3月22日に初めて出された「電力需給ひっ迫警報」。節電のため東京タワーの灯りも消えました。停電は避けられましたが、どれほどの危機だったのでしょうか。

「揚水発電」で停電回避

3月22日の電力の状態を見ていくと、午前8時、9時は95%、97%でしたが、10時の段階で逆転しました。午後2時台には107%になり数字上では使用した電力が供給力を上回りましたが、停電はしませんでした。なぜなら、停電を防ぐための切り札とも言われている「揚水発電」で電力を補っていたからです。

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揚水発電は、夜間のうちに上部ダムに水をくみ上げておいて、そのダムから水を流して地下発電所に経由することで発電する仕組みになっています。上部ダムの水がゼロになれば発電できないので、計画的に上部ダムから地下発電所に流していきたいという事情があります。

そういった中で、22日の揚水発電可能容量の残量を見ていくと、午後2時には目標値の66%でしたが、残量はそれよりも7%低い59%。午後3時も60%の目標値に対して、残量53%。このままの調子でいくと電力量が危ないという中で、東京電力は「この状況が続けば午後8以降にダムの水が尽きる」との見解を発表しました。その上、200万から300万軒規模の停電のおそれがあることも指摘していました。さらに、萩生田光一経産相も緊急会見で「ブラックアウトを避けるために広範囲の停電を行わざるを得ない」と強調しました。

しかし、実際に午後6時を見てみると目標値が38%、残量が40%でなんとかクリアしていたのが分かります。国民の節電効果が影響したのでしょうか。ギリギリのところで停電を回避できました。

実際、めざまし8が行った「電力需給ひっ迫警報を受けて節電できたか?」という内容の生アンケートでは、「節電した=83%」「節電できなかった=17%」という結果で、約8割の人が節電に努めたことが分かりました。

さらに、発電の状況について国際環境経済研究所の竹内純子理事に話を聞きました。

国際環境経済研究所 竹内純子理事:
100%を上回るような発電量は基本的に見たことがないです。107%という数値で「発電所がいつもより頑張って多めに発電しているのか?」と聞かれましたが、そんなことはできるわけがなくて、バッテリーとしての役割を果たす揚水発電、水をはきだすことで足していたという形なので。ですが、バッテリーというのは切れたら再度充電しないと使えない。昨日の夜、水をほぼ落としきっている状況の可能性があり、昨日は天気が悪かったので、太陽光発電もほとんど戦力になりませんでした。もし晴れていれば、東京電力管内の電気の20%とかそれくらい賄えるくらいの力はすでに入ってはいるんですが、それがあるかないかでもの凄く変わってしまうというようなところでしたので、今日もし寒くて昨日のような雪が続いていたら、間違いなく危なかったかなと思います。

警報が出た2つの要因

そもそも、警報が出る事態になってしまったことには、複数の要因があると言います。

1つは「真冬並みの寒さ」。22日正午の東京の気温は1.9℃しかありませんでした。天達武史気象予報士によると、例年であるとこの時期15℃程度気温があってもいいと言います。寒さが強まったことで、予想以上の電力消費に繋がったということです。

さらに、2つ目は「火力発電所の停止」。火力発電所が16日の地震で停止したことが影響しているということです。

停止した具体的な火力発電所は、福島県の「新地火力発電所」と「広野火力発電所」。これらが停止したが故に警報が出る事態になってしまったということです。

では、火力発電所の復旧には時間かかるのでしょうか。

国際環境経済研究所 竹内純子理事:
状況の写真を見ただけですが、非常に大きな被害を受けていたので時間がかかる可能性はあります。加えて、広野火力発電所の火力というのは実は東日本大震災の時にも大きな被害を受けたんですけれども、その際には本当に奇跡的な復旧といわれるくらい迅速なものでした。3月に地震があって次の夏には間に合わせるということで、伝説になる復旧をやり遂げました。
しかし、そのときに迅速な復旧ができたのは、メーカーの方たちの中にも、火力発電を支えるまだサプライチェーンがしっかりしていた背景があります。いま温暖化で火力発電には投資をするなということになっていますので、メーカーさんが持っている技術であったり、部品の予備といったものも、10年前よりは手薄になっている可能性もあります。復旧が当時と同じような迅速さでできるのかは、被害の状況もありますし、そういったサプライチェーンの状況次第もあるということは感じますね。

「電力需給ひっ迫警報」の発令基準

今回初めて発表された「電力需給ひっ迫警報」の発令基準というものは、供給できる電力に対して、安定的に電力を維持するためには最低限でも3%は残しておきたいため、使用率が97%を超えると、発令されるという仕組みです。

実は、電力需給ひっ迫の事態は“予測した中”での出来事だったといいます。

2021年10月の時点で、安定供給に必要な最低限の数値3%に対して、1月は3.2%、2月は3.1%。そして3月には暖かくなるのであろうと想定し、7.5%ぐらいなのではないかという見通しを立てていました。しかし、予想よりも寒さが強まり電力需給ひっ迫の事態が起きたことで、より慌てた結果に繋がったという見方ができそうです。

さらに、今回の電力需給ひっ迫の事態を受けて、竹内理事は“構造的な要因”をみるべきであると言います。

国際環境経済研究所 竹内純子理事:
きのうの需給ひっ迫の原因を見てみると、そんなに珍しいことではなく起こり得ることなんですね。この問題の構造的な要因を私はみるべきだと思っています。
構造的な要因というのは、原子力発電所を大きく止めている状態。そして、電力を自由化しています。再生可能エネルギーを大量に入れながら、電力自由化をやることになると、火力発電は調整役に回ってしまいます。困ったときだけ発電するという形なので、廃止されることが続き、そこに温暖化が重なるということになるので。エネルギーセキュリティというものを軽視をし議論がされてこなかったことは我々が反省すべきところだと思います。
「隣の電力会社からもらいましょう」ということを言われている方がいましたが、きのうも7社から融通を受けていますし、隣の東北電力も厳しい状態。また、ウクライナの問題で燃料が本当に調達できるのか、融通する方も神経を尖らせながらやっています。やはり、現実的に時間がかかると言うことを踏まえながら、しっかりと議論をして向き合うということをしないと、今年の夏も来年の冬も相当需給ひっ迫が厳しい状況になると思います。

(「めざまし8」3月23日放送分)