「ヒッチハイク」でウクライナ支援予算が成立?
米議会で可決したウクライナ支援のための400億ドル(約5兆2000億円)の予算案を、バイデン大統領が訪問先の韓国で署名するという異例の手続きで成立させ、ウクライナ情勢が急を告げていることをうかがわせた。

ウクライナ支援のための追加予算は5月10日に下院で可決され、上院でも超党派の支持で可決される見通しだった。しかし野党共和党内に「インフレが懸念される時に、その余裕はない」という反対論があって採決が遅れ、可決されたのは19日になってからのことだった。
予算案を成立させるためには大統領の承認の署名が必要だが、バイデン大統領はその19日にアジア訪問の旅へ出発していた。

本来なら大統領が帰国するのを待つところだが、今回はホワイトハウスのスタッフが予算書を携えて民間機で後を追い、21日夜ソウルで大統領の署名を得るという異例の手続きを経て成立させた。
これを伝えた19日のAP電は「ウクライナ支援がバイデンをソウルまでヒッチハイク(通りすがりの車などに便乗させてもらうこと)で追った」と揶揄した。
一方、ウクライナでは、マリウポリの製鉄所に立てこもって抵抗していたウクライナ兵が投降して、戦局は新たな段階を迎えたと言われており、法案の成立に一刻の猶予もないという判断があったようだ。

ウクライナ支援予算の中身
それはこの支援策の中身を見れば理解できる。
400億ドルの内110億ドル(約1兆4300億円)は、対戦車ミサイル「ジャベリン」5500発、対空ミサイル「スティンガー」1400発、さらに155ミリ榴弾砲弾18万4000発などをウクライナへ急送する費用が含まれている。(ニューヨーク・タイムズ紙電子版19日)

いずれも、今後ドンバス地方で展開されると予想されるロシア軍との正面衝突の決戦に不可欠とされる兵器ばかりだ。
ウクライナ軍の反転攻勢で最終決戦間近?
ウクライナのオレクシー・アレストビッチ大統領府長官顧問は5月初め「欧米から提供される武器が5月下旬から大量に届き、6月中旬以降ウクライナ軍が反転攻勢を始める」と語っていた。
またウクライナ国防省情報局長のカイライロ・ブダノフ少将は「戦局は8月に転機を迎え、今年末までには(ウクライナの勝利で)終わる」と5月14日英国のスカイ・ニュース・テレビに語っている。
つまりウクライナ軍は、欧米から届く武器を頼りに6月から攻勢を強めて一気にロシア軍を駆逐する作戦を計画し、今はその準備の最終段階と考えられる。

そうした時期に、大統領の日程の都合であっても米国からの武器供与が遅れることは許されなかったわけだ。
逆に言えば、ウクライナ紛争の行方を決する最終決戦は間近いということだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】