3月、上島架橋最後の一つ・岩城橋が完成し、瀬戸内海にある愛媛・上島町4島を3橋でつなぐ「ゆめしま海道」が全線開通した。
観光経済効果が期待される一方、フェリーが廃止されるなど、島民からは不安の声も上がっている。

3月に開通した「岩城橋」
3月に開通した「岩城橋」
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3月20日、上島町の岩城島と生名島を結ぶ「岩城橋」が開通し、これで町内4島が全て橋でつながった。構想から半世紀「ゆめしま海道」の完成だ。

今回、愛媛県が総工費約183億円をかけて「岩城橋」をかけた狙いは、サイクリング客を中心とした「観光客の誘致」と「住民の生活の向上」。

東京から訪れたサイクリスト:
新しい道は気持ちいいですね。まとまって(島を)走れるのでいいなと

見頃を迎えた愛媛県内有数のサクラの名所・岩城島「積善山の三千本桜」には、多くの花見客が訪れていた。

岩城島の住民:
子どもの数が少ないので、島がつながるといっぱい友達も増えるし、クラブ活動も幅が広がるので楽しみ

岩城島の住民:
(隣の)生名島で仕事をしているんですけど、船通勤だったのが、橋を通って通勤できて、船の時間を気にせず仕事できるようになったのが一番ありがたいし、うれしい

歓迎の声の一方、島民からは不安の声も

生名島や弓削島への通勤・通学など、行き来がしやすくなったという意見がある一方、島民からはこんな声も…

岩城島の住民:
知らない人がたくさんになったら、交通が今まで(車で道路を)ゆったり走れてたのが、車が多くなったら心配ですけどね

島民からは事故などを心配する声が聞かれた
島民からは事故などを心配する声が聞かれた

岩城島の住民:
自転車はスッと走るじゃないですか。無音でサッと来られるので、ちょっと怖いところあります

実は、いまだに信号機が1台もない上島町。

島民にとっては慣れた細くて見通しの悪い道も、島外から多くの車や自転車がやってくることで、事故や渋滞の発生が心配されている。

また、島の人口約2,000人のうち4割を占める65歳以上の高齢者にとって、さらに深刻な問題が浮かび上がってきた。

岩城島の住民:
今は車があって便利かもしれないけど、年取ったら免許も返さないといけないし、定期のバスも通らないし、交通手段がなくなるのですごく不安です

交通手段がなくなることを不安に思う声も
交通手段がなくなることを不安に思う声も

岩城島の住民:
車がある人はいいけど、私ら年配の者はみんなが言いよるけど、(行政は)若い人のことしか考えてくれない

買い物をはじめ、通勤・通学・通院など岩城島の人たちの主な生活圏は、お隣・広島県の因島だ。

しかし、高齢者の多くが利用していた因島への航路が、岩城橋の開通に伴い3月末に「廃止」になった。

フェリー廃止に高齢者は困惑「病院に間に合わなかったら…」

最終運航日の3月31日。この日は一日雨だったが、多くの島民がフェリーを利用して最後の乗船を惜しんでいた。

最終運航日を迎えた長江フェリー
最終運航日を迎えた長江フェリー

岩城島の住民:
いつも乗らせてもらいよるけんね。もうきょうで最後やね

岩城島の住民:
私の人生の足です。やはりフェリーが交通の手段でしたので、とってもさみしく思います。一番短時間で(因島まで)渡れるので、このルートをまた復活していただけたらありがたいと思います

フェリー会社の社長自ら、毎日 船に乗って運航に携わってきた。

長江フェリー・西本和記社長:
岩城の人に「やめないでくれ」と言われてるんですけど…やめたくはないんですけど、もうやれない状況なので、どうしようもない

複雑な思いを語る長江フェリー・西本社長
複雑な思いを語る長江フェリー・西本社長

長江フェリーは、40年以上にわたり岩城島と因島を約13分で結んできた。
しかし、長引くコロナ禍で乗客数が激減する中、追い打ちをかけるように燃料代が高騰。

新型コロナや燃料代の高騰が影響
新型コロナや燃料代の高騰が影響

西本社長は、町に相談したり経営を引き継ぐ企業を探したりして、運航を継続する方法を模索したが見つからず、岩城橋の開通に合わせてフェリーの「廃止」を決めた。

長江フェリー・西本和記社長:
今でも車を持っていない高齢者が乗ってくれるので、その人らが(運航を)やめたあとに困るんじゃないかなと心配しています。申し訳ないです。それしか言いようがないです

全盛期には満席になった客室の姿を見るのも、この日が最後。

長江フェリー・西本和記社長:
最後までお客さんをちゃんと運んで、事故なく終わらせたい感じですね

最終日は延べ600人が乗船し、岩城の人たちの生活を支えた船は、その役目を終えた。
便利な交通手段がなくなった高齢者は、頭を抱えている。

岩城島の住民:
私は(因島の)病院に行きよんで、こっちから勝手に行く時はいいけど、先生から「何時に来てください」と言われたら、間に合わなかったら困る

今後、車がない高齢者はいったんバスなどで隣の生名島の港まで行き、そこからフェリーに乗って因島へ。さらにバスやタクシーを乗り継いで、それぞれの病院に行かなくてはいけない。

上島町は、「バスの増便などを検討しながら課題の解消に努めたい」としている。

ゆめしま海道の開通で「観光による発展」へ期待が高まる一方で、島の人たちの生活には不安が影を落としている。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
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