狩猟用のわなメーカーのパイオニアとして、全国的に知られる男性がいる。

農作物を食い荒らすイノシシなどに対抗するための鳥獣対策用のわなに、誤って別の動物がかかる「錯誤捕獲」が問題となっていて、これを解決するための「わなの技術」を開発し、注目されているのだ。

趣味が高じ…わな専門メーカーに転身 全国的に知られる存在に

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
(はく製のクマを指して)これもみんなわたしが捕った。北海道に1回行くと、何頭捕ったかなというくらい捕ってきた。行くたびに5~6頭捕ってきた

和田社長が捕ったというはく製のクマ
和田社長が捕ったというはく製のクマ
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佐賀県鳥栖市で、鳥獣対策用のわなメーカーを営む和田三生さん(76)。部屋に飾られたはく製のクマやイノシシは、全て和田さんが作ったわなで捕まえたものだ。

20歳のころに趣味として狩猟を始めた和田さんだが、わなにのめり込んだきっかけは、雑誌に載っていた広告だった。

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
「狩猟界」という専門雑誌があって、イノシシが簡単に捕れるような宣伝があって。それを買い求めて、実際、山に仕掛けてみたけど、1頭も捕れなかった

家族で経営していた工作機械の工場にあった設備を使って、わなを作り始めた和田さん。趣味が高じ、1981年にわなの専門メーカーとしての事業を開始した。

これまで、箱わなや足をワイヤーでくくる「足くくりわな」を中心に作ってきた。わなメーカーのパイオニアとして全国的に知られる存在となったが、最近は課題も出てきたという。

「錯誤捕獲」を防ぐわな 動物の大きさや重さの違いで反応

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
よく話題というか、問題になるのが錯誤捕獲

錯誤捕獲とは、イノシシなどのわなに、誤って別の動物がかかることだ。ツキノワグマを絶滅危II類に指定している山口県によると、ツキノワグマの錯誤捕獲数は2017年には7頭だったが、年々増えていき、2021年は35頭となっている。

本来であればわなから外して逃さなければならないが、クマの場合は危険をともなうため、多くが殺処分となる。人の安全とクマの保護の両立が課題となる中、和田さんが作ったのが、特殊な足くくりわなだった。

田中良宜リポーター:
わたしの足元には実際にわなが仕掛けられているんですが、わたしが歩いても一切反応しません。ですが、わたしのこぶしほどの大きさの足裏を持つイノシシが踏むことで、わなが反応するようになっています

こぶしで押すとわなが反応
こぶしで押すとわなが反応

リポーターがわなの上を歩いても反応しなかったが、こぶしで地面を押すと、わなが反応した。
このわなは、動物の足の大きさや重さの違いを利用して、クマのような大きな足裏を持つ大型獣には反応しないようになっていて、おとなのイノシシやシカなどを狙って捕獲することができる。

実際に、わなを設置した場所の監視カメラを見せてもらった。タヌキや子どものイノシシがわなの上をうろついても反応しない。しかし大人のイノシシが通ると、わなが動き、かかった。

大人のイノシシにはわなが反応(提供:和田三生さん)
大人のイノシシにはわなが反応(提供:和田三生さん)

40年前から講習会、8000人以上指導…「正しく取り組み」共存目指す

イノシシによる佐賀県内の農業被害は、年間に1億3,400万円(2020年)に上る。農作物を食い荒らす動物を確実に捕るためには、正しくわなを扱える人材の育成が必要だとして、和田さんは長年、講習会にも取り組んでいる。

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
単に誰がわなをかけても、何回もチャレンジして捕れるかというと、そういう世界じゃない。そのためには勉強の場を作って、農家が安心して生産できるように

和田さんは40年ほど前から、わなの設置から獲物の回収、食肉化といった活用方法までを全国各地の自治体や猟の初心者などに指導。これまでに指導した人は8,000人以上に上る。

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
できるだけ手でやらずに。こういうスコップを使ってやるというのは、わなに、においをつけないため

この日は、宮城県で鳥獣対策の会社に勤める男性が指導を受けに来ていた。

宮城県からの受講生・永田陽介さん:
初心者の狩猟者に対して捕獲を教えて、鳥獣対策に導いていくことをしている。わなを踏ませる技術というのはなかなか勉強できない

今回の指導は4日間。和田さんがつきっきりで指導する。

宮城県からの受講生・田陽介さん:
技術を教えるということは本当に大事なことで、人間との共生をしっかりしないといけない。捕獲と被害対策はつながってくる

わなメーカー「三生」・和田三生 社長:
共生とか共存という言葉がピタッと合う。そういう世界を築き上げるには、正しく取り組む人を多く増やすのが僕の目標。そういう人たちの成長ぶり、活躍ぶりを見るのが楽しみ

(サガテレビ)

サガテレビ
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