静岡・富士市の市役所前の大通りで中央分離帯が10m撤去された。国内トップクラスの選手が参加する自転車レースのためだ。レース当日は、時速45kmの疾走に市民も大興奮。中央分離帯の撤去や長時間の通行規制をしてまで、市がレースを開催したワケを取材した。

大通りで深夜の撤去工事

3月1日深夜、富士市の市役所前の大通りで、中央分離帯の一部を取り除く工事が行われた。その距離は約10mで、撤去された部分はこれからは柵を置いて中央分離帯の代わりにする。

中央分離帯の撤去工事
中央分離帯の撤去工事
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富士市内でも屈指の大通りで、中央分離帯の撤去工事が行われたのには理由がある。自転車レースの開催だ。3月19日と20日に開かれたこのレースは、約2kmのコースを周回して順位を競う「クリテリウム」と呼ばれるものだ。

撤去工事後の自転車レース
撤去工事後の自転車レース

国内トップクラスの2つの団体と大学生連盟に所属する選手など約200人が参加し、クリテリウムとしては全国屈指の規模だ。

富士クリテリウムチャンピオンシップ
富士クリテリウムチャンピオンシップ

しかし東京オリンピックのコースでもなく、サイクリストに人気のある伊豆地域でもない富士市で、なぜ自転車の大会が開かれたのだろうか。

自転車文化が根付いていないから

富士市スポーツ振興課・石井俊勝主幹:
富士市としては自転車文化を市民に広めていきたいという思いがあります。間近にトップカテゴリーのレースを見て、自転車のすごさを市民に感じてもらうことが一番効果的ではないかと思い、市内のレース開催を目指してきました

富士市では自転車を移動手段に使用する市民の割合が5.5%で、全国平均の半分以下だ。2026年度までに6%に引き上げることを目標にしている。
このため、2年前から自転車を利用しやすい環境整備や国内外のサイクリストを誘致する観光ルートの策定など、自転車を中心とした街づくりに取り組んできた。
またプロのロードレースチーム「レバンテフジ静岡」の発足も、レース開催の後押しとなった。

富士市・石井主幹:
「富士山女子駅伝」はだいぶ定着し、「アルティメット」も富士川河川敷が聖地化されたイメージがあります。(自転車レース開催で)さらに富士市が“自転車の街”ということを、うまくシティープロモーションできるのではと思っています

「競輪かい?」市民への説明で苦労

レースの準備などを担当することになったスポーツ振興課の石井さん。担当になってから通勤をバイクから自転車に変え、自転車チームの監督ができる資格を取るほど力を入れてきた。

富士市・石井主幹:
今まで自転車はほとんど乗っていなかったのですが、乗るようになって、動力ではなく自分で進める楽しさを体感するようになりました

決して認知度が高いといえない自転車レース。2日間で計16時間にわたる市の大通りの封鎖には、沿道の地区の協力を得るのに時間がかかった。さらにコロナ対策としてボランティアを含めた大会関係者の体調チェック体制の構築など、苦労は多かったそうだ。

沿道の人たちに説明する石井主幹
沿道の人たちに説明する石井主幹

富士市・石井主幹:
自転車レースのチラシを配りに行くと「競輪かい?」と聞かれることが多くて、「競輪とは違うんですよ、ツールドフランスをご存じないですか」と説明しながら回りました。今回レースを見るのが初めてという人も多いと思いますので、まずは見てどんなものか体験していただきたい

疾走の風に市民興奮

沿道には富士市をはじめ、県内外から2日間で約1万5000人の観客が集まった。平均時速45km以上にもなる猛スピードで駆け抜ける自転車。その速さやまき起こる風の迫力に、観客は大興奮だ。

メインレースの決勝戦では、序盤に地元チーム「レバンテフジ静岡」の佐野淳哉選手が、そして終盤には三島市が拠点の「チームブリヂストンサイクリング」の選手たちが先頭を引っ張る動きを見せた。
最後はスプリント勝負で締めくくられ、30周54kmのレースは盛り上がりをみせた。

観客:
音といい、スピードといい、迫力があっておもしろかった

別の人:
すごく速くてびっくりした

親子で観戦:
(レースを見たのは)初めてです。子供が自転車に興味があって競輪選手を目指しているので、もっと見にきたいですね

子供:
すごくかっこよかった。
(Q.自転車選手になりたい?)
はい

別の人:
女子駅伝でも通行止めにしてるので、(富士市民は)理解があるとは思います。ぜひこうしたイベントを拡大してもらえたら、地域振興にはつながると思います

「最高に気持ちいい」選手も感謝

参加した選手からも、中心市街地での開催を歓迎する声が聞かれた。

優勝した愛三工業レーシング・岡本隼選手:
これだけ広い道で街の中で走れるのは最高に気持ちよくて、これだけ観客が集まっているなかで走れるのは、すごく力になります

優勝した愛三工業レーシング・岡本選手
優勝した愛三工業レーシング・岡本選手

チームブリヂストンサイクリング・橋本英也選手:
普段は車通りがメインの道で、レースなんて到底考えられない場所なんですけど、大通りを封鎖して大きなレースを開催してもらいうれしい。興奮しました

“自転車の街づくり”に手応え

会場には富士市の企業や農産物を紹介するブースも設けられ、大勢の人たちが楽しんだこのレースに富士市の小長井市長も手応えを感じていた。

観戦する富士・小長井市長
観戦する富士・小長井市長

富士市・小長井義正市長:
富士市はこれまでは(自転車活用が)進んでいる地域ではなかったし、道路整備の状況を見ても自転車にやさしい環境になっていませんでした。(レース開催が)市民が自転車活用に関心を持ってもらうきっかけになったと思います

オリンピック自転車競技の会場になった静岡県東部や伊豆地方でレガシーの活用が進みつつある中、今回のレースが富士市の“自転車の街づくり”にどうつながっていくのか、今後の動きが注目される。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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