3700人を超える乗客・乗員の間で712人に新型コロナウイルスの「感染爆発」が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(以下DP号)。最初の乗客の感染が発覚してから約2か月半が経つが、思えばこの事例は日本と世界に新型ウイルスの脅威を知らしめる大きなきっかけとなった。豪華客船という閉ざされた特殊空間で何が起き、ウイルスという「見えない敵」とどう戦っていたのか。FNNでは4月19日午後8時からの番組「日曜 THE リアル シンジジツ」で、その舞台裏を改めて検証する。そしてこの記事では番組の中での検証要素の1つとなる日本政府の対応に絞って、より詳しく振り返っていく。

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DP号に感染者の一報にも政府に表立っての動きはなし2月1日~2日

未曾有の事態の始まりは2月1日土曜日だった。1月20日に横浜港を出港し、鹿児島→香港→ベトナム→台湾と周遊してきたDP号はこの日、沖縄の那覇港に入港した。そして同日、香港で6日前にDP号から下船した男性の新型コロナウイルス陽性が確認される。その事実は国際的な保健連絡システムを通じて、日本の保健当局である厚生労働省に伝えられた。関係者によると連絡が来たのは、DP号が那覇港を出港し、終着地である横浜へと向かった後だったという。

しかし、この時点で政府内にDP号について深刻に受け止めているような動きは見られなかった。この日は土曜日だったが、首相官邸を中心とした政府内では、中国・湖北省に滞在する日本人をチャーター機で帰国させ、国内の施設での待機を要請するオペレーションが続いていたほか、水際対策の強化などに追われていた。また厚労省も、チャーター機で帰国した日本人の中から新たに感染者が確認されたことなどへの対応に追われていた。

翌2日、DP号での感染者判明がメディアで報じられ始める。しかし日曜日だったこともあってか、この日も政府として表立っての動きはなかった。そのころDP号は太平洋上を横浜港へと向かっていた。船内では最後の夜を飾る「さよならパーティー」が開催され、多くの乗客が集まってダンスなどに興じる写真が、後に米紙に掲載された。

乗客撮影

感染が表面化も政府は楽観的見通し 2月3日(月)

そして週明けの2月3日(月)、事態は動き始める。前日の感染者判明報道を受け、記者たちも政府が把握している情報の確認に走った。午前中、官邸関係者は乗客の健康状態などについて「今調べている」と述べた上で、外国人乗船者の入国拒否も、入管法の解釈により可能だとの見方を示した。菅義偉官房長官の定例会見でも質問が出て、菅長官は「今後、横浜港に入港予定であり、検疫法に基づき検疫を行うなど適切に対応していく」と述べた。

そして、この問題は当日の国会でもすぐに取り上げられた。国民民主党の岡本充功衆院議員が予算委員会で、次のように加藤勝信厚生労働相と質疑を交わしている。

岡本議員

「ちょっと気になることがあって、(中略)2500名を超える方が乗っているというが、こうした船の中の状況もきちんとウォッチしてるんでしょうか」

加藤厚労相

「クルーズ船は横浜を出発して、ずうっと回っていかれて、今香港とおっしゃいましたかね、降りてその方が感染しているということがわかったと。その途中で帰りに那覇に寄っておりまして、その段階で残念ながらその情報が入っておりませんでした。 しかし今、我々情報をつかんでおりますし、船の中には、新型コロナウイルスの症状かどうかは別として、熱があったり、ちょっと体調が悪いという方もいらっしゃるんで、横浜に入った段階で、しっかり検疫等で対応していきたいというふうに考えています。今その準備を進めているところであります」

岡本議員

「もう明日入港ということなので万全を期していただかなければならない」

そしてDP号は2月3日夜に横浜港に到着。船内では体温測定などの検疫作業が開始され、発熱などの症状がある人や陽性男性との濃厚接触者に対してPCR検査が行われた。検疫が行われていることを知らせるアナウンスが流れると、乗客からは「えっ」と驚きの声があがり、船内にざわめきが広がったという。

後になって明らかになるが、この時点で船内の感染は相当拡大していたのだが、政府内には、中国・武漢からの邦人帰国の前例などから「(DP号への対応は)問題なく実施できる」(政権幹部)との一種の楽観ムードがあったようだ。

厚生労働省は記者団に対し、症状がなく濃厚接触者でもない乗客については、「経過観察し問題なければ自宅に帰ってもらい、発熱などがあれば連絡してもらい検査を改めて行う」と説明、つまり翌日の午後には下船させる方針を示していた。また同じ頃、官邸関係者は記者の質問に対し、次のように語っている。

「あぁ、クルーズ船ね。今、大黒ふ頭にいかりを置いて接岸せずに停泊している。(体調不良者が)7人いるみたいで、もう検査をしたからあとは陽性じゃなければいいけどね。陽性だった場合は、彼らが誰と接触したのかについて聞き取りを行わないといけない。そういう意味では、厄介なことになるかもしれない。(記者:陽性だった場合、その他の人も船に滞在したままか?)もちろん!だってクルーズ船だろ。プールも食事もなんだってあるんだから」

乗客撮影

また、別の官邸関係者は乗客全員を検査するのか問われ「全員というのはなかなかね」と難色を示している。下船者をチャーター機での帰国者と同様に、施設などで一定期間待機させるかについては「そんなことできないでしょ」と否定した。

この時点では、後に行うことになる「全員検査」も、本格的には想定していなかったということだ。しかし、政府の希望的な見通しはわずか1日で崩れ去る。

楽観論は崩れ去り危機感が拡大…パニックの予言も 2月4日(火)

翌4日、船内では乗客への健康チェックと、有症状者への検査が続いていた。加藤厚労相は午前中の会見で、「現段階で新型コロナウイルスにつながっていくような発熱とか、呼吸器の症状を有している人たちがどれだけいるか数字はまだ把握できる状況にはなっていない。当初は今ごろ確定している予定でありましたけれども…」と、乗客への健康チェックや検査、船内の状況把握に時間がかかっていることを明らかにした。一方で、ある政府関係者は、次のように強い危機感を示した。

「もし今回の検査結果で(船内から)陽性患者が出て、3千数百人がずっと缶詰めになったらなったで、船の中は恐ろしくパニックになってしまいそうではありますよね」

乗客撮影

この発言はまさに予言だったのかもしれない。4日の夜11時半ごろ、加藤厚労相から菅官房長官のもとに電話が入った。加藤厚労相はこう打ち明けた。

「乗客31人をPCR検査した結果、10人が陽性だった。これは政府全体で対応すべきだ」

加藤厚労相からの報告を受け、菅長官は「3700人が乗るクルーズ船で3人に1人が感染となれば、1000人を超える感染者を出すことになるかもしれない」と一気に危機感を強めた。

そして菅長官は深夜にも関わらず急遽、加藤厚労相と赤羽一嘉国交相をはじめ、官邸と関係省庁の幹部ら約20人を、国会に近いホテルニューオータニの一室に集めて緊急会議を開催した。

菅長官らは、船内の現状や乗客への検査態勢を事務方に確認した。さらに「患者をどう陸にあげるのか」「救急車はどこにつけるのか」「マスコミには何時に知らせるか」などと意見が飛び交った。

そして最大の問題である船内の乗客の扱いについては、「船内に留め置かない方がいいのでは」という声もあったものの、3000人を超える人々を下船させても、滞在してもらえるような施設はないとの理由などから、船内で14日間待機してもらう方針が決まった。会議が終わったとき、時計の針は午前2時半を指そうとしていた。

そして翌朝から、「ウイルス船内感染」という見えない敵に対する、政府の長く厳しい戦いが本格化していった。

<次稿に続く>

(フジテレビ政治部 ダイヤモンド・プリンセス号検証チーム)

※「日曜 THE リアル シンジジツ 豪華客船新型コロナ感染拡大の舞台裏」 フジテレビ系列にて4月19日午後8時~9時54分放送

番組では、政府の対応に限らず、ダイヤモンド・プリンセスの中で何が起きていたのかに関する壮大な検証を行う。