3700人を超える乗客・乗員の間で712人に新型コロナウイルスの「感染爆発」が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(以下DP号)。日本と世界にウイルスの脅威を知らしめたこの舞台裏についてFNNでは4月19日午後8時からの番組「日曜 THE リアル シンジジツ」で改めて検証する。この記事では、番組内で検証要素の1つとなる日本政府の対応に絞ってより詳しく振り返るが、第3回となる本稿は、事実上の船内隔離の中盤から後半に起きた数々の想定外の動きと、政府の対応を検証する。

【徹底検証クルーズ船オーバーシュート その1】徹底検証クルーズ船オーバーシュート 船内感染の舞台裏で見えた“予言”と“想定外の教訓”

【徹底検証クルーズ船オーバーシュート その2】「みんな濃厚接触者だ」船内隔離スタートもコロナ感染者増加 いら立つ政府「必死にやってんだ!」

米政府チャーター機派遣の舞台裏「船内隔離はワンダフル」からの“変節”2月15日(土)~17日(月)

DP号の横浜港での待機、乗客の「船内隔離」が続く中で、水面下で二転三転していたのが、外国人乗客、特にアメリカ人乗客の扱いだった。
2月15日、在日アメリカ大使館がDP号に乗船するおよそ380人のアメリカ人を退避させるため、国務省がチャーター機を派遣すると発表した。この発表を聞いた政府関係者は「待っていた。本当に助かる」と吐露した。これは日本政府の偽らざる本音だっただろう。

多くの外国人客が乗船するDP号については、海外メディアも大きな関心を寄せ、DP号を「浮かぶ監獄」「小さな武漢」などと例え、過激な言葉で船内の感染対策を批判する記事もあった。外国人乗客の中には「船を降りたい」とSNSを通じて訴える人もいて、それにアメリカ政府が応えた形だ。

乗客撮影
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しかし実際の所、事はもう少し複雑だった。実は早い段階でアメリカ政府はDP号に乗船しているアメリカ人の移送について「在日米軍基地を経由する案も含めて検討したい」と打診したが、結局日本政府の対応に委ねる意向を示していたのだ。

8日夜の時点で加藤厚労相は記者団に対して「アメリカから乗客を移送させるという話もあったと聞いているが、最終的には今の状態の中で日本の対応にお任せすると聞いている」と話している。政府関係者も「日本側がアメリカ人乗客の早期帰国を提案したことに対し、アメリカ側が『日本の厚生労働省が行っている船内隔離措置はワンダフルだ』として、乗客を船内に留めるよう要請した」と証言している。つまり、アメリカ政府はDP号内の自国民の対応を日本政府に一任し、船内隔離に賛成、対応を称賛していたのだ。

それが15日になり、一転チャーター機を派遣して退避させることとなった。突然の方針転換の背景には何があったのか。関係者によると、一部の乗客から「船から出たい」と訴えかけられたアメリカの有力議員が動いたことで、アメリカ政府が態度を一転させ、乗客を早期に帰国させる方針に変更したのだという。

そして、17日朝、帰国を希望したアメリカ人乗客らはチャーター機で日本を後にした。これに続くように韓国、カナダなど各国の乗客らが次々と帰国した。日本政府としては、「出て行ってもらう分にはかまわない」と関係者の一人が話すように、外国人乗客の出国は、相次ぐ有症者への対応や、全員検査、そしてその先にある全員下船を考えると、管理の必要な乗客の数を減らすという観点では、肯定的に捉えていたようだ。

「岩田動画」が波紋「対策不備」批判に政府反論 2月17日(月)~19日(水)

こうした中、乗客の船内隔離をめぐり、新たな騒動が勃発した。厚生労働省は17日、船内でこれまで最多の99人の感染が確認されたことを発表した。翌18日には88人、19日には79人の陽性が確認された。これを受け、乗客らを留め置いたことによって船内での感染が拡大しているのではないかという疑いの声が強まったのだが、その声を拡大させるような、政府にとって頭の痛い“事件”が起きた。神戸大学の岩田健太郎教授による動画投稿だ。

岩田健太郎教授

クルーズ船にDMAT(災害派遣医療チーム)の一員として乗船した岩田教授は18日夜、船内で、感染の危険がある区域と安全な区域の区別がついていないなどと、感染対策の不備を指摘する内容の動画を「YouTube」に投稿した。「ダイヤモンドプリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました」などと主張した岩田氏のこの動画は国内外で広く視聴・拡散された。メディアや国会でもこの岩田教授の主張が取り上げられ、政府の対応への批判が高まる中、政府高官は次のようにいら立ちを露わにした。

「部分的に見ただけの話をしているだけでしょ。DMATの仕事のエリアだって一部を見ただけだろう」

さらに、厚労省のチームの一員としてDP号で実務にあたっていて、岩田教授の乗船にも関わった高山義浩医師も、岩田氏は船内には2時間弱しかおらずラウンジ周辺しか見ていないと指摘し、「ゾーニング(区域分け)は完全でないにせよしっかり行われていた」などと反論した。

船内で対応にあたっていた橋本厚労副大臣は、船内の衛生管理は適切だなどと岩田教授に反論した上で、船内の写真をツイッターに投稿した。しかし、その写真には「清潔ルート」「不潔ルート」と張り紙がされている様子が写っていて、医療用語としての「不潔」という言葉が一般の人に違和感を抱かせたことや、写真では2つのルートが完全には分けられていないようにも見えることが、さらなる疑念を招くこととなった。ただ、岩田教授はその後、「ゾーニングが改善され注意を促す必要がなくなった」などとして動画を削除した。政府関係者からは次のような声が漏れた。

橋本岳厚労副大臣のtwitterより

「当然でしょ。2時間しかいなかったんだから。色々と苦情が来たんじゃないの」

「『納得しました』と消したから、発症者の数は5日からぐんと下がっているから船内感染が隔離によって抑えられているとわかって、動画を消したと言うこと。岩田教授は別に意図があって動画を作った訳じゃないでしょ」

このように政府は一貫して船内で「感染予防を徹底していた」との立場をとっている。その根拠の1つが19日に国立感染症研究所が公表した分析結果だ。それによると18日の段階で感染が確認された乗客乗員531人(うち255人が無症状)に関し、分かっている発症のピークは7日だとしている。ウイルスの潜伏期間を考えると、「2月5日に検疫が開始される前に実質的な伝播が起こっていたことが分かる」と暫定的に結論づけている。つまり、政府が客室待機を求める前に感染が実質的に拡大していたのだとして、検疫開始後の船内の感染予防に問題はなく、感染者増に大きな影響を与えてはいないという主張だ。

ついに乗客下船、追加隔離なく公共交通機関などでの帰宅に批判も2月19日~

厚生労働省は、14日間の客室待機の期限目前の18日、発熱などの症状がなく、検査で「陰性」と確認された乗客を「新型コロナウイルスに感染しているおそれはないことが明らか」として、19日から順次下船させることを発表。そして、予定通り19日から乗客の下船が開始され、乗客はバスでターミナル駅に移動し、公共交通機関も含めそれぞれの手段で帰宅の途についた。

陰性の約500人が下船・2月19日

しかし、この方針は野党などからの批判にさらされた。チャーター機で自国民を帰国させた各国は、帰国後さらに14日間の隔離措置をとっていたからだ。野党側は国会で、さらに2週間程度の隔離を行うよう求めた。

野党会派・山井和則議員

「きょう10時半に下船されて、約500人が横浜駅や東京で解散となって自由に帰宅されると聞いている。電車に乗られる方、自宅に戻られる方、買い物する方おられます。そういう中で本当にその方々が自由の身になっていいのか。私は下船していただくのは賛成です。ただしその方々は、アメリカの例にもあるように2週間ぐらい隔離させていただくと。いったん500人の方々からどんどん感染したら、収拾つかないことになりかねない。だから念のために今からでも今後下船する方に関しては、2週間は隔離することを念のためやるべきじゃないか」

加藤厚労相

「感染研から14日間しっかりと管理がなされて陰性であって最終的に健康確認なされていれば、公共交通機関を使ってもいいという示唆があり、いろんな数字を出させていただく中で最終的に判断したと。委員のご懸念もございますので皆さん方に健康カードを渡して何か生じれば私どもに直通でお話しいただく。それぞれの地域でフォローアップもしっかりしていく」

加藤厚労相はこのように説明し、乗客全員について予定通り下船が実施されたが、国民の間には不安が残った。またこの時点では、当初の3700人超の乗客乗員について、感染確認者が増え続けても死者は出ていなかった。政府関係者は「まだ、クルーズ船内の人が亡くなっていないのが救いだね」と語っていた。しかし2つの心配事は、共に現実のものになってしまう。

2月20日(木)~29日(土) 初の犠牲者 下船後も相次ぐ「陽性」

「お亡くなりになった方のご冥福をお祈り申し上げますと共に、ご家族の方に改めてお悔やみを申し上げます」(加藤厚労相)

20日、新型コロナウイルスに感染し入院していた乗客のうち、80代の日本人の男女2人の死亡が発表された。DP号の乗客で初の死者だった。さらに23日には80代の日本人男性、25日にも80代の日本人男性、そして28日には70代女性とイギリス人男性が死亡するなど、ウイルスの犠牲になる乗客が相次いだ。

そして22日、もう1つの懸念が現実のものとなった。ウイルス検査で陰性とされ、19日に下船していた栃木県の60代の日本人女性が、帰宅後発熱し新型コロナウイルスに感染していたことが判明したのだ。この時点で約970人の乗客が陰性と判断され下船していたが、その中から感染が確認された初のケースとなった。アメリカなどはDP号の乗客を帰国後も2週間にわたり施設で「隔離」するなどしていたため、下船後の日本政府の対応への疑問の声が広がった。

その後、徳島県や宮城県などでも同様のケースが確認され、また健康観察中に発熱などの症状を訴える人も相次いだ。結局、症状がないまま下船し公共交通機関も含めた手段で自宅に戻るなどした乗客1011人に関し、下船後14日間の健康フォローアップ調査をした結果、7人の感染が確認された。ただし、この7人から他の人への感染については確認されていないという。

<次稿に続く>

(フジテレビ政治部 ダイヤモンド・プリンセス号検証チーム)

※「日曜 THE リアル シンジジツ 豪華客船新型コロナ感染拡大の舞台裏」 フジテレビ系列にて4月19日午後8時~9時54分放送

番組では、政府の対応に限らず、ダイヤモンド・プリンセスの中で何が起きていたのかに関する壮大な検証を行う。