2022年4月、早稲田大学の社会人向け講座で、牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役(当時)が「生娘をシャブ漬けにする戦略」などといった発言をした。

これに対し「不適切だ」と声を上げたのが、元受講生のAさん。Aさんは問題を指摘した後も吉野家側と大学に対し、意識改革や対策の徹底を求める署名活動を行った。なぜ声を上げ続けるのか、Aさんに話を聞いた。

「不適切だ」と抗議した元受講生のAさん 意識改革や対策の徹底を求め署名活動
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力をつけるため受講 発言を聞き「怒りで震えた」

(Q.なぜこのマーケティング講座を受けようと思ったのか)

Aさん:
私はIT企業に勤務する、普通の会社員です。社会人になって10年くらいなのですが、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が増えて、家族以外とはオンラインでしか会わず、仕事をする日々になりました。良い機会だから業界の横のつながりを作りたい、マーケティングをもっと勉強して力をつけたいと思って、講座を探していました。

今回の講座に決めたのは、早稲田大学が主催の履修証明プログラムなので、質の高いものだろうと思ったからです。授業料は約38万円。業界の様々なセミナーには参加してきましたが、ここまで高額な授業料を払って長期間のセミナーに参加するのは初めてのことでした。

(Q.どのような発言があったのか)

Aさん:
20代~50代の受講生約50人が集まり、吉野家のマーケティング課題の解決策を話し合い、発表するという課題でした。講師として招かれた常務(当時)が、吉野家に若い女性を集客する施策を考えて欲しいと説明する過程で「生娘をシャブ漬け戦略」と笑いながら複数回発言されました。「田舎から出てきた右も左も分からない女の子を牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対食べない。家に居場所のない男性が何度も来店する」と。

女性や地方出身者に対して差別的、男性客に対しても侮蔑的で、公の場、しかも教育の場でこのような発言があって良いものかと怒りで震え、頭が真っ白になりました。教室には早稲田大学の教授や運営スタッフが同席していましたが、その場で注意する人はいませんでした。

おかしいと感じていたのは自分だけではなかった

(Q.他の受講生の反応は)

Aさん:
とても軽快なトーンでお話しされたので、笑っている人もいました。私はその場で挙手して抗議をすることを考えましたが、皆さんスキルアップのために通われていて、熱心に質問もされており、指摘をして授業の邪魔をしてしまうのはどうなんだろうという考えも浮かびました。

(Q.最終的になぜ抗議をしようと思ったのか)

Aさん:
今まで大学を出てから社会人を10年、ハラスメントは日常的にありました。違和感を持っても、自分が我慢すればいいやと諦めて何も訴えてこなかった。ただ、ここまでの侮蔑的な言葉を教育の場で聞いたのは初めてでした。このような発言を大学でも違和感を持つ人がおらず、当たり前になっている現状に驚き、「自分より若い世代にはこういう発言を絶対に聞かせたくない。教育の場での影響力を考えてほしい」と、そう思って講義が終わった後、大学側に対面で抗議し、ことの経緯をSNSに投稿しました。

(Q.大学側の反応は)

Aさん:
話をした運営側は「どの発言ですか?何が問題だったんですか?」という反応だったので、伝わっていないと思い「アメリカで黒人差別的な発言をしたらどうか」といった例示をしたら、理解を示してくれました。一方で「教室は公の場ではない。講師の一言一句のチェックは大学側にはできない」と言われました。こんな状況だと通うことが不安だと伝えると、「一部返金するのでやめてもらって良いですよ」とも。

これは後から聞いた話ですが、他の外部講師1名の方が、早稲田大の教授に「発言は問題だ」と指摘してくださっていたそうです。授業の最後に、その教授から受講生全員に謝罪があったのですが、その後駆け寄って「私もあの発言はなかったと思います」と伝えた受講生もいたようです。おかしいと感じるのは自分だけじゃないんだと、とても救いになりました。

吉野家・早稲田大から謝罪も「その場しのぎに見えた」

Aさん:
早稲田大の教授の謝罪は「非常に熱意あるお話の中で、過激な発言が出てしまった。吉野家の常務にも謝罪してもらいます。これでご勘弁いただきたい」という内容でした。言葉のチョイスの問題かもしれませんが、どこかその場しのぎで、問題に対する認識の差を感じました。翌日、吉野家の常務(当時)から謝罪のメールが来ましたが、抗議をした本人の名前を伝えているのも大学の対応としてどうなのかと感じました。

Aさんは、講座の受講をやめる決断をした。

吉野家はその後、常務を解任。HPに「当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません」」などという謝罪文を掲載した。

早稲田大学とAさんとの間で話し合いの場がもたれ、大学は今後の対応として「社会人講座の講師に事前に注意を促し、コンプライアンスの遵守を求める」「講座の責任者が同席し、不適切な発言があった場合はその場で注意・制止する」などの対応策を打ち出した。

一部の講座のみに適用され、大学全体の取り組みは「検討中」。6月末にAさんに回答するということだ。

Aさん:
問題発言は、吉野家社内であたかも日常的に使用されているかのような言い回しも散見されました。日本を代表する企業と大学がこれで良いのか。うやむやにされたくないと思い、詳しい対策を求める要望書を提出しました。

(Q.そこからなぜ意識改革・ハラスメント対策の徹底を求める署名を立ち上げたのか)

Aさん:

この問題がSNSで広がり、バッシングもありましたが、同じ問題意識を持っている方も大勢いました。署名を立ち上げたのは、吉野家と早稲田大学側にそれを定量で示さなければ、本腰を入れて対応してもらえないと思ったから。今回の問題だけではなく、吉野家ではハラスメントに対する団体交渉や就活生差別、早稲田大学でもキャンパスハラスメントが立て続けに公になっています。また、今回の件で早稲田大学のハラスメント対応の課題を感じたのも事実です。「必ず改善してください」というメッセージです。

最終的に2万9200人が賛同し署名。Aさんは6月20日、吉野家と早稲田大学に提出した。

Aさん:
お飾りのハラスメントガイドライン、ダイバーシティ推進では意味がない。日本社会で学び、働くすべての人が平等に安心して活躍できる環境づくりを実現させてほしいと思っています。

(聞き手:関西テレビ記者 押川真理)

記事 435 関西テレビ

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