ポイント①「テニス“ビッグ3”のジョコビッチ下位選手を救う身を削ったアイディアがすごい」

新型コロナウイルスの影響でプロテニスツアーがシーズンの途中で中断してしまっていることを受けて、男子プロテニス協会(ATP)や女子テニス協会(WTA)、国際テニス連盟(ITF)、四大大会(グランドスラム)が共同声明を出し、特にランキング下位選手を対象とした救済プログラムを立ち上げることが発表された。

実はこれ、テニス界の“ビッグ3”と呼ばれる、世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(32・セルビア・写真中)、同2位のラファエル・ナダル(33・スペイン・写真左)、同4位ロジャー・フェデラー(38・スイス・写真右)らとの“雑談”がきっかけだった。

ラファエル・ナダル(33) 、ノバク・ジョコビッチ(32)、ロジャー・フェデラー(38)
ラファエル・ナダル(33) 、ノバク・ジョコビッチ(32)、ロジャー・フェデラー(38)
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選手会の会長も務めるジョコビッチは、賞金による収入が絶たれてしまった世界ランク下位の選手のために盟友のナダル、フェデラーとともに話しあい、支援策を検討。

さらに友人でもありライバルでもある、スタン・ワウリンカ(35)とのインスタグラムのライブ配信の中では「世界ランク200位~1000位までのほとんどの選手には協会の支援もないしスポンサーもいない。彼らは完全に孤立し見捨てられているんだ」と、下位の選手の待遇を気にかけたうえで、「彼らはテニス界の“草の根”であり、テニス界の“未来”だ。僕たちは団結して彼らを支えなければならない。『忘れてはいないよ』と彼らに伝えないといけないんだ」と語り、上位選手の獲得賞金を救済基金に移して、下位の選手に分配して支給するアイディアを明かした。

シーズン中断前の2月に、全豪オープンで8度目の優勝を果たしたジョコビッチは自身が持つ最多優勝回数を更新し、四大大会で通算17個目のタイトルを獲得。優勝賞金412万豪ドル(約3億円)を手にした。32歳まで積み重ねたキャリアの中で得た生涯獲得賞金は、140億円以上とも言われる超一流プレーヤーだ。そんな“持てる者”であるジョコビッチは“持たざる者”である、下位選手たちのことを、決して忘れてはいない。

具体的な策はまだ決まっていないものの、選手と男子プロテニス協会(ATP)、四大大会(グランドスラム)が「選手の救済基金を設立しATPが分配する」形で300万~450万ドル(約3億2300万~4億8400万円)を選手たちに分配することができると試算している。

ポイント②「ジョコビッチらの支援に、日本のトッププレイヤー・ダニエル太郎も感謝」

ジョコビッチらのアイディアについてリオ五輪日本代表のダニエル太郎(27)に意見を聞くと、テニス界に身を置くものとして感じる現状への不安、そして、それを改善しようと行動するジョコビッチへの感謝の思いを語ってくれた。

ダニエル太郎:                                

「ジョコビッチのアイディアは素晴らしいと思います。彼らが手伝おうとしてくれている250位以下の選手たちの中には、このままではテニスを辞めないといけなくなる選手もでてきてしまうほど、厳しい状況になっている。」

さらに、「獲得賞金」が主な収入となるプロテニス界において、世界ランク112位である自身の賞金収入を明かしてくれた上で、プロテニス界の厳しいシステムついても言及した。

「だいたいこの2年間位の平均としては、1年に20~30万ドル(約2200万円~3300万円)くらいを得ています。仮に25万ドル(約2750万円)として、その中から飛行機代やコーチ代は全部自分で払わないといけないので25万ドルから必ず10万ドル(約1100万円)は削られていると思います。また、コーチの経験値によって値段も変わる。トレーナーもつければもっと費用はかかる。トップ選手の経費は絶対に1億円に達しているはず。100位以下の選手はコーチを毎週つけるのは厳しいです。」

去年、国内で行なわれる唯一の男子テニスATPツアー「楽天ジャパンオープン」で初の準々決勝進出を果たした27歳。テニスプレーとして“食べていける”選手の一人だが、改めて言及したのは、プロテニス界の独特な賞金獲得方法が、他のメジャースポーツとは決定的に違うという点についてだった。

「1年でこれだけという契約があるサッカーやバスケなどのチームスポーツと違ってサラリー形式ではないので、大会が止まってしまうと収入が全くなくなってしまう。テニス選手は大会に出て、1回戦で、これだけのお金という形でもらう。勝つたびにだいたい、倍近くになっていく。ピラミッド形の賞金制度なので、試合に勝てずランキングが低くなっていくと収入がガクッ!と下がっていくスポーツですね。だから、他のメジャースポーツに比べると苦しい方だと思います。入ってきているお金が、今は全くないのでスポンサーのない選手は苦しんでいますね。」

シーズンが中断することで、自身の賞金収入も昨季と比べて大きく減ってしまったという。

1月~11月までのシーズンのうち、今季は1月~3月初旬までしか大会に出場できず、これまでに得られた賞金は昨季までと比べて25%程度。このままシーズンが再開されなければ「賞金収入」は、昨季の4分の1ほどになる見込み。ダニエル太郎自身は、スポンサーによる収入によって助けられているというものの、まさに“死活問題”ともいえる新型コロナウイルスによるシーズン中断。そんな中、テニス界全体の幸せを願うジョコビッチのアイディアに対しては一定の評価をした。

「300位〜400位の選手には本当に必要なお金だと思います。特に大学を出てきて昨季や今季から始めたばかりの選手だったり、30代で現役をギリギリ続けられるかという選手たちは、本当に今、危ないところに立っていると思います。そのお金をテニスには使えず、自分が生きていくためにしか使えない選手が多いと思うので、(ジョコビッチ選手のアイディアは)ホッとすると思います。どうにか“テニス界に生き残ってくれ”というものですね」

ポイント③「ダニエル太郎が考える、支援策の“その先”とはー」

ジョコビッチのアイディアは、自らも含めた上位選手の獲得賞金を集め、世界ランク250位以下の選手に1万ドル(約110万円)を配るというもの。

しかしながら、ダニエル太郎はいくら最高のアイディアでも、長い目で見た時の解決方法ではないとし、その先へとつながる支援に期待する。

「コロナによる中止がどれくらい長く続くかによって、また必要な金額は変わってくる。例えば1年続くと、300位の選手に1万ドルでは十分ではなかったとなるし150位の選手でも家賃払えなくなったり、50位とかの選手でも影響出てくるかも」と、「支援策が短期的なものにならないことが重要」だとした。

さらに実はトップ選手と下位選手の賞金の差が、プロテニス界の根本的な問題ではないかと指摘する。

ここが改善されない限り、また同じようなことが起こるのではないかと危惧し、“世界ランク112位”という立場だからこそ見える、テニス界が抱える問題の本質を今だからこそ改善してほしいと訴える。

また、コロナが終息した後もすぐにはツアーの再開は厳しいとの見方も示した。

「テニスの怖い部分はコロナが(収束して)大丈夫になり始めても、毎週毎週違う国に飛ばないといけないスポーツなので(他の競技に比べて)回復するのが遅いスポーツだと思います。状況が良くなっても、コロナへの恐怖感がゼロにならないとなかなか難しいですね。」

最後に語ったのは、それでも前を向くことの大切さ。再びコートの上に立つ日まで。

「今は他の選手と一緒に毎日毎日ニュースを見ながら、いつ戻れるんだろうという日々を過ごしているのですが、本当にみんなが過ごしている辛さを受け止めて、家の中やジムでトレーニングをしながら待機するしかないと思うのでできる限りのことをみんなで一緒に頑張って行こうと思います。」

(フジテレビ報道スポーツ部・村山尊弘)

村山 尊弘
村山 尊弘