ウクライナに軍事侵攻する直前にプーチン大統領が行った28分間の演説。専門家がその全てを読み解くと、プーチン大統領の思惑とは違う「3つの誤算」があることが分かってきました。

「プーチン大統領自身のための戦争」と国民が反発

プーチン大統領の28分間の演説の内容割合は、「NATO・アメリカへの批判」62.7%(17分33秒)、「ウクライナについて」14.5%(4分4秒)、「ロシア国民について」9.0%(2分31秒)、「ドンバス地域について」8.6%(2分24秒)、「その他」5.2%となっています。

筑波大学 中村逸郎教授:
実際に侵攻してみると誤算の連続だったということ。今までの軍事作戦は失敗だったとプーチン大統領は思っている。

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ウクライナ侵攻の直前、2月24日にロシア国民に向けて放送された演説の内容を読み解くと、侵攻前にプーチン大統領が描いていた青写真と、今の現実に大きなギャップがあるといいます。

まず1つ目は「ロシア国民からの反発」があったこと。

2月24日の演説では「ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ」と話していました。これに対し、中村教授はロシアを守るための戦争ではなく、プーチン大統領自身のための戦争だという非難の声が上がり、国民からの反発を招いたということが誤算だったのではないかと指摘します。

実際にロシア国内ではデモが発生しており、ロシア非政府系の人権団体によると、3月8日までに拘束された人数は1万3847人となっています。

西側諸国からのスピード感ある“経済制裁”

そして、2つ目が「西側諸国からの制裁」。

プーチン大統領は、2月24日の演説で「ロシアに対し脅威をつくり出そうとする者には、歴史上直面したことのないような事態に陥らせるだろう」と発言。「嘘の帝国」「賛同しない者は膝を折られる」など、過激で強い言葉を使っていました。しかし、蓋を開けてみれば、時間がかかると予想されていた「SWIFT」が侵攻の翌日に合意されました。

中村教授によると、「SWIFT」などの経済制裁を思ったより早く受けた影響で仲間たち(新興財閥オリガルヒなど)が離れ、身内から裏切られたということが誤算として挙げられるといいます。

さらに、経済制裁がスピード感だけではなく大規模であったことで、ロシアの経済破綻が寸前に迫っているという報道も。「プーチン大統領は落としどころがない」「どこにいくのだろうか」といった話が飛び交っていますが、ウクライナ侵攻を止めるのは経済破綻しかないという話が出てきているといいます。

ウクライナ軍の予想以上の激しい抵抗

3つ目は「ウクライナの予想以上の抵抗」。

プーチン大統領は「起こりうる流血のすべての責任は全面的に、完全にウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている」と演説で語っていました。結果的には、ゼレンスキー大統領の拘束には失敗し、ウクライナ軍の抵抗が激しくスピードのある軍事侵攻は進んでいません。

これらの誤算から“暴走”はエスカレートしていくのでしょうか。さらにプーチン大統領の言葉の変遷を見てみます。

”相手を思う発言”に変わった理由

2月24日には「祖国愛がもたらす無敵の力を信じている」と話していましたが、3日後の27日には「あなた(兵士)たちは最も困難な状況で、可能な限り効率的に行動できることを何度も証明した」と発言。

そして、3月8日になって「あなたたちが自分の愛している人や親しい人を心配していることを私がよく分かっている」と相手を思う、心をくみ取るような発言に変わってきているのです。

これらのプーチン大統領の発言の変遷について、中村教授は次のように指摘します。

筑波大学 中村逸郎教授:
最初の24日は「ロシアの力を信じていくぞ、愛国心でいくぞ」と啖呵を切ったわけです。けれども27日になると「困難な状況に直面した」という言葉が出てくるんですね。そして、最新の演説などを聞いていると、実は若い兵士たちの間で亡くなる人が出てきている。親や友達たちがロシア国内にいるわけですね。そういう人たちが非常に動揺していると、その気持ちは分かるんだとプーチン大統領は言い出してきている。

思ったように全然いっていない。そして、ロシア国内で反プーチン勢力がどんどん拡大してきているということを、プーチン大統領が認めざるをえない状況になってきているということです。

(「めざまし8」3月11日放送)