GIGAスクールで全国の小中高校に一人一台端末が整備され、今年から高校で「情報 I」が必修科目となるなど、いよいよ“デジタル無くして教育無し”の時代となった。

こうした中、全国の中学高校をオンラインでつなぐ、次世代型のデジタル部活動が始まったので取材した。

学校や学年の枠を超えたデジタル部活動

「難しいかと思って不安だったけれど楽しかった」(中1男子)

「自分でコードを書いて動くのが嬉しかったし、これならできそう!と思った」(高1女子)

5月28日に行われたデジタル部活動「Life is Tech ! School X(以下スクールエックス)」。スクールエックスでは隔週土曜日の午後に、子どもたちに専門スタッフや大学生のメンターらが伴走しながらアプリやゲームの開発を行う。

28日は中学高校6校の生徒約100名がオンラインでつながり、学校や学年の枠を超えた各チームがiPhoneアプリやゲームの開発に取り組んだ。

中学高校6校の生徒約100名がオンラインでつながりアプリやゲーム開発に取り組んだ
中学高校6校の生徒約100名がオンラインでつながりアプリやゲーム開発に取り組んだ
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スクールエックスを運営するのは、中高生向けIT・プログラミング教育サービスを展開するライフイズテック株式会社だ。

なぜデジタル部活動を始めたのか?代表取締役CEOを務める水野雄介さんはこう語る。

「ITスクールに習い事としてくるのはハードルが高いけれど、学校内での部活動であれば気軽に参加できるというのがすごく面白いかなと思いました。しかもオンラインであれば家からでも参加できて、他の学校の子どもたちとも友達になれる。学校という枠にとらわれないのがメリットですね」

水野CEO「学校という枠にとらわれないのがデジタル部活動のメリット」
水野CEO「学校という枠にとらわれないのがデジタル部活動のメリット」

「ワクワクする世界を作る一員になって」

「始まりましたね!」

取材に訪れたのは神奈川県横浜市にある関東学院中学校高等学校(以下関東学院)。教室には9人の中高生が参加して、オンライン上でライフイズテックの専門スタッフ2人が繰り広げるオープニングトークに拍手を送った。

そして近未来を想像させる映像が示されると、スタッフは子どもたちにこう呼びかけた。

「プログラミングを学ぶことで、ワクワクする世界をつくる一員になってほしい。きょうはその第一弾です!」

専門スタッフのオープニングトークに”部員”が拍手を送る
専門スタッフのオープニングトークに”部員”が拍手を送る

その後子どもたちは5人ずつのチームになり、20以上のブレークアウトルームに分かれて開発を始めた。1つのチームに専門スタッフか大学生のメンター1人がついて子どもたちと画面共有し、1人1人の進み具合や習熟度をリアルタイムに把握しながら進めていく。

こうして子どもたちをがっちりサポートできるのがデジタル部活動の大きな特徴だ。

ライフイズテックには約300人のメンターがおり、子ども5人にメンター1人がつくのなら、最大1500人の子どもを同時に伴走可能といえる。

5人ずつのチームになり、メンターが画面共有して伴走する
5人ずつのチームになり、メンターが画面共有して伴走する

凄い能力の子どもを埋もれさせない環境を

関東学院にはかつてパソコン部があって、子どもたちは情報処理室(パソコンルーム)で活動していた。しかしタブレットやアプリの普及とともに部員が減少。そんな時にライフイズテックを学校に紹介したのは保護者だったという。

スクールエックスを所管する鍬塚浩一副校長はこう語る。

「保護者からの紹介を受けたのがきっかけで、4年前からライフイズテックのIT・プログラミングキャンプに生徒を参加させています。いま学校でプログラミングをやっていくのは大前提ですが、時間やコストを考えるとこうして外部の力をお借りできるのはありがたいと思っています。デジタル部活動への期待は大きくて、凄い能力を持っている子どもを埋もれさせないように環境を与えることができるのは大事だと思っています」

関東学院では「すごい能力の子どもを埋もれさせない環境を与えることができるのは大事だ」と考える
関東学院では「すごい能力の子どもを埋もれさせない環境を与えることができるのは大事だ」と考える

「英語よりデジタル教育が重要な時代がくる」

2020年からプログラミングが小学校で必修化され、2025年には情報 Iが大学入試・共通テスト科目となる。いよいよ「デジタル無くして教育無し」時代の本格的な到来だ。

前述の水野さんはこう語る。

「デジタルを活用して、アントレプレナーシップを持って社会を変えられる子どもを育てようと、国も政策として後押ししています。英語教育よりもデジタル教育が重要な時代が10年後には来ると思います。プログラミング教育は学校教育を変える手段にもなると思っていて、今回のように部活動を変えたり、授業の形態も変えていけると感じています」

プログラミング教育は学校教育を変える手段にもなる
プログラミング教育は学校教育を変える手段にもなる

この壁となるのが「先生をどうデジタル化するか問題」だ。ライフイズテックでは昨年までに2000人以上の先生にプログラミング研修を行った。

「文科省がゴールにしているのは、情報技術を活用し社会を変えられる子どもを育てることです。ですからそれを教える先生も、たとえば身の回りの課題をオリジナルのウェブサイトを作って伝えるなど、まずは先生自身が問題解決の当事者として実践していく研修しています」(水野さん)

デジタル部活動はいずれ文化芸術やスポーツに広がる可能性も
デジタル部活動はいずれ文化芸術やスポーツに広がる可能性も

ライフイズテックではいま、9月期からのデジタル部活動への参加希望校を募集している。

現状、部活動費は参加者の家庭負担となっているが、将来的には自治体とも連携しながら誰もが参加できるようにしていく予定だ。

全国の中高生が学校の枠を超えてつながるデジタル部活動。プログラミングだけでなく、いずれ文化芸術やスポーツにも広がっていくだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。