新種「ホムラハコネサンショウウオ」を発見

口から火を吐いたり尻尾に火が付いた生き物はファンタジーの世界だ。しかし今、背中に炎のような赤い模様が入った新種のサンショウウオが見つかったのだ。

その模様から、炎を意味する「ほむら(焔)」にちなみ、和名は「ホムラハコネサンショウウオ」と名付けられた。

ホムラハコネサンショウウオの成体(写真提供:国立科学博物館)
ホムラハコネサンショウウオの成体(写真提供:国立科学博物館)
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実は、近畿地方から北陸・中部地方にかけての本州中部に住む日本固有種に「ハコネサンショウウオ」がいる。これまで1種だと思われていたが、この10年間でDNA解析の発達などにより計6種までに分類が進んでいた。

一方で近畿地方には「ハコネサンショウウオ近畿型」と呼ばれる遺伝集団がいると言われていたが、成体標本を手に入れるのが難しく、研究は停滞気味だったという。

2021 年までのハコネサンショウウオ6種と「近畿型(ホムラハコネサンショウウオ)」の分布。(写真提供:国立科学博物館)
2021 年までのハコネサンショウウオ6種と「近畿型(ホムラハコネサンショウウオ)」の分布。(写真提供:国立科学博物館)

そこで国立科学博物館の研究員・吉川夏彦さんらのグループは、紀伊半島から近畿、北陸、中部地方にかけてのハコネサンショウウオの標本を徹底的に調査した。

こうして全ての標本をDNA検査した結果、新種としてホムラハコネサンショウウオを見つけて発表。この発見でハコネサンショウウオ属は計7種となった。

ハコネサンショウウオ(写真提供:国立科学博物館)
ハコネサンショウウオ(写真提供:国立科学博物館)

火の模様があるが弱点は「高温」

ホムラハコネサンショウウオの特徴は、背中に赤~ピンク色の斑紋と、腹に多数のある白い点。一部を除き、見た目で他種と識別できるという。また学名は、「火の色の背中」を意味する「pyrrhonotus」を用いて、「Onychodactylus pyrrhonotus」となった。

今回の調査で岐阜・石川・福井・滋賀・京都・三重・奈良の各県で分布が確認され、渓流やその周辺に生息している。全長は14~17cmだという。

なお、四国にすむシコクハコネサンショウウオの近縁種だが、同じ場所にすむハコネサンショウウオとは異種交配しないそうだ。

シコクハコネサンショウウオ(写真提供:国立科学博物館)
シコクハコネサンショウウオ(写真提供:国立科学博物館)

ちなみにハコネサンショウウオ全般の特徴として、肺をもたず皮膚呼吸だけで生きており、そのため高温と乾燥に非常に弱いという。

こうして新種と分かったばかりのホムラハコネサンショウウオだが、実は絶滅の危機が迫っている。2020年版の環境省レッドリストには、日本産サンショウウオ科の89%、41種が絶滅危惧種・準絶滅危惧種として掲載されているのだ。

”炎”は成長とともに鮮やかになっていくようです

では、このようなサンショウウオを守るために私達に何ができるのだろうか? またホムラハコネサンショウウオの模様にはどのような意味があるのか?

国立科学博物館の吉川夏彦さんに聞いた。


――「ホムラハコネサンショウウオ」発見の経緯は?初めて見たときの印象は?

私の大学院の研究テーマがハコネサンショウウオの分類で、その一環で全国各地でハコネサンショウウオを採集していました。そうして集めた標本のDNAを分析したところ、近畿地方の中に普通のハコネサンショウウオと遺伝的に大きく異なるものがいることが分かったというのがきっかけです。

さらに詳しく調べると、同じ場所で狭義のハコネとホムラハコネが両方生息している場所があることもわかり、完全な別種であることがわかりました。成体を初めてみたときは、その色の美しさに見入ってしまって逃げられそうになったのを覚えています。


――なぜ炎のような模様があるの?

なぜ背中に赤い模様があるのかはよくわかっていません。幼生の時にも背中に模様がありますが、成体ほど鮮やかではないものが多く、成長とともに鮮やかになっていくようです。近縁種であるシコクハコネサンショウウオもオレンジ色の鮮やかな模様があって似ていますが、赤くはなりません。また、ホムラハコネのお腹には細かな白点が出るのが、白点が出ないシコクハコネとは異なります。

ホムラハコネサンショウウオの幼生(写真提供:国立科学博物館)
ホムラハコネサンショウウオの幼生(写真提供:国立科学博物館)

――日本にはサンショウウオが多い?

日本にはホムラハコネサンショウウオも含めて46種のサンショウウオ科の両生類が生息しています。しかもそのうち45種が日本の固有種です。サンショウウオ科は87種が知られていますので、その半分以上が日本に生息していることになります

また、サンショウウオ科は広い意味ではイモリやオオサンショウウオなどと同じ「有尾類」と呼ばれるグループの両生類です。世界の有尾類は760種ほどが知られていますが、日本のサンショウウオ科の種数だけでその約6%になります。日本はサンショウウオ大国なのです


――研究がここ10年で進んだワケは?

日本のハコネサンショウウオの仲間は2012年以降、7種に増えましたが、これはDNAの解析技術が発達、普及したことが大きな原因です。以前は外見や骨格などの「形態」情報で種を識別していましたが、見つかった違いが個体差なのか種の違いなのか判断するのが難しい場合もありました。DNAの情報を活用することで、種間の形態の違いがよりはっきり見えてくるようになったという面が大きいです。

しかし、ハコネサンショウウオの仲間は、成体は産卵期以外にはほとんど見つからないため、ホムラハコネサンショウウオの新種発表には少し時間がかかりました。

今後も日本の両生類の多様性解明のために調査

――今後の研究は?

リリースにもあるように、日本の小型サンショウウオ類は46種になりましたが、これでもまだ日本の小型サンショウウオの多様性の全容解明には至っていません。これからもハコネサンショウウオ類をはじめとした日本の両生類の多様性解明のための調査を進めていきます。また、混棲する2種が交雑しない仕組みなどの生態的な面からの研究や、希少種の保護に役立つような保全の研究も展開していきたいと思います。


――日本のサンショウウオを守るため私達にできることはある?

まずは多くの人に、サンショウウオ類をはじめいろいろな生き物がいること、それらが置かれている状況について知ってもらうことがとても大事だと思っています。少しでも多くの人々に関心をもってもらえれば、希少種の保全活動や各種の環境保全の取り組みに対してより理解を得やすい社会になっていくだろうと期待しています。

生息環境の喪失や悪化、乱獲とネットオークションでの販売など、サンショウウオ類をめぐる心配事は尽きませんが、社会の関心の高まりとともに対策も徐々に進んでいくはずです。

日本の渓流のイメージ
日本の渓流のイメージ

なお環境省のHPによると、絶滅危惧種を「捕獲・採集」することは、減少の大きな要因になっているとしている。また法律・条例等で捕獲等が規制されている種もあるため、保護するためには一人一人が「むやみにとらない」意識を持つことが大切だとのことだ。

もし珍しい生き物を見つけても、写真撮影だけにとどめてほしい。