厳しい暑さが和らぎ始め、秋の気配を感じている人も多いだろう。夕焼け空を背景に飛ぶトンボは秋の風物詩だが、ちょっと変わったトンボの写真がTwitterに投稿されている。

チョウトンボとった!!
写真を投稿したのは、蝶の立体標本を制作・販売している山崎理(@yamazaki_design)さん。(※「崎」はたつさき)
捕獲したのはトンボの一種の「チョウトンボ」だそうだが、目を惹くのはその鮮やかな羽(翅)の色! トンボといえば透き通った羽を想像する人が多いだろうが、チョウトンボの羽は青や緑、紫などが入り交じり、表面は金属のような光沢がある。

投稿者の山崎さんは関東エリアでチョウトンボを捕獲し、撮影後はリリースしたそう。
写真には「めちゃくちゃ綺麗!!!」「蝶々じゃなくてトンボなんですね」「どう進化すればこんなきれいな模様を身体から出せるようになるのか…不思議で仕方ない」などのコメントが寄せられ、5万件を超える「いいね」がつく人気の投稿となった(9月13日現在)。
チョウトンボとった‼️ pic.twitter.com/ceoCcMyftT
— 山﨑理🦋YAMAZAKI Osamu (@yamazaki_design) August 14, 2022
思わず目を奪われる姿だが「こんなに目立つと、天敵から見つけられやすくないか気になる」という声も。
オニヤンマやシオカラトンボ、よく聞く名前のトンボたちに比べて馴染みのない「チョウトンボ」とは、一体どんな生き物なのだろうか。
蝶のような飛び方が名前の由来
昆虫の形態・色彩・構造に関する研究をしており、共著・分担執筆に「ネイチャーガイド 日本のトンボ 改訂版」「改訂 トンボの調べ方」などがある、国立研究開発法人 産業技術総合研究所・生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループの二橋亮主任研究員にお話を聞いた。
――チョウトンボとは、どんな昆虫?
和名は「蝶トンボ」で、チョウのような形態と飛び方が名前の由来となっています。
金属光沢のある黒色の幅広い翅をもつところが大きな特徴です。独特な色調や体型から、ほかの種と簡単に区別できます。翅がほぼ一様に黒いトンボとしては、ハグロトンボやアオハダトンボも該当しますが、これらの種は翅も体も細長く、体型が大きく違います。
――どこで見ることができる?
国内では本州、四国、九州に分布し、北海道でも飛来記録があります。海外では朝鮮半島と中国に分布します。平地から丘陵地の浮葉植物(ヒシ、ジュンサイなど)や抽水植物(ガマやヨシなど)の多い池が主な生息地です。

――特徴的な羽の色には、どんな意味がある?
トンボの成虫は視覚で相手を見分けますので、翅の目立つ色は種や雌雄の見分けに重要です。オスは青紫色に輝くのに対して、メスは緑色に輝く個体が多く、両者で紫外線の反射が大きく異なることが確認されています。ヒトから見ると、雌雄どちらも黒っぽくてよく似ていますが、紫外線を見ることができる昆虫は、雌雄の色がかなり異なって見えると考えられます。
――「チョウのような飛び方」とは?
翅に色のついたトンボは、繁殖行動の際に翅を見せるような行動をとる種が多く、チョウトンボはチョウのようにひらひらと飛ぶことで、翅の構造色をより目立たせる効果があると考えられます。デメリットとしては、ゆっくりと飛ぶために天敵に捕食されやすいことがあります。
チョウトンボの特徴的な羽の色は、同種を見分けるために重要な目印だそう。
また、トンボであるにもかかわらず名前に「チョウ」と入っていることもユニークだが、この由来は飛び方から。ほとんどのトンボが直線的に飛ぶ中、チョウトンボは蝶のようにヒラヒラと飛ぶことで、鮮やかな羽の色をより強調していると考えられるそうだ。
Twitterユーザーのコウ(@kou15296710)さんが宮城県の多賀城跡付近で撮影したという動画では、まさに蝶のように羽をヒラヒラと羽ばたかせて飛ぶチョウトンボが映っている。
飛んでいるチョウトンボ pic.twitter.com/FPVVX95Nfg
— コウ🌿 (@kou15296710) August 15, 2022

同種へのアピールのために役立つ色と飛び方を身につけたチョウトンボだが、二橋さんによると、他のトンボに比べてゆっくりと飛ぶために天敵に捕食されやすい、というデメリットもあるそうで、実際にチョウトンボのメスがシオカラトンボのオスに捕獲されてしまったところも撮影されたことがあるという。
チョウトンボが現れるのは、6~9月ごろ。夏休みの時期は終わってしまったが、もし見かけたらぜひその美しい羽と飛び方に注目して、観察してみてはいかかだろうか。