企業の採用試験で、今、導入が進んでいる“新たなテスト”があるのをご存じだろうか?
VISITS Technologiesという会社が開発した「デザイン思考テスト」だ。
採用試験や人材育成などの目的で、2022年3月時点で、「パナソニック」や「NTT西日本」など大手企業を中心に200社以上がすでに導入し、17万人以上が受検している。
事業を創造していく力を測定するためのテストというが、この「デザイン思考テスト」とは、具体的にどのようなテストなのか?
「デザイン思考テスト」を企業などに提供している、VISITS Technologiesの担当者に話を聞いた。
「本質的な課題を発見し、解決策を考え出すことができる力」を数値化
――「デザイン思考テスト」とは何?
「デザイン思考テスト」とは特許アルゴリズムであるコンセンサス・インテリジェンス技術(CI技術)を用い、これまでのアセスメントツール(=組織における人員配置や異動、採用などに活かすために従業員の特性や能力を測定するためのツールのこと)では定量的に可視化できなかった「本質的な課題を発見し、解決策を考え出すことができる力」を数値化するアセスメントツールです。
これにより、今後のビジネスパーソンに必須の能力を持った人材を効率的に発掘したり、能力の変化の測定が可能なため、採用やプログラム前後の効果測定などで用いられています。
このアセスメントは、「創造セッション」と「評価セッション」の2つからなり、制限時間はそれぞれ30分です。
前半の「創造セッション」では、ユーザーの置かれた状況を設定し、ユーザーの気持ちになり叶えたい願望、すなわち潜在的な課題を記入します。
次にその課題を解決するための特定のデジタル技術を選択し、解決策を出します。
後半の「評価セッション」では、他の人が出したアイデアを課題への共感度、未実現度、新規性、実現可能性、4つの観点で、4段階で評価します。回答後、これらの結果がニーズ発見力、ソリューション創出力、ニーズ評価力、ソリューション評価力の四つの観点から自動でスコアリングされます。
――「創造セッション」では、どのような問題が出題される?
前半の「創造セッション」では…
(1)回答者が、ユーザーの置かれた状況を選択し
(2)ユーザーの立場になって彼らの抱える課題を想像し、その課題を回答します。
(3)さらに、選択肢にあるデジタル技術を選択したのち
(4)課題を解決するためのデジタル技術活用アイデアを回答します。
問題の一例を紹介
よりイメージがわくように担当者の回答に沿って「創造セッション」の問題と回答の一例を紹介する。
(1)「Who」「Where」「When」選択式でユーザーの置かれた状況を選ぶ(それぞれ以下5つの中から選択)
・Who 話し好きな 「会社員」「父親」「おじいさん」「大学生」「警察官」
・Where 近所の 「駅」「オフィス」「スポーツジム」「飛行機」「自転車」
・When 急いで 「寝ている時」「音楽を聞いている時」「仕事をしている時」「逃げている時」「走っている時」
話し好きな父親 近所のスポーツジム 急いで走っている時 を選択
(2)Why(Whoの叶えたい願望)を記述
人間ドックを控えたメタボ気味の中年男性は、家族や職場の悩みを共有できるジム仲間が欲しい と回答
(3)What(Whyを解決するためのモノ)を選択式で選ぶ(それぞれ以下5つの中から選択)
・「運動を」「履歴を」「会社を」「玄関を」「音楽を」
・「分かりやすくする技術またはデータ」「拡大する技術またはデータ」「共有する技術またはデータ」「縮小する技術またはデータ」「簡単にする技術またはデータ」
履歴を共有する技術またはデータ を選択
(4)How(解決アイデア)を記述
同じジムの利用者で目標を共有するパートナーを設定する(後略) と回答
特許アルゴリズムで自動スコアリング
――「評価セッション」では、どのような問題が出題される?
後半の「評価セッション」では、他の人が出したアイデアを、「課題への共感度」や「課題の深さ」、「解決策の新規性」や「実現可能性」といった観点で、4段階評価を行います。
――このテスト、どのような基準で点数を付ける?
回答後、相互評価時の目利き力など様々な要素を加味し、これらの結果が特許アルゴリズムで、自動でスコアリングされます。
算出されるスコアは、ニーズ発見力・ソリューション創出力、ニーズ評価力・ソリューション評価力の4つ(各100点)と、総合スコアであるデザイン思考力の合計5つです。
「パナソニック」や「NTT西日本」など大手企業が導入
――「デザイン思考テスト」の提供を始めたのは、いつ?
2019年3月にリリースしました。
――「デザイン思考テスト」を提供している会社は他にもある?
弊社のサービスですので、提供している会社はございません。
ただし、他社様と共同開催でイベント的にテストを実施することはございます。
――現時点でどのぐらいの数の企業が導入している?
大手企業を中心に200社以上の使用実績があります。
すでに大手総合商社やコンサル、大手電機メーカーなど、採用や人材育成領域を中心に使用実績があります。
具体的な企業名としては、「日清食品ホールディングス」「パナソニック」「キヤノンマーケティングジャパン」「関西電力」「NTT西日本」「小学館」などです。
――導入している企業、どのような業種が多いなど、傾向はある?
新卒採用、中途採用、共に幅広い業種での導入がありますが、新しい考えの必要性や、新規ビジネス創造への課題意識が高い企業様が多く、メーカー、エンタメ(出版社など)、商社などは代表例となっています。
――導入した企業からは、どのような声(感想)が届いている?
「デザイン思考テストの高スコア人材は実際に会っても優秀だった」「採用が大幅に効率化された」「新しい事業に取り組む革新的企業というブランディングが出来た」といった声をいただいています。
――このテストを受けた就活生からは、どのような声(感想)が届いている?
「答えがないテストなのであまり経験がないがおもしろかった」「新しいアイデアを考える体験が出来てよかった」「SPI等と違って、対策が難しい」「繰り返し受検することで能力の伸びを実感できた」といった声が届いています。
――企業や就活生からの声をどのように受け止めている?
定性的なフィードバックから、テストのスコアと能力との相関関係があると確信しています。
事前に準備をすることで高得点がとれるような一般的なテストとは違い、いわゆる地頭の良さのようなものを計測できる新たな評価指標として、社会に広がっていくことを目指しています。
「素養・能力が客観的に測れるようになります」
――従来の採用試験では測ることが難しかった能力が、このテストによって測れるようになるということ?
従来は面接官の目利きに頼り、評価していた素養・能力が、客観的に測れるようになります。
――「デザイン思考」は仕事をしていくうえで、どのようなことに役に立つ?
「デザイン思考」の特徴的な点は、“問題解決”をするだけではなく、その前の“課題設定”が非常に重要というところです。
様々なビジネスのシーンにおいても、顕在化している問題に対し、すぐに出来そうな解決策に飛びつくのではなく、発生している問題の背景にある真の課題は何かと言うことを注意深く観察した上で、問題解決をする考え方は非常に重要です。
時代的な背景としては、従来、日本の企業活動では決まった課題に対して、解決策を上手く実行出来る人達が求められており、一部の経験豊富な人の経験則に基づき、課題を抽出し、多くの人で課題を解決することが企業の競争優位に繋がっていました。
ところが、決まった課題解決の多くをAI(人工知能)が代替して正確に、素早く実施できるようになり、人間にはより創造的な仕事が求められるようになってきています。
変化スピードが早く、答えが分からない世の中になるにつれて、どのような社会価値創造に従事するにあたっても、自ら課題を発見し、解決策を作り出す力が新規ビジネスなどに限らず、あらゆるビジネスシーンで役に立つ能力だと考えられています。
大手企業など200社以上がすでに導入している「デザイン思考テスト」。
今後、導入する企業が増え、採用試験の主流になったら、就活生は「デザイン思考力」を磨く必要が出てくるということになる。
担当者が語るように、AIに任せられる領域が増えてくると、企業が採用する人材の傾向も変わっていくのかもしれない。