岸田首相は、6月10日からシンガポールで開催されるシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)に出席し、基調講演を行う。

アジア安全保障会議に日本の首相が出席するのは、2014年の安倍元首相以来、8年ぶりとなる。

ウクライナ侵攻を続けるロシア、海洋進出を強める中国、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮。

岸田首相は、5月に行った日米首脳会談、日米豪印4カ国によるクアッド首脳会合に続いて、日本を取り巻く厳しい安全保障環境について訴える方針だ。

日米・クアッド後に挑発行動が活発化

「因果関係を説明するのは難しいが、挑発的な行動と見ている」

外務省関係者がこう指摘するのは、日米やクアッドの会談後の中国、ロシア、北朝鮮の行動だ。

5月24日、中国軍の爆撃機4機とロシア軍の爆撃機2機の計6機が入れ替わりながら、沖縄本島と宮古島の間など含む、東シナ海から太平洋にかけての長距離を共同飛行しているのが確認された。

日米豪印クアッド首脳会合は5月24日に行われた
日米豪印クアッド首脳会合は5月24日に行われた
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クアッド首脳会合開催当日の行動で、岸防衛相は「開催国の我が国に対する示威行動を意図したものだ」と両国を非難した。

政府関係者は「中露の共同演習はこれで4回目。これまで1年間隔だったが、今回は半年間隔だった。そういうことも踏まえるとこちらを意識しているのは間違いないだろう」と指摘する。また爆撃機には戦闘機の「護衛」が付くことがあるのだそうだが、今回はなかったことも、示威的な行動であることを示していると言える。

そして翌25日、北朝鮮は今年に入り16回目となるミサイル発射を行った。日米首脳会談やクアッド首脳会合で北朝鮮の「完全な非核化」に向けた連携を確認した直後の挑発行動で、「バイデン大統領の来日中はインパクトが強く控えたのだろう」(政府関係者)との見方がある一方で、別の関係者は「最新の分析ではICBMはアメリカまで十分届く。当然、日本にも十分届く。そして射程が短いものは韓国。それなりの揃えた打ち方をしてるんだなと思う」と分析する。

「日曜報道 THE PRIME」に出演した自民・小野寺安保調査会長(5月29日)
「日曜報道 THE PRIME」に出演した自民・小野寺安保調査会長(5月29日)

29日に「日曜報道 THE PRIME」に出演した自民党の小野寺五典安保調査会長は「ロシアと中国の爆撃機が日本の周囲を回って、日本を威嚇した翌日に北朝鮮がミサイルを撃ってきている。一番嫌だと思うのは、中国とロシアが組んで、そこに北朝鮮も一緒に組むとなった時には三正面になる。連動した動きで撃ってきた。嫌な印象を持っている 」と警戒感を示した。

東アジア情勢の安定のためには、クアッドに加えて日米韓3カ国の関係構築も重要だ。

日米韓の連携が重要も…

バイデン大統領はアジア歴訪で日本、韓国それぞれの首脳と会合を行った。

バイデン大統領と尹錫悦大統領(ソウル・5月21日)
バイデン大統領と尹錫悦大統領(ソウル・5月21日)

これまで一向に進む気配がなかった日韓関係の改善についても指摘し、3カ国で連携することの重要性について話し合われた。

ミサイル発射を繰り返す北朝鮮について、クアッドでは、新型コロナ感染が深刻化しているとして「地理的空白を作らない」、つまり、新型コロナの感染収束を世界全体で考えれば、地理的な空白を作らず国際社会が連携していくという観点から、北朝鮮に対して必要であればワクチン供与などの支援を行うことについての議論もあったことを岸田首相が明らかにしている。

しかし、北朝鮮へのワクチン供与について、関係者は「ワクチンがたとえ供与されたとしても関係ない。むしろ“人民に施しをしてくれているにも関わらず米国の圧力にも屈しない金正恩様”と思う」と話し、北朝鮮へのワクチン供与は却って金正恩体制の強化につながることへの懸念を示す。

日米首脳共同会見(5月23日)
日米首脳共同会見(5月23日)

また、バイデン大統領が日米共同記者会見で、台湾が中国から侵攻された場合の軍事関与を肯定したことについて、「対中懸念呼びかけの働きが実を結んでいる証拠」(政府関係者)と評価する一方で、中国は反発を強めている。

アジアに「千里同風」の風を…

首相周辺は一連の対面外交を「『自由で開かれたインド太平洋』を世界に発信する非常にいい機会であり、個人的な信頼関係も非常に強まった」と評価する。しかし一方で「ウクライナ侵攻に終わりが見えない中で外交の“継続”が不可欠だ」と気を引き締める。連携を確認したはずの韓国も、竹島周辺のEEZ=排他的経済水域内で、日本に事前の申請もなく海洋調査する事案も発生したばかりだ。

バイデン大統領へのおもてなしとして訪れた八芳園には「千里同風」という掛け軸があった。

5月23日 日米首脳夕食会(内閣広報室撮影)
5月23日 日米首脳夕食会(内閣広報室撮影)

「千里同風」は中国の古典からの言葉で、遠く離れた土地でも同じ風が吹くという意味で、転じて、世の中がよく治まっていて平和であることなどをいう。

10日からシンガポールで開催されるシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)には、ロシアや中国への対応で温度差がある国々が出席する。中国からは魏鳳和国防相が参加する。

政府関係者は「ロシアのウクライナ侵略が続く中、日本の首脳が基調講演でメッセージを出すことは大きい」と強調する。

岸田首相が、アジアで「千里同風」の風を吹かせることができるのか。政府関係者は「岸田政権の節目だ」としている。

(フジテレビ政治部 総理番記者 長島理紗)