3700人を超える乗客・乗員の間で712人に新型コロナウイルスの「感染爆発」が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(以下DP号)。日本と世界にウイルスの脅威を知らしめたこの舞台裏についてFNNでは4月19日午後8時からの番組「日曜 THE リアル シンジジツ」で改めて検証する。この記事では、番組内で検証要素の1つとなる日本政府の対応に絞ってより詳しく振り返るが、第2回となる本稿は、事実上の船内隔離スタート当初の政府の水面下の動きを描く。

【徹底検証クルーズ船オーバーシュート その1】
徹底検証クルーズ船オーバーシュート 船内感染の舞台裏で見えた“予言”と“想定外の教訓”

「船内みんな濃厚接触者だ」DP号内での隔離実行も様々な懸念が2月5日(水)

2月4日に乗客10人の新型コロナウイルス感染が判明したDP号。夜が明けた5日午前、陽性が確認された10人の病院への搬送が始まった。そして政府は横浜港に停泊中の船内の乗客についての当初の方針を変更、加藤厚労相は会見で、船内の乗客全員に対し14日間客室に留まってもらうことを表明した。政府関係者も一転、危機感を露わにする。

「(乗客は)出さない。14日はいてもらいますよ。テレビで見ていたけど、ダンスをしたり、バイキングをしたり。もうあれは船の中にいる人はみんな濃厚接触者だ

乗客撮影
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そして安倍首相は国会でこの問題について初めて答弁し、「乗員乗客の皆様には、当面上陸を認めないこととし、必要な期間、船内にとどまっていただき、感染を予防する行動を徹底しつつ、客室で確実に待機して頂く中で引き続き臨船検疫を進めてまいります。乗客乗員の方々の健康状態の確認を最優先にしつつ、感染拡大防止に向けて万全の対策を講じて参ります」と述べた。

しかし、厚労省で対応にあたっていた関係者は現地から連絡を受けていたが、「正直何が起きているのかわからなかった」と語っている。また、別の政府関係者は、乗客の「船内待機」という扱いや、船内の区域分けについて、次のように心配していた。

「(乗客の扱いは)難しいところなんだよね。両面あって、そのまま待機させた方がいいのか、降ろした方が感染が船内で広がらなくていいのかっていう議論がある。厚労省中心に検討中だよね。船内でも症状ありそうな人と、そうでない人を階数別にしっかり分けるとか、そういう対応をするんじゃないかな。今もしているのかもしれないけど」

さらに、別の政府関係者も「あれ、そのまま船内に閉じ込めてたら外国から非難されてもおかしくないですよ」と海外からの非難を懸念していた。この懸念通り、「船内隔離策」は後に海外から批判されることになる。

しかしこの時点では、政府関係者から「運良く今回はホテルシップだから、そのままいてもらえばいい」との声が出るなど、政府は船内での乗客の管理に一定の自信を見せていた。別の関係者は「正直言って3700人も収容できる場所が陸地にないじゃないですか」と、船内待機以外の選択肢はないという事情を明かしていた。

一方、症状のない乗客も含めた全員にPCR検査をするかどうかも課題になっていたが、この時点でも政府は否定的だった。ある政府関係者は「難しいね。まず発熱とか症状ある人、そして香港の人との濃厚接触者が終わって、次は(感染確認された)10人と濃厚接触している人、そして既往症のある人、ここまでやったら1000人くらいになるんじゃないかな。そうすると2週間は経ってしまう」と説明していた。

こうした対応ぶりに関し、この日の夜、官邸関係者は1つの懸念を指摘していた。それは厚労省の態勢への懸念で「今の厚労省は異次元の事態に完全に対応できてない状態ですよね。総理もお尻を叩いているみたいですけど」と、DP号も含めた国内での感染拡大防止に厚労省の手が回りきっていないことを指摘していた。

感染拡大・隔離長期化に乗客から悲鳴 幻の海保潜水士投入計画も  
2月6日(木)~9日(日)

2月6日、前日に続いてこの日も新たに10人の乗客の感染が確認された。翌7日にはさらに増え41人の陽性が確認された。船内での3次感染が疑われるのではと聞かれた政府関係者は「直前までイベントをしていたり同じ船の中だから手すりを触ったりなんかして感染しているという可能性も否定はできないだろう。そういう意味で可能性はゼロではないと思うがまだ報告は聞いていない」と説明している。

政府高官は、体調不良者273人の検査を終えたことを受け「第一弾としては終わり。全部やった。(今後、検査の)対象を拡大するかどうかだね。船内ではクロス接触が起きているから、どこでどう感染が広がっているか分からない」と述べていた。感染の全容が見えないことへの不安が表れていたが、政府内には、まだ全員に検査を行うという決意はうかがえなかった。

また加藤厚労相は「検査キットの数にも限りがある。国内に疑いのある方がいればチェックしないといけない。まずは船内におられて重篤になりやすい高齢者の方にPCR検査を実施したい」と述べていた。

一方、この7日、乗客の一人が「くすりふそく」と書かれた垂れ幕を横浜港に集まるメディアに向けて示す姿が大きく報道された。DP号には多くの高齢者が乗船していたため、船内では常備薬などの不足が深刻な問題となっていた。

政府は、防護服姿の作業員らによる医療品や食料などの船への搬入作業に加え、8日には一度離岸し外洋に移動したDP号に対して、物資を積んだヘリがDP号付近に待機する海上保安庁の船に物資を投下、それを海保の潜水士がDP号へと運び込む段取りも検討していた。この計画は天候の悪化で実現されず乗客を落胆させたが、政府もDP号への支援に様々な知恵を絞っていたのは確かだった。

しかし船内での仕分け作業の滞りなどから、運び込まれたはずの薬が必要な乗客の手には届かないケースも発生し、「船内隔離」を受ける乗客の不満は高まるばかりだった。閉ざされた空間で増え続ける感染者、高まる乗客の不満…。その不満は日本国内だけでなく、外国人乗客がSNSなどを通じ母国に向けて発信する例も増え、海外からの批判も高まっていた。その象徴が、英国人乗客が発した「浮かぶ監獄だ」というもので、様々な海外メディアで報じられた。

こうした批判の高まりに政府内のいら立ちは募っていた。ある政府関係者は、下船を望む外国人乗客について「え?検疫だぞ?菌(ウイルス)ばらまいていいのかよ。陽性が出た人や病気の人はちゃんと降ろしている。検疫なんだから船にいるんだよ、本筋ずれちゃいけないんだよ」と苦言を呈した。

さらに、船内での感染確認者増について「水際対策がちゃんと出来てるってことなんだよ。普通に考えて船の上で増えているわけじゃなくて、香港人と接触して感染してから潜伏期間が徐々に明けているということだろ。徐々に検査しているから結果も徐々に出てくるって言うのは当たり前だろ。こっちは必死に目の前のことをやってんだよ!」と声を荒らげた。

また下船希望の客についても「降ろすとすればどこに降ろすんだよ。検査結果も出ていない人を受け入れる自治体なんてないだろ」と述べ、海外メディアによる批判についても「結局のところ対案はあるのかというところなんだよ。お前らの国で何とか出来るならやってくれってことだ」と一刀両断した。

しかしその後、さらなる陽性者増に加え、検疫官の感染初確認、乗客数人の重症化などが明らかになった。政府高官は下船した乗客4人が重症化したことを記者から聞かれると、「だってあれだけの人数どこに降ろすのよ。場所ないでしょ。確かに船内は大変な状況だと思うけどさ...」とうつむき加減にこぼした。

「優先下船」の舞台裏 2月10日(月)~14日(金)

こうした中、下船を望む乗客の声の広がりを受け、政府内では一部乗客の下船に向けた本格的な検討が進んでいった。この「優先下船」の可能性について政府関係者が言及したのは、クルーズ船到着から最初の週が開けた10日(月)の朝だった。

「感染の疑いのない人たちについては、船から降ろすことも考えないといけない」

新型コロナウイルスに万が一感染した場合に重症化リスクの高い、基礎疾患を持つ高齢者を優先的に検査し下船させるというものだ。また高齢者をこのまま客室で長期滞在させ続けると、持病が悪化する恐れもあった。

官邸からも「感染の疑いのない人たちについては、船から降ろすと言うことも考えないとね。ただ、降ろす順番も考えないといけない。薬が足りない人とか、病気を抱えている人とか、高齢者とかね。(検査するのに)濃厚接触者とかを優先していたら、感染の疑いのない人たちが検査するまでに時間がかかってしまうからね。そこをなんとかしないと」という声が聞かれた。

そして13日、加藤厚労相が「窓のない部屋にいる人」「基礎疾患を持つ人」「高齢者」を優先下船させる方針を正式に発表した。さらに80歳以上の乗客については既に検査中だとして、陰性が確認されれば14日以降に下船を許可し、政府が用意する宿泊施設に移動してもらうことも明らかにした。

ある政府関係者は、この日に優先下船を発表できた背景について、「民間の検査施設が立ち上がり、検査能力が向上したことで有症者への検査を終え、80歳以上の乗客などを検査するキャパシティーが出来たからだ」と解説する。

一方、この間、船内隔離が続く乗客のストレスは増していた。ある乗客は「今回はある種災害に近い状況。人災も十分にあるはずだ。薬の要求をしても何日も放置されている。(船内サービスセンターの)受付の能力を超えた要求が出ている。現場の人たちは非常に真摯です。問題は決定権限を持った人が現場にいない」と述べ対応の改善を求めた。

こうした中で、厚労省内では政治家が船内で調整にあたるべきだという意見が出て、全乗客・乗員を対象にしたPCR検査が始まった11日、橋本岳厚労副大臣と自見英子政務官が船内に乗り込んだ。

橋本岳厚労副大臣のtwitterより

橋本副大臣は、最初に船内に入ったときの状況について「体調が悪くなった方の一人一人の部屋に行って話を聞き、陽性患者の病院の行き先を探して搬送する作業をやっていた。行きたくないという話があったり、私も連れて行ってくれと言う話があったが、いやお一人で…と説得してお連れをした」と語ったほか、船内の医療チームはこうした作業に追われ「てんてこまい」だったと証言している

そしてその先には、政府にとってのさらなる様々な“想定外”が待ち受けていた。

<次稿に続く>

(フジテレビ政治部 ダイヤモンド・プリンセス号検証チーム)

※「日曜 THE リアル シンジジツ 豪華客船新型コロナ感染拡大の舞台裏」 フジテレビ系列にて4月19日午後8時~9時54分放送

番組では、政府の対応に限らず、ダイヤモンド・プリンセスの中で何が起きていたのかに関する壮大な検証を行う。