2022年の沖縄県の梅雨入り発表は5月4日と、過去10年間で最も早くなった。東北南部の梅雨入りは6月上旬ごろで、梅雨期間は4日以上短くなるとみられている。
一方、雨量は平年並みで、東北地方では前線の活動が活発化する6月下旬から梅雨末期にかけて、大雨に注意が必要と予報されている。
この記事の画像(14枚)「いつ・誰が・何をするのか」詳細な避難計画
2021年7月には梅雨末期のような大雨により、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生。死者・行方不明者は、28人に上った(災害関連死の1人含む)。
東京大学客員教授・防災マイスター 松尾一郎さん:
2022年は台風1号の発生が4月上旬でした。進路が秋口の台風のように、北上する中で成長した。こういう台風はこの時期には非常に少ない。数十年ぶりのことでないかと思います。さらに大雨のバロメータである海面水温が高いままなんです。特徴的なのは、ここ数年ずっと東北沖合は過去30年平年よりも2~3℃高い。これから大雨になりうる環境にあると思う
洪水が起きやすい「出水期」が迫る中、犠牲者ゼロに向けてカギを握るのが事前の防災計画「タイムライン」だ。
タイムラインとは、台風の最接近などで災害が最も起こり得る時間までの間に、「いつ」「誰が」「何をするのか」を「数日前」「24時間前」「最接近」など細かく時間を区切り、避難行動を予め決定し、犠牲者ゼロを目指すもの。
東京大学客員教授で「防災マイスター」の松尾一郎さんは、8年程前からタイムラインを提唱してきた。
東京大学客員教授・防災マイスター 松尾一郎さん:
2013年にニュージャージー州の危機管理局を訪ねた時に見つけたんです。ハリケーン・サンディでは4000世帯が全壊・半壊の被害が出たが、タイムラインを使い人的被害はゼロだった。日本では2014年、三重県紀宝町に最初に持ち込んで策定し、いま全国160市区町村でタイムラインが整備されています。確実に先を見越して防災対応をするという文化を作れたと思うし、実際に運用している市町村では多くの命を救った。2020年7月の豪雨、熊本県球磨村では、自治会・町内会でこのタイムラインを使って100人以上が早めに避難した。結果的に命を守ったと思っています
紀宝町では36回活用 タイムライン推進へ初会合
そのタイムラインを全国に普及させようと、東京で初めて関係者を集めた会議が開かれた。
太田昭宏 元国土交通相:
明らかに災害が広域化し、激甚化し集中化している。レベルが変わっている
タイムラインに取り組む自治体や専門家など、34人が出席した「タイムライン防災・全国ネットワーク国民会議」。タイムラインを柱にした防災対策の推進などを目的に、5月10日に東京で初めて開かれた。
現在、全国の自治体で策定が進んでいるが、2014年に自治体として全国で初めて取り入れたのが三重県紀宝町だ。
紀宝町ではこれまで36回、大雨の際などにタイムラインが活用され、自主防災組織を始めとした地域住民にも早めの避難行動が浸透している。
この経験を活かし、国民会議では議長としてさらなる普及を目指すことになった。
紀宝町・西田健町長:
タイムライン防災を広くPRし、日本全国に浸透し充実させていくことが務めだと思っています。これからも皆さんと力を合わせて、しっかりと活動して参りたい
会議ではタイムラインを有効に活用するために、地域防災に通じたマンパワーの育成や拡充などを盛り込んだ決議を採択。国による財政支援などを要望した。
「タイムラインを確実に使えば命を守れる」
東京大学客員教授・防災マイスター 松尾一郎さん:
一番重要なことは、タイムラインを作ったら終わりではないんです。作ってそのままにしている自治体などもあると思います。せっかく作ったタイムラインを使い続ける癖を付けることが重要です
福島県内の自治体は現在メンバーに入っていないが、国民会議は今後、研修会を開くなどして広く参加を呼びかけていく方針。今回の立役者の1人である松尾一郎さんは、この国民会議に何を期待しているのか?
東京大学客員教授・防災マイスター 松尾一郎さん:
タイムラインは確実に使えば命を守れます。火山災害や津波、新型コロナ対策のタイムラインを作っている自治体もあります。これはまさに命を守る取り組みです。実際に広めていくには、地域でタイムラインを普及していく人も必要ですし、自治体にアドバイスをできる専門家も必要。そういう人を育てていくことも必要になります。今回、34の市区町村長と国の機関が集まった。加えてこの会議の翌々日には政府に決議文を届けました。これが結果的に市区町村の財政支援・人的支援に繋がっていく。日本の防災の文化を変えていきたいと思っています
福島は全国最下位 タイムラインの策定状況
2014年に三重県紀宝町から始まり、現在は国管理河川の流域にある730市町村すべてで策定。都道府県管理河川では、流域の1169市町村のうち、93%にあたる1091市町村が策定している(2021年6月時点)。
しかし、福島県の場合は全国平均の半分以下の44%で、全国で最も低くなっている。
福島県の担当者は、「2019年に発生した東日本台風の被災対応が影響している。整備を後押ししていきたい」としている。
――福島県の状況をどのように受け止めている?
東京大学客員教授・防災マイスター 松尾一郎さん:
もっと仲間を増やしていきたいと思っています。今後、国土交通省は流域タイムラインを作り始めます。福島県では阿武隈川の上流域ですね。2019年の東日本台風では、阿武隈川本川と支流の氾濫が相次ぎ、被害をもたらした。まもなく雨が降り始めます。あまり悠長なことは言っていられないので、取り組みを進めていきたいです
(福島テレビ)