東京都は首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直した報告書を25日に公表した。最大被害は品川区や大田区など都心南部を直下とする地震で、震度6強以上の範囲は23区の6割以上に達するとしている。死者数の想定は最大でおよそ6100人で、前回の想定からおよそ3500人減少した。
この記事の画像(7枚)これは建物の耐震化、不燃化が進み、地震による倒壊や火災による被害想定が減少したことによるもので、この10年間の耐震基準を満たしていない木造住宅の集合住宅への建て替えや主要道路の拡幅、家具の落下防止対策など行政の防災対策、人々の防災意識の向上によってもたらされたものといえる。
一方、今回の想定では初めて、地震、火災による直接被害だけでなく、発災直後から数日間、1週間、1ヶ月以降に起こり得る災害のシナリオを項目ごとに時系列で示した。
例えば電力や上下水道、通信、鉄道などの生活に欠かせないインフラ、ライフラインでは発災翌日までは停電、断水が続き、3日後以降も計画停電は続き、復旧も限定的になる。また集合住宅では排水管の損傷などで水道が再開してもトイレが使えない期間が1週間以上、続く可能性がある。
通信も基地局の電源不足や一斉利用により、携帯電話やメールの不通は3日経っても続き、交通は1週間経っても新幹線や在来線、私鉄、地下鉄の運休、道路の交通規制が続く可能性がある。
また住宅倒壊や火災による被害は免れても、集合住宅などでは電気、水道、トイレが使えず、避難所に行ったとしても慣れない生活環境が続き、特に高齢者や既往症を持つ人の症状が悪化して死亡する「震災関連死」の増加が懸念されている。実際、阪神大震災や東日本大震災でも震災関連死が顕在化した。
避難所の生活も約1400万人の人口を抱える東京では、発災直後は都民だけでなく神奈川、埼玉、千葉県などから通勤している帰宅困難者も避難所に援助を求めることが想定され、住民同士のつながりが希薄な地域では避難所の運営が混乱するおそれもある。
また長期化すれば避難者のストレスは増え、生活習慣が異なる外国人の精神的負担やペットをめぐるトラブルなど都会ならではの問題も想定される。
都心部に数多くある中高層マンションでは長周期地震動による家具の転倒による直接被害だけでなく、長期のエレベーターの停止で地上と行き来できず、生活ゴミが回収されないことなどで衛生状態も悪化し、備蓄がなくなれば居住し続けることが難しくなり、居場所の確保や体調管理の問題も懸念される。
こうした時系列による様々なシナリオ想定を確認することで、建物の耐震化で直接被害は免れたとしても、その後の長期化する避難生活での自分を取り巻く環境の変化をあらかじめ想定しておくことができる。
電車や車でどこに行くにも便利で、スマホやSNSで必要な情報を得られ、自宅にいながら食事や買い物もできる生活が当たり前となっている東京では、被災後に一変する不自由さに耐えるための心と生活の準備が必要といえる。
(関連記事:東京都 首都直下地震の被害想定を10年ぶり見直しへ キーワードは“被災後の生活維持”と“震災関連死の防止”)
【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】