いま、トップニュースのひとつとして取り上げられている日本の「悪い物価高」。10日、朝日新聞では“日本市場で、いま、『悪い物価高』なるものが進んでいる”として掲載されました。私たちの家計に大きな影響を与えるだけでなく、対策を誤れば“最悪のシナリオ”もありうるという危うい状況。「めざまし8」では、気になる3つの疑問について、専門家の明治安田総合研究所フェローチーフエコノミストの小玉祐一さんとともに解説しました。

疑問① 何が違う?“悪い物価高”とは

物価高の「悪い」部分は?
物価高の「悪い」部分は?
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一般的な物価高と何が違うのでしょうか。一般的な物価高では、企業の業績アップなどにより賃金が上昇し、その結果、消費も増加し物価も上昇するというもの。経済の好循環と言えます。一方、「悪い物価高」では、石油やガスなど資源高騰が起こり、それによって生産設備や製造にかかるコストが上昇、原材料の価格も高騰し、その結果、物価が上昇するというもの。いまの日本はこうした「悪い物価高」に見舞われているといいます。

家計を襲う値上げラッシュ
家計を襲う値上げラッシュ

小麦やチーズ、食用油などは数十円単位で値上がりが進んでいて、これから値上げが予定されているものもズラリと並んでいます。あるタクシー会社では、早ければ今年秋から初乗り80円増、メーター料金も228mごとに100円を加算する見通しです。さらに酒類ではワインで8~10%増、焼酎で3~7%増の値上げを予定しているメーカーもあります。衣類量販店でも秋冬物の商品を3~4%増にするという過去最大規模の値上げを予定しているところもあります。
物価上昇の目標が2%と言われる中、“悪い物価高”の場合は、何が一番問題なのでしょうか。

明治安田総合研究所フェローチーフエコノミスト 小玉祐一氏
明治安田総合研究所フェローチーフエコノミスト 小玉祐一氏

小玉祐一氏:
物価の上下がないのが理想。しかし、0%だとデフレになっていってしまう。それなら、小幅のプラスの方が悪影響がなく調整機能が働きやすいという点で2%上昇を目指してきた。今回は生産コストが上がって、企業が値上げせざるをえなくなっているのが問題。コスト主導で値上げされる、これは生活を圧迫するだけなので“悪い物価高”と言える。

疑問② 日本で過去に起きた大パニックとは?

ここまで上がったオイルショック
ここまで上がったオイルショック

実は、「悪い物価高」に見舞われ日本でも過去に大パニックとなったこともあります。「悪い物価高」の代名詞と言えるのが1973年のオイルショックです。石油価格高騰による影響で物価が上昇し、消費者物価指数は、対前年比で最大で22.5%に。ちなみに、今年2月には0.6%です。
当時、どれだけ身近な品物の値段が上がったのかというと、小麦粉1kgが1年間で89円から136円に。コーヒー1杯が、1年間で133円から167円に。さらに食用油(1kg)が1年間で102円から142円に急上昇。また、事態は、トイレットペーパーの買い占め騒動に発展しました。

コーヒー一杯いくらに?
コーヒー一杯いくらに?

原油価格の上昇は、オイルショックのときは、最大で約4倍です。今回はウクライナ情勢などの影響をうけて3カ月間に最大で約2倍となっています。
小玉氏は今回の物価上昇について、「オイルショックの再来、そういう状況に陥る可能性も無きにしもあらず」と指摘しています。この物価上昇の影響はいつまで続くのでしょうか?

ウクライナ情勢などの影響
ウクライナ情勢などの影響

小玉祐一氏:
ウクライナ情勢次第で予断を許さない。円安に関してはしばらく続く可能性が高い。金利の高い通貨が買われやすいため。円安の影響がジワジワ効いてくる。時間差を置いて影響が出てくる。そして、しばらく影響が残る。一番の問題は、小麦価格です。4月に17%アップしていますが、実は、ウクライナ情勢の影響はまだ反映されていない。この4月の上昇は去年のカナダの干ばつの影響を反映している。ウクライナの影響は次回10月の値上げに反映される。パンなど小麦があがってくるので、1年くらいは値上げが報道される可能性が高いと思う。

疑問③ “悪い物価高”への対策は?

では、どのような対策がありうるのでしょうか。「悪い物価高」の押さえ込みで成果をあげているというアメリカの例で考えます。中央銀行・FRB=米連邦準備制度理事会が3月、金利の引き上げを決定。そうした動きを受けて、ドル高の動きが加速。11日には、6年10カ月ぶりの円安ドル高の水準に。ドル高の場合はアメリカにとって輸入価格が軽減します。これで“悪い物価高”のマイナスを補填し効果的な打開策になるというわけです。
では、日本も円高へと舵を切るべきなのでしょうか。円高の場合は、輸出時に日本製品の価格が高騰し、売り上げに歯止めがかかり、景気悪化の恐れが生じます。実はオイルショックの際には、“悪い物価高”の対策として金利を引き上げ、円高策を実施。結果、景気の悪化を招き高度経済成長にブレーキをかけたという経験があります。

「悪い物価高」アメリカの対策
「悪い物価高」アメリカの対策
円高になる場合のデメリットは?
円高になる場合のデメリットは?

輸出が多いのはアメリカも同じわけですが、日本とは何が違うのでしょうか?

小玉祐一氏:
アメリカと日本の一番の違いは、アメリカは景気が過熱している、インフレ加速の恐れがあって、景気を抑えねばならないというところ。一方、日本は景気がたいしたことなく利上げをすると、景気が失速するリスクがある。日本は輸出に頼った成長を続けてきたのでそこは心配しなければいけない。円安に行き過ぎになりなると、日銀が金融緩和・マイナス金利をやめるなどその程度の対応はできるのではないか、と思っている。

「悪い物価高」に対抗するには、円高策以外にもうひとつの手立てがあります。それが「賃上げ」です。日本の賃金上昇率は、各国とは対照的に約30年間ほぼ横ばいで推移。今年2月の段階で、賃金上昇率0.3%。賃金引き上げに政府は、今月1日から「賃上げ促進税制」を導入しました。一定以上の賃上げを実施した企業に税額控除を行うというもの。大企業で最大30%、中小企業で最大40%。こうした税制を利用して賃上げの動きは進むのでしょうか?

横ばいの日本の賃金
横ばいの日本の賃金

小玉祐一氏:
これは日本積年の構造的問題。1つだけのことで局面を展開するのは難しいが、(賃上げは)ひとつの対策ではある。賃上げしている企業がさらに実施すれば、税金をまけてもらえる、背中を一押しする力はある。成長力、生産性が伸びない、ここを解決しないと根本的解決にはならない。

対策の決定打を見いだすのは難しい中、11日、自民党の経済成長戦略本部の西村康稔座長は、「真に困っている方々」への支援金の給付などを盛り込んだ提言をとりまとめました。政府としては、緊急対策として、原油高、食料の安定供給、中小企業困窮者支援などを柱として検討しています。財源として新型コロナ対策予備費などから約5兆円をあてる方針です。今後、景気回復は期待できるのでしょうか。

日本政府の対策は?
日本政府の対策は?

小玉祐一氏:
難しいが、日本経済の根本的問題は、潜在成長率が下がっているということ。0%台です。これを上げていかねばならない、生産性を上げねばならない、イノベーションを起きやすくする、促進するような構造改革や規制緩和などを軸に進めないと、持続的な景気回復が実現できないことになります。

(めざまし8 4月12日放送「Top newsわかるまで解説」より)