後を絶たない、子どもが被害者となる事件。
13歳未満の子どもへの性犯罪で、一番多いのが強制わいせつで、2021年の認知件数は748件にのぼる。
1日に2人以上が被害に遭っていることになる。
この罪に問われた被告(当時)本人が、取材に応じた。

勤務先の児童に“わいせつ行為” 被告人の心理

A被告は、児童施設に勤務していた時に、犯行に及んだ。

強制わいせつの罪に問われているA被告:
仕事で一緒になった子どもと仲良くなるうちに、自宅に呼んだりした中で、きっかけがあってやってしまった。(距離が)近くなっていくうちに、いずれは(性的なことを)知ることだから、今でもおかしくないという考えのゆがみもあったと思います

この記事の画像(10枚)

施設に通っていた児童を自宅に呼び出し、就寝中などに下半身を触るわいせつな行為をした疑いで逮捕された。

強制わいせつの罪に問われているA被告:
「本人が嫌がってなかったら傷ついていない」という風に、嫌がることをしてないから大丈夫という風に考えを変えていきました。その時の衝動もありますし。一回成功してしまった…という癖みたいになって、刺激になってやめられなくなっていったんだなと

A被告は逮捕直後から、再犯防止のための「心理教育プログラム」を受けている。
プログラムを実施するのは、臨床心理士の中村大輔さん(38)。

これまで再犯防止のプログラムを100人以上に行ってきた。

A被告:
(被害者に対して)ただただ本当に申し訳ないと思うし、取り返しのつかないことをしてしまったなと

臨床心理士 中村大輔さん:
そうですよね。もう取り返しがつかないですよね。カウンセリングではないんですよ、ここでやっているのは。よく皆さん「カウンセリングを受けている」とか言いますけど、全然カウンセリングではないです、教育ですから。人は変わるんだと僕は思っていますが、どう思いますか

A被告:
変われるかな…と

臨床心理士 中村大輔さん:
本人がそう言っても、周りは何も響かないですよね。「人は変わるんだ」って言っても。難しい領域なんですよ。でも僕は何人も見てきてますからね、変わってきている人を。絶対に(性犯罪を)やらなくなる人もいるんですよ。(プログラム)をやらないと、(何も)変わらないですよね

心理テストなどの検査や週に1回の面談のほか、刑務所に入っている間も手紙のやり取りを行う。

臨床心理士 中村大輔さん:
再犯している人たちは孤立しているんですよ。社会全体は彼らが怖いですから、刑罰を与えて孤立させようとするところもありますし。関係性を作りながら再犯防止する仕組みは要るなと思いますね

ことし1月、中村さんはA被告の裁判に証人として出廷するため、神戸地方裁判所を訪れた。

臨床心理士 中村大輔さん:
簡単に言うと、動機の解明をするということ。心理テストの結果や彼の生い立ちを、私なりに調査した結果を報告します。なぜ犯罪をやってしまったのか、自分で自覚できていないこともあるので、分かりやすく伝えて判決に導いていただく

これまで、中村さんはいくつもの裁判で専門家として証言台に立ってきた。

弁護人:
犯行の動機については、どのように考えていますか

臨床心理士 中村大輔さん:
人格的に非常に幼い部分がある。小学生の時にいじめを受け、助けてもらいたかった、克服したかった気持ちがあり、それを本件に向けてしまった

中村さんが証言したのは、幼い頃の経験から子供への性的な執着が強まったという分析だった。
そのA被告が、プログラムの一環で逮捕されてから記している日記には、子供への過剰な執着が赤裸々につづられている。

A被告:
不安とか疲れとか、心が乱れた時に「ちょっとあぶないかな」というのはありましたね。普段は意識して抑えているんですけど。やっぱり突発的に予期せぬ場所で、予期せぬタイミングで、そういう思考に結びつくものが目に入ったりした時に、ちょっと危ないかなって

「再犯」から子どもを守るために…対策は?

小児わいせつの再犯率は約10%(平成27年「犯罪白書」より)。
10人に1人は再び性犯罪に及び、被害に遭う子供がいなくならないのが現状だ。

被害を繰り返さないために、国も対策に乗り出している。
教師がわいせつ行為で教員免許が失効した場合、その処分履歴がデータベース化されて40年残るようになった。教育委員会が免許を再び与えてよいか判断する際に確認し、再交付を拒否できるようになる。

しかし、この制度が適用されるのは教師に限られ、保育などの現場では適用されない。

保育現場ではどのように職員を採用しているのか。
関西の自治体や事業所に、過去のわいせつ事案について確認しているかアンケートを実施したところ、「確認している」という回答は1つもなかった。

その理由は、「確認すること自体が人権侵害になりかねないケースもある」「辞めた理由は聞くものの、根掘り葉掘り聞くことはできなかった」など、現場で過去の犯歴について確認することの難しさが浮き彫りになっている。

政府が導入検討 「無犯罪証明書」の提出とは

この現状に政府が検討を始めているのが、無犯罪証明書の提出だ。

イギリスではすでに導入されている制度で、子供と日常的に接触のある職に就く場合、求職者は犯罪歴を管理する公的機関「DBS」に自らのデータを問い合わせ、過去に犯罪歴が無いことを証明する書類の提出を義務付ける仕組みだ。
この無犯罪証明書なしでの採用は違法となる。

子供が性被害に遭った人たちは、これ以上被害を増やさないために日本にも同様の制度の導入を求めてきた。

子供が学校で性被害を受けた女性: 
自分がされていることの性的な意味も分からないために、抵抗することもできない。ましてや担任、その人の言うことに従うことが正しいとされる人からの場合、逆らうのは非常に難しい。
娘を担当したこの教諭が、他県で再び教壇に立つようなことがあってほしくないですし、小学校だけでなく、教育保育の現場全てに携わってもらいたくありません。
今すぐ、過去の性犯罪歴を採用時に確認できるシステムに変えてほしいと考えています

そして、被害者の家族だけでなく、保育現場もDBSの導入を求めている。

認定NPO法人 フローレンス 前田晃平代表室長:
(問われているのは)社会が何を大切にしているのかということだと思っています。子供に対して性加害をする可能性のある加害者が、再び子供と関わる職業に就ける権利を守ろうとするのか、そこから子供を守ろうとするのか。どっちが大事なんですか?っていう、極めてシンプルな問題

前田さんによると、この仕組みは加害者にとっても意味があると言う。

認定NPO法人 フローレンス 前田晃平代表室長:
例えばアルコール中毒になってしまったが、立ち直ろうとする時に重要なことの一つにアルコールを目の前に置かないということがある。トリガーになってしまう。どんなに我慢しようと思っていても、そこにアルコールがあったら飲んでしまう。
小児性の犯罪もこれと同じで、子供と関われる仕事に就けてしまうという現状が、むしろ加害者の社会での更生を妨げているということも言える

一方、自治体からはDBSを導入することで、慢性的な人手不足にさらに拍車がかかってしまうのではないかとの声があがった。

関西の自治体・採用担当者:
学校や児童クラブなど子供に関わる業態は人材不足であり、証明書の発行手続きが簡易なものでなければ、発行の手間を疎んで採用に応募しなくなることが懸念される。

言い渡された有罪判決 “衝動とどう向き合う?

児童への強制わいせつの罪に問われていたA被告。
執行猶予付きの有罪判決を受けた。
「卑劣で悪質な行為」と指摘された一方で、再犯防止への取り組み姿勢などが考慮された。

A被告:
加害者になって、自分がどれだけひどいことをしてしまっていたか。被害者の調書に本人の言葉が書かれていて…。「もう二度とこんなことはしないでほしい」と書いてあって、その思いに応えたいなあって

A被告は、これから社会生活で「衝動」と闘う日が始まる。
中村さんは加害者を規制する対策とともに、立ち直らせる社会の仕組みが必要と考えている。

臨床心理士 中村大輔さん:
関係者とか家族とか本人はその意識があるんですけど、社会全体や地域全体がそういった観点を作ってもらって、社会全体で立ち直りをさせる取り組みがまだまだ足りてないと思いますね

加害者の更生と被害の抑止。
子どもを守るための課題は多くある。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年3月2日放送)