアルコール消毒で手が荒れることを懸念するだろう。その場合は、保湿成分の含まれたアルコール消毒液や消毒後に保湿するハンドクリームを持ち歩くなどして自ら対策したい。

また、乳幼児のアルコール消毒をためらう人もいるだろう。肌が弱かったり、指しゃぶりの癖があったりする場合は特に心配なはずだ。

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「その場合は、ノンアルコールのウェットティッシュを活用しましょう」と片山教授。

「それらの商品には、たいてい『塩化ベンザルコニウム・ベンザルコニウムクロリド(ベンザルコニウム塩化物)』などのコロナウイルスに効く有効成分が使用されています。例えば0.1%および0.05%の塩化ベンザルコニウムならば1分間で不活性化します。誰もが名を知る大手メーカーの商品で『除菌』『抗菌』『ウイルス除去』などが謳われた商品はたいてい大丈夫でしょう。心配な場合は裏面の成分表示を確認してください」

入口で店員から直接アルコール消毒を求められる場合も、一言「子どもにはこちらで消毒します」と伝えて目の前で対応すれば問題ないだろう。アレルギー等でアルコール消毒ができない大人にも有効な方法だ。

ハンドソープでの手洗いにはメリットしかない

こまめな「手洗い」も、アルコール消毒とセットで引き続き継続したい。すでに習慣化している人も「ハンドソープを使用しているかどうか」をあらためて振り返ってほしい。

2020年に片山教授らが行った検証によると、検証結果の公開とサンプルの提供に同意を得た国内複数企業の洗剤やハンドソープ等、計22製品のうち21製品でウイルスの不活性化が確認されている。

新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果を検証した結果の一覧(提供:北里大学・片山和彦)
新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果を検証した結果の一覧(提供:北里大学・片山和彦)

コロナ禍以降インフルエンザやノロウイルスの感染者数が減少しているが、その背景にも頻繁な手洗いがあげられるという。

「ウイルスの感染経路はたいてい、目、鼻、口などの粘膜層や傷口などです。手指を清潔に保たずに、食べ物を口に運んだり、顔を触ったり、目をこすったり、中には鼻に指を突っ込んだりする人もいますけど、それでは、手指に付着しているウイルスに感染してしまいます。

だからこそ外出先から帰ってきた時や食べ物を触る前、お手洗いで用を足した後などにはちゃんと手を洗うことが大切です。公衆衛生の基本である手洗いが、新型コロナウイルスに限らず、あらゆるウイルスの感染対策の基本となるのです」

ちなみにノロウイルスはコロナウイルスやインフルエンザウイルスと異なり、前出の外膜「エンベロープ」を持たない構造だ。そのためアルコールや、ハンドソープ等の界面活性剤で不活性化させることはできない。

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それでもハンドソープを使用した手洗いがノロウイルスに対しても有効といえる。それは泡を洗い流すために一定時間、流水で手を洗うという動作があるからだ。

これによって手に付着したノロウイルスを洗い流すことができる。目安は流水でせっけんのぬめりがなくなるまで約1分間程度。それさえ意識すればOKだという。

アルコール消毒への意識をアップデート

昨今では、入口に置かれた消毒用アルコールをスルーしてそのまま中に入っていく人々も、時々だが見受けられる。

「消毒をスルーする人たちはワクチン接種も済ませ、自分が感染することはそうそうないだろうと考えているのではないでしょうか」と片山教授は分析する。「今一度、なぜ、入り口に消毒用アルコールが置かれているのかを考えてみて欲しい」。

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「入り口に置かれたアルコール消毒薬は、来店したお客様の感染を防ぐためではなく、来店した方が万が一ウイルスを持っていた場合に他人にうつすのを防ぐためなのです。

そこに訪れる他のお客さんやお店の従業員を守るため、そして商品への付着を防ぐために入口でウイルスを消毒するわけです。自分がその時点で発症していなかったとしても、うつった側は発症して最悪の場合は重症化するかもしれません」

片山教授いわく、「これだけ世界中にウイルスが広がってしまったわけですから、そう簡単には収束しません。今後もウイルスの変異などによって感染が拡大するケースも起こりうるでしょう」。

ウィズコロナはこの先も当分続くだろう。「長らく続くコロナ禍に、うんざりしている気持ちは十分理解できます」。繁華街にも観光地にも人出が戻った今こそ、あらためてアルコール消毒に対する意識をアップデートしたい。

取材・文=高木さおり(sand) 

イラスト:さいとうひさし 

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。