ロシア軍がウクライナの通信インフラを破壊
今回のロシア軍の侵攻に対してウクライナ軍の善戦を支えているものに、米国の億万長者が提供した衛星インターネットがある。
2月24日にロシア軍がウクライナへ侵攻を開始した際は、1990年の湾岸戦争開戦時の多国籍軍の作戦のように、まずウクライナの空軍基地と共に通信基地局や基幹通信線など通信インフラを空爆によって破壊した。
その結果、2日後の26日のロイター電によるとウクライナの主要インターネット・プロバイダーGigaTransでの接続性は通常時の20%にも落ちてしまった。
救いを求めたのはイーロン・マスク氏
これでは市民が情報を収集したり、知人や家族と連絡するのが困難になっただけでなく、軍事的にも指揮命令系統などにも支障が出ることになった。そこでウクライナのミハイロ・フェドロフ第一副首相兼デジタル改革担当相は26日、ツイッターで救いを求めた。
その宛先は、電気自動車で成功した米国の億万長者のイーロン・マスク氏。同氏はスペースXという宇宙開発会社も経営しており、衛星を介したインターネットStarlinkを運営している。

「あなた(マスク氏)は火星への入植を目指していますが、あなたのロケットが火星に着陸に成功している間にロシアはウクライナを占領しようとしています。ロシアのロケットはウクライナの民間人を攻撃するのです。どうかStarlinkをウクライナでも使えるように基地局を提供していただきたいのです。ロシアに立ち向かうために」
その回答は10時間27分後マスク氏からツイッターで届いた。
「Starlinkはウクライナで使えるようになりました。地上局もまもなく届きます」

その地上局は翌28日にウクライナに到着した。フェドロフ第一副首相がアンテナなどがトラックに積まれた写真と共に「Starlinkー着いた。サンクス」とツイッターで謝意を表した。

Starlinkは、数多くの小型衛星を使ってインターネット通信を仲介する。その電波は直径30センチほどのパラボラアンテナで受信し、そこからルーターでインターネットに繋ぐので地上の回線が切断されても支障がない。
またその速度を計測した結果、200メガバイト/秒を記録した(The Kyiv Independent紙 ツイッター)というから、光ケーブル並みの早さだ。
マスク氏はその後も地上局を数多く提供し、その数は5000基にも及んでいるとも言われる。一方この通信を送受信するアプリケーションもこれまでに10万回ダウンロードされ、ウクライナの通信環境はStarlinkを中心に運営されているようだ。
ゼレンスキー大統領やウクライナ軍が有効活用
これでウクライナ市民は、国外に退避した親族や友人たちとテレビ電話で連絡を取ることもできるようになった。中でもこれを最も有効に活用しているのがゼレンスキー大統領で、国民を鼓舞するSNSを頻繁にアップしたり、米国や英国などの議会でウクライナの窮状を訴える演説をライブで送り賛同を集めている。

これとは別にStarlinkを十二分に活用しているのがウクライナ軍だ。部隊間の通信連絡だけでなくStarlinkを「空中偵察システム」に組み込み、ドローンの操縦や地上のロシア軍の戦車へのロケット砲攻撃で成果を上げているという。
一方ロシア軍もこれに気付き、最近はStarlinkの地上局の電波を標的に攻撃を仕掛けるようになってきたので、通信を終えたら地上局の電源を切ることで対応しているという。
「イーロン・マスクの衛星はゼレンスキーが空を支配するのを助けた:米国の億万長者のインターネットは、ウクライナのドローンがプーチンの戦車を無力化して攻撃するのを許している」
英国の大衆紙「ディリーメール」電子版19日の記事でこう評価している。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】