パイロットが異変に気づいたのは、墜落の2秒前だった。
2022年1月に石川県小松沖で航空自衛隊小松基地所属のF-15戦闘機が墜落した事故。あれから約4カ月、航空自衛隊が事故原因を発表し、地元に説明した。
事故から約4カ月…事故原因を発表

この事故は、2022年1月31日夕方、航空自衛隊小松基地の飛行教導群(通称:アグレッサー部隊)に所属するF-15戦闘機が、離陸からまもなくして基地から西北西約5キロの日本海に墜落。乗っていたパイロット2人が死亡した痛ましい事故だ。6月2日、航空幕僚監部は、事故から約4カ月にして原因を発表した。

井筒俊司航空幕僚長:
事故機の前席および後席操縦者が、空間識失調等に陥ったため、気づくのが遅れ、回復操作を行ったものの間に合わず墜落に至ったものと推定しました

井筒幕僚長はこのように述べ、事故の原因は機体本体の不具合ではなく、パイロットが2人とも、操縦している機体の姿勢や位置などが把握できなくなる「空間識失調」に陥ったことが墜落の原因と推定したという。
事故原因とみられる「空間識失調」とは?

「空間識失調」とは、パイロットが気象条件などの影響を受け、機体の高度や進路、姿勢などを正しく認識できなくなる現象だ。飛行経験は関係無いとされ、天候不良や夜間に起きやすいと言われている。

FDR(フライト・データ・レコーダー)の解析の結果、機体やエンジンのデータはほぼ異常は無かったという。さらに海上などから見つかった機体の破片なども解析したところ、空中で爆発したような形跡は見られなかったという。

離陸してからFDRのデータが止まるまでの時間はわずか53秒。墜落の19秒前から傾きはじめ、機体を回復しようとしたのは墜落のわずか2秒前。短い時間の中で状況が推移し、墜落に至ったことも明らかになった。

そのFDRを分析したところ、パイロットは機体の姿勢が正常ではないのに、操縦かんをそのまま握っていたという。このため、パイロットが気象条件などの影響を受け、2人とも空間識失調に陥り、この姿勢が正常だと認識していたとみられる。

なぜなら墜落する2秒前まで、機体を正常に戻そうとする動作がなかったからだ。さらに海中から回収した脱出用のシートを確認したところ、脱出を行った形跡はなかった。

事故の発生時刻は午後5時半頃、日没の薄暗い状態で、高度約150メートルで雲に入り、水平線が見えない事から、空間識失調に陥りやすい条件だったと言う。

F-15が墜落した時の速度は、時速約720キロ。まっすぐ突っ込んだわけではなく、右翼側から落ちたとみられている。墜落する2秒前に、異常に気づいたとしても、機体を正常に戻したり、緊急脱出用のレバーを引くこといとまはなかったと関係者は話している。
管制官の見た「オレンジの炎」は?
もう一つ、疑問がある。機体の不具合がなかったのであれば、あの時、管制官が見たというオレンジ色の光とは何だったのか。当時、管制官は次のように証言したという。
管制官:
2機が上がってしばらくしたところ、オレンジ色の光を見た

このオレンジ色の光。航空自衛隊が、さまざまな分析をした結果、F-15戦闘機が海面に衝突した時に起きた炎だったと判断した。
離陸してすぐ雲の中に入り上昇したF-15戦闘機。機体が異常に傾き、高度も下がっていたにもかかわらず、空間識失調の影響で立て直すのが間に合わず、そのまま墜落したと見られる。
井筒俊司航空幕僚長:
貴重なパイロットを2名失ったということを大変重く受け止めており、痛恨の極みであります。今回のような事故が2度と起きないよう、引き続き再発防止策を徹底し、国民の皆様に安心感を持って頂くべく、航空機の安全な運用に万全を期して参ります

再発防止へ…小松基地司令が地元に説明
2日午後、航空自衛隊小松基地の石引大吾司令は小松市役所を訪れ、今回の調査結果を報告した。
石引司令:
調査結果を報告に来ました

報告を受けた宮橋市長は…
宮橋勝栄市長:
基地周辺住民の安心安全を確保することが最重要と考えているので、機体の点検や隊員の教育・訓練など、飛行の安全管理を徹底していただいて、このような痛ましい事故がないよう万全を期して欲しい

航空自衛隊によるとF-35戦闘機には空間識失調に陥っても自動的に回復するプログラムが搭載されているが、F-15戦闘機には搭載されていないという。

再発防止に向け、航空自衛隊は「空間識失調」に関する教育や訓練を強化すると共に、今回の様な事故を回避するシステムの研究・開発を進めF-15への登載を目指すと言う。
(石川テレビ)