タイの交通死亡事故の発生率は、日本の約8倍にも上る。信号無視やバイクの4人乗りなど、危険な運転が日常茶飯事だ。
そんなタイで交通ルールを守ってもらうため、日本のバイクメーカーが開いている“日本式”の地道な取り組みが、信頼を集めている。

逆走、ノーヘル、信号無視、…交通事故多発国タイ 死亡事故は日本の8倍

車道を逆走するバイク。運転手が落ちて、バイクだけが交差点に突っ込む。残されたライダーはフラフラ…、飲酒運転だったのだ。
これはタイ政府による、タイ国内で起こった危険運転を伝える映像だ。

首都バンコクの街中に出てみても…

池谷庸介 記者:
歩道をバイクが進んでいきます。しかも逆走しています。あれは危険ですね。3人乗りもいました。みんなノーヘルメットです

小さな子どもを含めたヘルメットなしでの4人乗りや、信号無視など、驚くような運転に遭遇することも日常茶飯事だ。

ノーヘルの4人乗り 小さな子どもも乗っている
ノーヘルの4人乗り 小さな子どもも乗っている
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危険な運転が多くみられるタイは、世界でも交通死亡事故が多発している国として知られている。2020年には1万8000人近くが交通事故で死亡した。
WHO=世界保健機関によると、10万人当たりの死亡事故率は32.7人で、日本と比べて8倍にも上る。

こうした中、バンコク近郊で行われている、事故を減らすための地道な取り組みが注目を集めている。

教習時間は日本の12分の1…日本企業が指導に乗り出す

おそろいのゼッケンを付けて並ぶ
おそろいのゼッケンを付けて並ぶ

その「取り組み」を取材するため、とある施設を訪れると…、数人がそれぞれバイクにまたがり、一列に並んでいる。みな青いゼッケンを付け、背中には「ヤマハ ライディング アカデミー」の文字が。

ヤマハ発動機・現地法人の施設
ヤマハ発動機・現地法人の施設

これは安全運転を教えるための教習で、行っているのは、静岡県磐田市に本社を置く「ヤマハ発動機」のタイの現地法人「タイヤマハモーター」だ。

バイクが庶民の足として普及するタイでは、死亡事故のうち7割以上がバイク事故だ。

日本の免許制度との比較
日本の免許制度との比較

そして事故の背景にあるとみられるのが「安全運転への意識の低さ」。
例えば日本では、免許取得の試験を受けるには、普通免許の場合、学科と技能あわせて60時間の教習が必要だが、タイでは5時間のみ。
バイクライダーへの安全運転意識の向上が課題となる中、タイヤマハモーターは安全運転を普及させようと「ヤマハ ライディング アカデミー」を設置した。

“日本式”の教習にタイの運転手も納得

池谷庸介 記者:
こちらにはS字カーブや交通標識など、日本の教習所と同じようなコースが設けられていて、タイの人たちもここで安全運転を学ぶことができます

日本の教習所と同じ景色
日本の教習所と同じ景色

2008年に自社の敷地内に作られた施設の総面積は1万8000平方メートル以上。実技用のトレーニングコースも設けられている。
ここでは安全運転を教える基本的なメニューのほか、免許取得のためのコースや、大型バイクの乗り方指導など、目的にあわせ8つのメニューが用意されている。

免許取得に向け練習するプラさん
免許取得に向け練習するプラさん

この日、免許取得のためのコースに参加していた、タイ陸軍で働くプラさん(42)。自宅と職場が近いこともあり、今まで自転車での移動がメインだったが、もっと遠くまで行きたいと免許取得にのぞんだ。

免許取得を目指すプラさん:
独学では、何が正しいのか分からない。そのために、ここに来ました

スラローム運転や八の字運転など、運転技術を学ぶ。

プラさん「アクセルを使った方がいいですか?」
指導員「普通で大丈夫」

S字スラロームや八の字運転では、ヨロヨロと不安定な運転を見せていたプラさん。さらに、凹凸のある路上の走行練習では、勢いが足りず途中でひっかかってしまい、転倒しそうになる場面も…。他の参加者が転倒する場面も目にし、プラさんは、一歩間違えれば事故につながる危険性を感じたようだ。

転倒する受講者も
転倒する受講者も

免許取得のための教習は、学科と実技を合わせ、丸2日間かけて行われる。プラさんも日本式のトレーニングから、多くのことを学んだ。

プラさん:
いいですね、これは本当にポイントをついています。交通ルールや心構え、正しい運転の仕方など、知識を持った先生に教えて欲しかったから。バイクに乗るのに自信が持てるようになる

スラロームに挑むプラさん
スラロームに挑むプラさん

飲酒運転がゼロ? 取り締まりの地域差も課題

タイで事故が多いもう1つの要因が、法執行のゆるさだ。
タイ健康促進財団によると、2020年の飲酒運転の取り締まり件数が、北部ターク県では約3万7000件だった。これに対し中部のロッブリー県や南部のパッタニー県では、なんとゼロ。全くなかったという。

地域によって取り締まりが行われていない実態があり、こうした法執行の地域差も事故の要因となっている。

タイヤマハモーターの担当者によると、タイで1000件の交通事故を調べたところ、4割が無免許運転だったという。無免許や飲酒運転などの取り締まりを強化していくことも、事故防止策として重要と言えそうだ。

バイクが多いタイの道
バイクが多いタイの道

ヤマハ ライディング アカデミー カラン・スリソンスック課長:
何よりもライダーの技術と知識不足が、事故の原因にならないようにする。ヤマハライディングアカデミーは、事故の件数を減らして、タイの道が安全になるようこれからも支援していきたい

2008年の設立からこれまで、この施設では約14万人が運転技術を学んだ。今後、さらにトレーニングを充実させていく方針だ。タイの交通事故減少のため、地道な支援が続けられている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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