妊娠を望んでいないのに性交で避妊できなかった時、性被害にあって妊娠の可能性がある時、女性が取れる選択肢の一つとして、「緊急避妊薬」がある。緊急避妊薬はアフタービルとも呼ばれ、性交後できるだけ早く服用することで緊急的に妊娠の可能性を下げることに役立つ薬だ。

販売されている薬の添付文書(※注)によれば、性交後72時間以内に服用した場合の妊娠阻止率は84%、妊娠率は1.34%である。現在簡単に手に入るとは言えない緊急避妊薬だが、どこで入手でき、どのような注意が必要なのだろうか。
(※注)あすか製薬株式会社ノルレボ錠添付文書より

「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」(以下、「緊急避妊薬を薬局でPJ」)は、2022年2月4日に厚生労働省に緊急避妊薬の薬局での入手を実現について要望書を提出、記者会見を行い、緊急避妊薬を必要としている人が入手する上でのハードルや、課題解決に向けた提言などについて述べた。

左から「緊急避妊薬を薬局でPJ」共同代表の産婦人科専門医遠見才希子氏、#なんでないのプロジェクト福田和子代表、NPO法人ピルコン理事長染矢明日香氏、厚生労働省(医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長)吉田易範氏
左から「緊急避妊薬を薬局でPJ」共同代表の産婦人科専門医遠見才希子氏、#なんでないのプロジェクト福田和子代表、NPO法人ピルコン理事長染矢明日香氏、厚生労働省(医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長)吉田易範氏
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医師の処方箋なしで緊急避妊薬を!

日本では2011年に緊急避妊薬が発売開始されたが、入手するためには産婦人科の受診が必要で、必要な時にすぐ入手しやすいとは言えない。

「緊急避妊薬を薬局でPJ」は、2020年秋に緊急避妊薬へのアクセス改善を求める要望を、10万7千筆超のオンライン署名と共に厚生労働省と内閣府に提出した。これに加えて、2020年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画、2021年に本部決定された女性活躍・男女共同参画の重点方針、2021年6月に閣議決定された骨太方針の中に、緊急避妊薬の処方箋なしでの薬局での利用検討が盛り込まれたことを受けて、2021年5月から厚生労働省は、医師の診察と処方箋が必要な「医療用」から、薬局で購入できる「要指導・一般用」へ転用する評価検討会議で、緊急避妊薬について検討してきた。

次の検討会議は2022年2月に予定されていたが、「緊急避妊薬を薬局でPJ」共同代表の染矢明日香さんによれば、申し入れをした2月4日時点では日程の目処がたっていなかったことから、早急に議論の再開を求めたと言う。申し入れに対して、厚労省からは年度内の再開を予定していると回答があったそうだ。

なぜ、薬局での緊急避妊薬の入手実現が急がれているのだろうか。

薬局での販売を求める切実な声

記者会見では、特定非営利活動法人ピッコラーレの土屋麻由美さんから、「にんしんSOS東京」に寄せられた相談から見えてきた、切実な事例が紹介された。

土屋さん:
 2015年から2021年にかけて相談を受けた5215人のうち12%が避妊薬に関する相談で、その中の49%が10代からの相談でした。学校での性教育の時間が限られる中、ネットや友人からの偏った情報、間違った情報を鵜呑みにして性行為をしたが、自分たちが行った避妊行動に自信がなく、妊娠するのではないかと心配になるケースが見受けられます。

それでも自分たちで調べて、緊急避妊薬の情報にたどりつくものの、入手へのハードルがあって相談に訪れます。10代は手持ちのお金がなくバイト代が入るまで待つ必要がある、学校や塾の都合で病院がやっている時間に受診できない、年末年始やゴールデンウィークで病院が休み、といった理由で薬が有効な72時間を過ぎてしまうことも。

2019年から条件付きで始まったオンライン診察についても、クレジット払いの病院が多く10代には支払えない、内服までに時間がかかる、配送料がかかる、内服後の不安を相談しづらいなどといった課題があります。様々なハードルで緊急避妊薬を入手できなかった相談者は、その後も大きな不安を抱え続けることになります。

児童虐待死で最も多いのは0カ月0日の新生児です。緊急避妊薬を入手しやすくすることは、予期せぬ妊娠を防ぎ、児童虐待死を防ぐことにもつながります。

 

2020年10月に「緊急避妊薬を薬局でPJ」から厚労省に提出された資料より
2020年10月に「緊急避妊薬を薬局でPJ」から厚労省に提出された資料より

「緊急避妊薬を薬局でPJ」が2020年に緊急避妊薬を入手した人を対象に行った調査では、意図しない妊娠に対する不安を感じたきっかけとして67.7%の回答者が「破損や脱落といった男性用コンドームの失敗」をあげており、コンドームによる避妊をしていても緊急避妊薬を必要とするケースが少なくないことがわかった。また、9.0%の回答者が意図しない妊娠に対する不安を感じたきっかけが「レイプ、性虐待」であった。

世界90カ国超で緊急避妊薬を薬局で入手可能

WHO(世界保健機関)は、2018年に「意図しない妊娠のリスクに直面するすべての女性と少女は、緊急避妊の手段にアクセスする権利がある」と各国に勧告している。諸外国の緊急避妊薬の入手のしやすさ、価格は、日本と比べてどうなのだろうか。

「緊急避妊薬を薬局でPJ」によれば現在薬局で入手できるのは世界90カ国以上だ。価格に関しては、日本では6000円から2万円のところ、日本を除くG7(主要7カ国)で約800円から5000円程度で購入できる。フランス、ドイツなどでは若年者が緊急避妊薬を無料で入手できる。

記者会見で「緊急避妊薬を薬局でPJ」共同代表の福田和子さんからは、2019年に開催された世界人口開発会議など、複数の国際会議で日本の緊急避妊薬をめぐる現状を伝えた際、出席している他国の出席者に「緊急避妊薬を入手しづらい日本で、女性は自分の身体や人生をどうやって守るのか」と衝撃をもって受け止められたという報告があった。

2020年10月に「緊急避妊薬を薬局でPJ」から厚労省に提出された資料より
2020年10月に「緊急避妊薬を薬局でPJ」から厚労省に提出された資料より

科学的根拠に基づく議論を

すでに多くの国で薬局で処方箋なしに入手可能な緊急避妊薬だが、日本では、薬局での入手に関してどのような点が懸念されているのだろうか。

染矢明日香さんから、「様々な懸念に関しては、WHO(世界保健機関)が発行しているファクトシートなど科学的根拠を元に議論を進めることが大切だ」というコメントがあった。「緊急避妊薬を薬局でPJ」ではWHOの緊急避妊薬の安全性に関するファクトシートを翻訳し、ネットで公開している。

例えば、安全性への懸念に関しては、「思春期を含むすべての女性に安全に使用できること」、「妊娠初期に誤って服用しても胎児に影響を与えないこと」、「重い副作用や長く続く副作用はないこと」が医学論文をもとに示されており、添付文書「使用上の注意」における胎児への影響に関する記載も2022年2月に改訂された。

また、「緊急避妊薬が避妊具と同じように認識されてしまうのではないか」という懸念に関しては、イギリスの研究等で、若年層の緊急避妊薬に対する知識や⼿に⼊れやすさと、性的活動が活発になる可能性との間には相関関係はないことが示されており、「入手しやすくなっても無防備なセックスは増加しない」というファクトが記載されている。

「まずは性教育の充実が必要」という懸念に関して、性教育の充実が重要なことは確かだが、「性教育の充実が緊急避妊薬を薬局での入手を解禁するための必須の条件ではない」ということもファクトの一つだ。また、医師の管理が必要なのではないかという懸念に対しては「女性は緊急避妊薬の情報を理解して正しく使用できる」ことが示されている。

日本では、経口避妊薬(低用量ピル)の開発から認可まで実に44年もの月日がかかり、国連加盟国の中で最も遅い認可だった。今回の緊急避妊薬の議論はファクトに基づいて速やかに進めることが期待される。

自分の人生と身体を守るリプロダクティブ・ ヘルス/ライツ

記者会見の中で、土屋麻由美さんの「自分の人生と身体を守る、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は、いかなる状況においても保証されるべきものである。」というコメントが印象的だった。

女性は予期せぬ妊娠の不安があるとき、自分の人生がコントロール不能になったように感じる。中絶すれば心身に負担を負い、産んだ場合には、教育、夢、希望を追いかけることや望む人生の実現ができなくなる可能性がある。産まれた子どもの虐待につながるおそれもある。

計画外の妊娠を避けたい女性が、緊急避妊薬を速やかに入手して服用する選択肢を手にして自分の人生に決定権を持つことは、当然の権利なのではないだろうか。

フジテレビと在京テレビ局などが連携して発信

フジテレビでは、在京テレビ放送局をはじめとしたメディアと連携して、女性の体と心に関する問題や“健康な生き方”につながる情報を、共通ハッシュタグ「#自分のカラダだから」「#国際女性デー」を掲げて、それぞれの放送やインターネットなどで広く発信しています。(※)

※企画や記事・番組の内容・情報はそれぞれのメディアによる独立した発信です

【執筆:フジテレビ ニュース総局メディア・ソリューション部 岸田花子】

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