キノコを活用してレザーの特徴を再現した新素材のバッグが登場した。

キノコの「菌糸体」由来のレザー

すっきりとしたデザインの財布。その下にディスプレーされているのは、なんとキノコ。これは土屋鞄が6月9日から展示を始めた新作シリーズの試作品だ。

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まるでレザーのような見た目だが、キノコの根にあたる部分「菌糸体」を加工した新素材「マイロ」が採用されている。

牛革を使った財布と比べて見ると、見た目も手触りも本物のレザーと遜色なく、若干キノコレザーの方が柔らかい印象だという。

革の特徴をリアルに再現しているこの素材は、アメリカのバイオ企業ボルトスレッズから提供されていて、最大の特徴は生産時の環境負荷が少なくサステイナブルなこと。

ボルトスレッズCEO ダン・ウィドマイヤーさん:
地球上の生物は約40億年でサステイナブルに環境と調和して生きるヒントを生み出してくれた。マイロが初めてそれを証明する事例となるだろう。菌糸体は余ったおがくずなどを使用し、2週間以内に暗い環境で育ちます。ウシは生まれてから育つのに3年ほどかかります

生産期間の短さに加え、必要なものは水、空気、おがくずのみ。温度や湿度調整の電力も100%再生可能エネルギーを使用し、環境への配慮にこだわっている。

これまでアディダスやルルレモンなどのグローバル企業と共に製品開発を進めてきたが、日本で初めてこの新素材の提供を受けたのが土屋鞄。

土屋鞄製造所 商品企画室・鬼木めぐみ室長:
(組み立て時に)糊がきかないものですからずれてしまう。ファスナーテープと本体がずれないように細心の注意を払いながら組み立てないといけない。(牛革は)個体差、パーツ差でばらつきがあるが、マイロの場合は1枚のシートが均一性高く作られているので、きちんとパターンを配置すると隅から隅まで使えるのが利点です

これまでに作った試作品は20個以上、商品開発は土屋鞄の持つ職人技を生かす機会となった。

素材の提供を行ったボルトスレッズ社は…

ボルトスレッズCEO ダン・ウィドマイヤーさん:
消費者はもっともっとサステイナブルな物を求めている。日本がアメリカの次に「マイロ」を販売する市場となって嬉しい。マイロ製品を買って触れて体験して私達のサステイナブルな旅路に一緒に参加して欲しい

土屋鞄は今後改良を進め、年内には財布など一部製品の発売を始めたい考えだ。

顧客とブランド・リレーションシップ構築

Live News αでは一橋大学ビジネススクール准教授の鈴木智子さんに話を聞いた。

内田嶺衣奈キャスター:
消費者行動やブランド論を研究されている鈴木さんの目に、キノコレザーのバッグはどう映りましたか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
動物愛護活動にも熱心なことで知られる世界的なデザイナーのステラ・マッカートニーもキノコレザーを積極的に使っています。ファッション業界がサステイナブルの追求を強めている背景には、素材に使用される天然資源の過剰な消費に加え、化学物質を使うため汚染水を発生させているとの指摘を払拭する狙いがあります。ただ、サステイナブルな社会の実現を考えるあまり、ファッションを楽しめないようなつまらない世の中になるのも残念です。 そこでファッション業界が出した未来への選択が地球に優しい素材を使用することで、業界の健全性を示しながらおしゃれを楽しむ遊び心の両立を図る試みなんです

内田キャスター:
確かに、今回のキノコレザーを使用したバッグは地球への優しさと遊び心の両立がはかれていますよね?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
利用者は「最先端のイノベーティブなものを使っている」という心のワクワク、つまり情緒的な価値を高められます。さらに周囲に向かって環境問題に熱心であることを示すことが出来るため、ファッションの楽しみの一つでもある自己表現欲を満たし、地球環境の保全に自分も参加しているという社会的なベネフィットも得られます。こうした顧客に与える高い満足感はブランド・リレーションシップの構築にも大きなチカラになります

内田キャスター:
ブランド・リレーションシップとはどういったものですか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
マーケティングでは企業と顧客の心理的な結びつきや絆のことをブランド・リレーションシップといいます。例えば「このブランドは私のためにある」 「このブランドは私という人間を表す」など、ここまで顧客に思ってもらうと、いわゆる上顧客、熱心なリピーターになってくれます 。多くの企業では、実は上位2割の熱心なリピーターが売上げの8割を生み出しているのです。地球への優しさをまとうことはブランド・リレーションシップを構築する上でも有力なキーワードになっています

内田キャスター:
新たな素材への取り組みはコスト面などの課題もありますが、エコとファッションの両立に正面から取り組むブランドはその姿勢が支持され、結果的にファンを増やし、顧客との強い絆が生まれるのかもしれません

(「Live News α」6月9日放送分)