宮城県は最大クラスの津波が押し寄せた場合の浸水想定を発表した。悪条件が重なった場合、浸水範囲は東日本大震災の津波の1.2倍の面積に及び、当時浸水しなかった場所や、かさ上げした市街地も浸水範囲に含まれる可能性が示されている。
この記事の画像(46枚)この想定は、県や沿岸自治体の防災担当者と有識者でつくる津波対策連絡協議会で明らかにされたもの。新たな想定は東北地方太平洋沖や日本海溝、千島海溝を震源とする巨大地震に伴う津波が、堤防の決壊や地盤沈下などの悪条件が重なった状況で発生した場合、最大となる浸水区域や水深を示している。
公表された想定の下では、気仙沼市本吉町で最大22.2メートルの高さの津波、浸水範囲については沿岸の15の市と町で、あわせて東日本大震災の1.2倍の面積が浸水すると示された。今後は各自治体の判断で、防災計画の見直しなどを行っていくことになる。
3つの地震モデルでシミュレーション
梅島三環子 アナウンサー:
まず、今回の津波浸水想定の公表までの経緯です。公表の背景には、東日本大震災後に施行された法律があります。
大山記者:
それが2011年12月に施行された「津波防災地域づくりに関する法律」です。東日本大震災を教訓に「何としても命を守る」を基本理念に定められたもので、この法律の基本指針として、まず各都道府県が「津波浸水想定」を設定し、公表することとしていました。
梅島三環子 アナウンサー:
東日本大震災を受けての法律ということですが、施行された2011年12月は、県内では震災の被害がまだまだ残っている時期ですね。
大山記者:
宮城県では最優先は東日本大震災からの復旧・復興でした。結果として公表のタイミングは、海に面する全国40の都道府県のうち、39番目の公表となりました。
梅島三環子 アナウンサー:
その各地域の浸水想定について、そもそも想定の前提条件、どのような地震・規模・条件を想定しているかについてお伝えします。
大山記者:
宮城県では、国が想定している地震のうち、3つの地震モデルでシミュレーションを行いました。1つ目が宮城県沖で発生する「東北地方太平洋沖地震」。モーメントマグニチュードは9.0を想定した地震です。
梅島三環子 アナウンサー:
モーメントマグニチュードとは、地震による岩盤のずれの規模をもとに計算したマグニチュードで、地震発生後にすぐに発表されるマグニチュードより精度の高い数値となります。
大山記者:
そして、2つ目が三陸沖で発生する「日本海溝(三陸・日高沖)モデル」。モーメントマグニチュードは9.1。3つ目が北海道沖で発生する「千島海溝(根室・十勝沖)モデル」。モーメントマグニチュードは9.3です。これらの地震がそれぞれ発生した際に想定される津波の浸水域を重ね合わせることで、このあとお伝えする浸水域が算出されています。
梅島三環子 アナウンサー:
連動はせず、3つの地震をそれぞれ発生させ、それぞれの想定を足し合わせたものということです。つまり、1つの地震では津波は来ない地域も別の地震で津波の来るエリアになっていれば、浸水域として表記されているということになります。
大山記者:
さらに今回のシミュレーションを実施するにあたっては、最悪のケースとして3つの条件を設定しています。1つ目は「地震発生とともに地盤が沈下すること」。2つ目は「津波発生時の潮位が満潮であること」。3つ目は「津波の襲来とともに防潮堤が破壊されること」です。
梅島三環子 アナウンサー:
本当に最悪の状況を想定してのもの。「何としても命を守る」という前提になります。では、ここからは各市町村ごとに見ていきましょう。
【気仙沼市】県内で最も高い津波予想
梅島三環子 アナウンサー:
まずは気仙沼市からです。こちらは気仙沼市の内湾地区・鹿折地区周辺です。
大山記者:
まずこの図の見方ですが、紫色から黄色までの色を塗られたエリアが津波の想定浸水域です。こちらの地区には無いのですが、紫色だと浸水深(浸水する水の深さ)は20メートル以上。薄い紫色だと10メートル以上、20メートル未満。オレンジ色だと5メートル以上、10メートル未満。以降は黄色に近づくほど浅くなり、最も薄い黄色だと30センチ未満の浸水となります。
梅島三環子 アナウンサー:
ここで、こちらの地区を国土交通省・国土地理院が出している東日本大震災の浸水域と比較してみます。青い線までが東日本大震災時の浸水域。比較すると全体的に広がっていることが分かります。気仙沼市役所も浸水域に入っています。
大山記者:
北側の鹿折地区のほかもこちらの内湾地区の南、田中地区、田中前地区周辺では、東日本大震災では国道45号線を波はほとんど超えませんでしたが、今回のシミュレーションでは超える想定になりました。
梅島三環子 アナウンサー:
今回のシミュレーションでは波の高さ、到達時間についても算出されています。
大山記者:
内湾地区では、想定される最大の波の高さは7.6メートルで、波は地震発生から51分で到達するとされています。また気仙沼市内で沿岸の津波の高さが最も高くなるのは本吉町道外で、22.2メートルが想定されています。この高さは県内で最も高い津波となります。
【南三陸町】内陸にも波が押し寄せる可能性
梅島三環子 アナウンサー:
南三陸町では東日本大震災後に新たな街づくりが行われました。
大山記者:
新たに整備された復興祈念公園周辺は20メートルに迫る水深が想定されていますが、高台移転をした住宅地、南三陸町役場などへの浸水は想定されていません。
梅島三環子 アナウンサー:
一方、北側に目を向けてみると、三陸自動車道「志津川IC」も超えるほど、内陸に波が押し寄せる想定になっています。
大山記者:
志津川地区で想定される波の高さは16.2メートルで、波は45分で到達するとされています。また南三陸町内で沿岸の津波の高さが最も高くなるのは戸倉長須賀地区で、高さは21.2メートルが想定されています。
【女川町】高台移転の住宅地、原発は
梅島三環子 アナウンサー:
女川町も震災後に新たな街づくりが進みました。
大山記者:
女川町は高さ20メートルを超える浸水が想定されています。一方で女川町の震災後の街づくりは、東日本大震災クラスの津波が押し寄せた場合、JR女川駅前の商店街シーパルピア女川などはもともと浸水は免れないと、避難行動で命を守るという想定でした。そのため、高台に移転した住宅地は多くの地点で浸水が免れていることが確認できます。
梅島三環子 アナウンサー:
また、女川原発の結果も出ています。女川原発の地点では12.7メートルの津波が押し寄せると想定されていますが、女川原発の防潮堤は高さ29メートルのため、浸水しないという算出になりました。
【石巻市】避難場所確保が課題
梅島三環子 アナウンサー:
石巻市は非常に広い範囲での浸水が想定されています。日和大橋、日和山、そして石巻河南ICという位置関係になっています。
東日本大震災の浸水域と比較してみると、内陸への浸水範囲が広がっていることが分かりますね。
大山記者:
三陸道の石巻河南ICよりも内陸側。このあたりは新蛇田地区となりまして、震災後に整備された新たな市街地も浸水域に入ることになりました。
梅島三環子 アナウンサー:
浸水域が広い一方、日和山など逃げる場所は限られたりしますから、どう避難するかが課題になってきます。
【東松島市】最も浸水域が広がる自治体
梅島三環子 アナウンサー:
続いて東松島市です。こちらが三陸道矢本IC、震災後に新たに作られた野蒜ヶ丘団地となります。
大山記者:
国土地理院によると、東日本大震災では三陸道の矢本IC付近まで浸水はありませんでしたが、今回は三陸道の北側まで広く浸水する想定となりました。東松島市は東日本大震災の浸水域と比較すると、宮城県内で最も浸水域が広がる自治体となりました。
梅島三環子 アナウンサー:
その一方で野蒜地区に目を向けると、想定被害は大きいものがありますが、住民たちが集団移転した野蒜ヶ丘団地は浸水しない想定になっています。
【松島町・利府町】住宅地や役場も浸水か
梅島三環子 アナウンサー:
松島町は、松島海岸通りに最大3メートルから5メートルほど浸水する想定です。
国宝・瑞巌寺の本堂には今回もギリギリ到達しないような想定となりました。
大山記者:
その一方で町内を流れる高城川周辺を見てみると、住宅地にまで浸水することが想定されています。松島町役場も浸水する想定で、付近の住宅の方々は注意が必要となります。
【塩釜市・七ヶ浜町】JRの駅周辺も注意
梅島三環子 アナウンサー:
続いて塩釜市から七ヶ浜町です。JR本塩釜駅の周辺にも最大で3.5メートルの津波が109分後に押し寄せる想定で、浸水域も広がりました。住宅地も場所によっては3メートルから5メートルほどの浸水が想定されています。
大山記者:
七ヶ浜町では、沿岸の津波の高さが最も高くなるのは菖蒲田浜で、高さ10メートルの津波が地震から約65分後に到達する想定です。
【多賀城市・仙台市宮城野区】内陸まで広い範囲で浸水
梅島三環子 アナウンサー:
多賀城市から仙台市宮城野区です。多賀城市の浸水域を見ると、国道45号線と県道23号線、通称「産業道路」や高速道路の仙台港北ICを超え、内陸まで広い範囲で浸水する想定となりました。また砂押川周辺も遡上し、水深も3メートルから5メートル、場所によっては5メートル以上の水深も確認できます。
大山記者:
こちらも地震発生時に沿岸部にいた人、さらに浸水域に入っている住民がどう避難するかが課題となってきそうです。
梅島三環子 アナウンサー:
仙台市宮城野区を見てみると、基本的に仙台東部道路を超える想定となっています。
大山記者:
場所によっては住宅街まで浸水する想定となっていますので、最悪のケースでは仙台東部道路を超えるという認識が重要かもしれません。
【仙台市若林区】仙台東部道路を超えるか
梅島三環子 アナウンサー:
若林区では宮城野区と比べて、顕著に仙台東部道路を超えるということが想定されています。
大山記者:
東日本大震災の際にも仙台東部道路を超えましたので、やはり今回の想定でも超えることになっています。一方で陸上自衛隊・霞目駐屯地までは到達しないとみられています。
【名取市】震災時の数百メートル内陸に
梅島三環子 アナウンサー:
名取市も東部道路を超え、内陸まで深く浸水していることが分かります。
大山記者:
こちらも東日本大震災と比較すると数百メートルほど内陸に浸水していることが分かります。さらに、名取市の南部では国道4号線に迫る、または超える浸水も想定されています。
梅島三環子 アナウンサー:
震災後にかさ上げをして新たな街が作られた閖上地区、そして避難所にもなっている閖上小中学校などです。
大山記者:
こちらのエリアも薄いオレンジですので、3メートル以上、5メートル未満の浸水が想定されています。閖上の観測地点では、最大の波の高さは10メートルの津波が地震発生から69分後に到達すると想定されています。
【岩沼市】内陸、沿岸ともに安全確保の検討を
梅島三環子 アナウンサー:
岩沼市も名取市の南部同様、国道4号線に迫る、または超える浸水想定となりました。
大山記者:
岩沼市も東日本大震災の浸水域と比較して、約数百メートル内陸に浸水していることが分かります。岩沼市役所も浸水する結果となりました。
梅島三環子 アナウンサー:
沿岸部には高さ9メートルから11メートルの千年希望の丘など、緊急的な避難場所も整備されていますが、この高さで十分な安全が確保されるか、今後検討されると思います。
【亘理町】常磐道を境に浸水深が変化
梅島三環子 アナウンサー:
続いて亘理町です。県の南部は同じような傾向ですが、こちらも国道4号から続く、国道6号線まで迫る浸水域となっていますね。
大山記者:
東日本大震災の浸水域と比較しても内陸に深く浸水していることが分かります。亘理町役場も浸水域です。また、常磐自動車道を境に浸水の深さが変わっていて、二線堤の役割を果たしていることも確認できます。その一方、「鳥の海」周辺を見てみると、5メートルから10メートルの浸水という結果になっています。
【山元町】紫色の部分が目立つ結果
梅島三環子 アナウンサー:
最後に山元町です。山元町では国道6号線を超える地点も出てきています。
大山記者:
もともと東日本大震災の際にも超える地点はありましたが、さらに広がった印象です。
梅島三環子 アナウンサー:
そして、山元町は紫色の部分が目立ち、沿岸部の浸水する深さがこれまでの名取、岩沼、亘理よりも高くなっています。
梅島三環子 アナウンサー:
以上が今回の津波浸水想定で、宮城県全体の想定される浸水域は、東日本大震災の浸水域の約1.2倍という結果になりました。「想定外をなくす、何としても命を守る」ということで作られた今回の想定ですが、この想定をどう今後に生かすかが重要になります。
津波浸水想定 今後の動きは?
大山記者:
ここからは一度、任意の動きとなりますが、県が「津波災害警戒区域」の指定を実施するかどうか検討します。県は「自治体と協議する必要があり、長期的な課題であると認識している」としています。こちらが指定されなくても、各市町村では地域防災計画の改定や、津波ハザードマップの作成など動きなどが出てきます。
大山記者:
各市長もすでに動き始めていて、市長会は4月28日、県に要望書を出しています。内容は次の3点でした。1点目は、説明方法などについて、沿岸部の自治体としっかり協議を深めること。2点目は、公表に伴って新たに方針を示すことが必要となる事業については、自治体との情報共有を密にすること。3点目は、対策を講じるに必要となる財政的な支援です。
村井知事は、5月10日の会見で「どれも適切な要望。県の考え方を一方的に押し付けるのではなく、沿岸部の市町の考え方をよく聞いた上で方針を示していきたい。国にも財政支援を働きかけていきたい」と述べています。
県内では今後、各自治体の判断で住民説明会が開催されていく見通しです。お伝えした津波浸水想定は、県のホームページで公表されています。
梅島三環子 アナウンサー:
今後、各自治体によりハザードマップなどの作成が進むわけですが、県は「作成や改定前でもこの想定を参考に、避難ルートを事前に確認することが有効」としています。
(仙台放送)