2021年3月に発生した新潟・糸魚川市来海沢(いといがわし・くるみさわ)地区の地滑りから1年が経過。
明るくも、懸命に避難生活を続ける家族を取材した。
糸魚川市来海沢地区の大規模地滑り いまだ避難生活続く

2021年3月4日、糸魚川市来海沢地区で発生した大規模な地滑り。

1年が経ったものの、現在も避難指示の発令と解除が繰り返されている。

来海沢地区を離れ、市街のスーパーマーケットで買い物をしていた猪又一美さん。彼女も避難生活を余儀なくされている一人。
一美さんは夫と義理の母・シゲ子さんの3人暮らしで、被災後、市営住宅で生活している。
“1日たりとも忘れられない” 故郷への思い

猪又一美さんの義母 シゲ子さん:
人生において、山と里の暮らしを見ていい勉強になった。街の人はこういう暮らしをしているんだなと
現在の暮らしを前向きに捉え、この1年を過ごしてきた一美さんとシゲ子さん。

その心には常に故郷への思いがあった。
猪又一美さんの義母 シゲ子さん:
きれいなアパートに住ませてもらっているが、1日たりとも来海沢のことが忘れられない。山の暮らしはいい。人情味や人の交流があって。ここは一切ない。ドアを閉めてしまえば、誰にも会わないし
復旧工事は融雪のため中断 完了までに7~8年かかる可能性も

その来海沢地区では、土砂の流出を防ぐための土のうや、土砂の水を抜くための排水路の設置など応急工事が完了。
2021年11月から、地盤を安定させることなどを目的とする復旧工事が行われている。

しかし、現在は融雪の時期を迎え作業が中断。
工事の完了までには、まだまだ時間がかかるとみられている。
糸魚川市消防本部 防災係 小杉正和 係長:
来海沢地区周辺で以前に起きた地滑り災害でも、色々な施設が壊れて復旧工事が行われたが、7~8年はかかっているので、規模的には同じくらいかかる可能性はある
戸が開かなくなるほどの積雪…大雪により再び避難指示

そして、2022年も大雪に見舞われた県内。
糸魚川市では2月23日に雪崩が発生し、男性1人が巻き込まれた。

来海沢地区にも多くの雪が積もり、2月14日からは再び7世帯17人に避難指示が出されている。
この日、来海沢地区に一時帰宅した一美さんが戸を開けようとすると…
猪又一美さん:
開くかな。だめだ。雪の重みで押されて(戸が)歪んできている

復旧工事が中断しているため、作業員の姿もなく静まりかえる来海沢地区。
猪又一美さん:
今後気温が上がって、雨が降る予報と聞いている。天気予報も融雪の情報があるので心配している
2022年も地滑りに警戒を…新潟県は危険箇所数が日本一

一美さんが天候を心配する中、雪崩・地すべり研究センターの判田乾一センター所長は「2022も地滑りへの警戒が必要」と指摘する。
雪崩・地すべり研究センター 判田乾一センター所長:
新潟県は全国で一番地滑りの危険個所が多い。今年もだいぶ雪が降ったので、地滑りには注意していただきたい

大量の雪どけ水が地面に染み込むことで、発生の確率が高まると言われている地滑り。
2022年、研究センター内に積もった雪の重さを計測すると…
雪崩・地すべり研究センター 判田乾一センター所長:
金属の計器を雪に刺して、これを抜いて雪の重さを測る。1740gだから密度に換算すると1立方メートルあたり351kg。
1立方メートルあたり、平均で351kgもの水が含まれていることが分かった。

雪崩・地すべり研究センター 判田乾一センター所長:
雪が溶けると351kgの水になり、長さでいうと351mm。それだけの雨が降ったことと同じになる。かなりの水が染み込むことになるので気をつけてほしい。
先が見通せない中でも…故郷で暮らせる日を信じて前向きに

来海沢地区に出されている避難指示は4月には解除される見通しだが、雪どけが終わればすぐ梅雨の時期に。
復旧工事が進まなければ、避難指示と解除が繰り返される状況に変化はない。

猪又一美さん:
義母が高齢なので、ちょっと心配。避難指示や一時避難命令が出なければ安心して暮らせる
一美さんたちがいつ戻れるのか見通せない状況の中でも、故郷は温かくその帰りを待ち続けている。

来海沢区長 神喰重信さん:
小学校から、皆さんに元気を出してくださいとメッセージと手紙が
猪又一美さん:
『僕もサケを育てたり勉強を頑張るので、来海沢の皆さんも頑張ってください』。ありがたいですね。うれしい

猪又一美さん:
避難生活がこんなに長くなるとは思っていなかった。何事もなく家族が健康で過ごせたので、自宅に戻れる日が来ても、変わらずに暮らしていければいいなと思っている
1年が経っても避難生活を続ける猪又さん家族。
我慢の日々も明るく、故郷で暮らせる日を信じ続けている。
(NST新潟総合テレビ)