オミクロン株や北朝鮮による弾道ミサイル発射など課題が山積みの中、首相や官房長官のように記者会見などの表舞台に出る機会は少ないが、政権の「実働部隊」として政策のカギを握るセクションがある。関係者が「調整役」と称するそのセクションが内閣官房副長官補室。通称“ホシツ”だ。

岸田首相が国会で言及の“ホシツ”とは

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“ホシツ”については、佐渡島の金山を世界文化遺産候補として推薦するかどうかが焦点となっていた1月末の国会で、岸田首相が言及している。佐渡島の金山を巡っては、韓国が朝鮮半島出身者の労働者が強制的に働かされた場所と主張、歴史認識に隔たりがあるため、登録に向けて国際社会の理解と世論形成が必要になる。1月24日の衆議院予算委員会で自民党の高市政調会長が「安倍政権から続く国際社会に向けた歴史広報」について質問したのに対し、岸田首相は次のように答えた。

「私の内閣においても、歴史認識にかかる問題について安倍内閣以来の体制を引き継いでおり、内閣官房副長官補室を中心に、政府全体で国際広報を含め歴史問題にしっかり取り組んでいきたいと考えている」このように岸田首相は「内閣官房副長官補室」=“ホシツ”が「国際広報に取り組んでいく」と述べた。数日後、佐渡島の金山をユネスコへ正式に推薦することを表明した際には「登録実現に向け滝崎内閣官房副長官補をヘッドとし、関係省庁が参加する世界遺産登録等に向けたタスクフォースを設置し、歴史的経緯を含め様々な議論に対応するため、省庁横断的取組を強化していく」と述べ、“ホシツ”の滝崎氏をトップに対応していくことを明らかにしている。

“ホシツ”は「内閣官房副長官補室」という名称だが、官房副長官を補佐するだけではなく、官邸内の様々な仕事の調整を行っている。

内閣府本府庁舎の5階に本室があり、関係省庁から出向してきた官僚などで構成され、出向元の省庁と官邸の間で政策などの調整役や立案などを担当している。北朝鮮のミサイルから入試に関わる教育問題まで仕事は多岐に渡る。

この多くの仕事を取りまとめるのが、「内閣官房副長官補」だ。

内閣官房によると「内閣官房副長官補」は「内閣官房に3人置かれ、内閣の重要政策等に関する企画立案・総合調整を担っている」とされていて、この“ホシツ”の「トップ3」が政権内で重要な役割を果たしている。

佐渡島の金山登録に向けたキーマン

滝崎成樹副長官補 内閣官邸HPより
滝崎成樹副長官補 内閣官邸HPより

佐渡島の金山の世界文化遺産登録に向けた実務チームのトップに就いたのが、外務省出身の滝崎副長官補だ。「登録に向けては日本の主張を国際社会に理解してもらうための圧倒的な証拠と理論武装がカギになる」と関係者は話すように、登録に向けたカギを握るのが滝崎副長官補率いる実務チームとなる。滝崎副長官補には、今後、客観的事実に基づく歴史認識の発信が求められることになる。

滝崎副長官補の仕事はこれだけではなく、政府内に新たに創設された「ビジネスと人権に関する関係省庁会議」にも出席している。この会議は、国連のビジネスと人権に関する指導原則に基づいて、企業が国内外を問わずに人権保護に取り組んでいくために必要なサポートや政策を検討するというものだ。

ミサイル発射に官邸に駆けつける重要ポスト

北朝鮮によるミサイル発射や中国による尖閣諸島周辺海域への領海侵入など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増していて、そうした事態対処・危機管理を担当しているのが、防衛省出身の高橋副長官補だ。

高橋憲一副長官補 内閣官邸HPより
高橋憲一副長官補 内閣官邸HPより

高橋副長官補は北朝鮮のミサイル発射時や地震などの災害発生時には、いち早く首相官邸に駆けつけて事態の対応に当たる。各省から上がってくる情報を収集し、分析する役割を担うが、官房長官会見で国民に情報を素早く伝えるためにもスピードが命のポジションだ。また新型コロナのワクチン接種を進めるために設置された自衛隊の大規模接種会場を巡っては、短期間での設置、運営に向けた調整に骨を折った人物でもある。岸田政権が概ね一年をかけて改定する予定の「国家安全保障戦略」や「防衛大綱」、防衛費の見積もりなどを決める「中期防衛力整備計画」を巡っても、今後本格化する省庁、与党、官邸との調整役を担うことになる重要ポストだ。

コロナ対策全般を担う「仕事人」

藤井健志副長官補 内閣官邸HPより
藤井健志副長官補 内閣官邸HPより

残る1人が財務省出身の藤井副長官補だ。内政全般を担当し、現在は新型コロナウイルス対策など含め、幅広く国内の課題に取り組んでいる。

病床の確保をはじめ、ワクチン接種、濃厚接触者の待機期間、海外からの入国者を対象にした水際対策についての協議に参加し、政策実現のために関係省庁と調整をするなど担当分野は多岐にわたる。またGoTo 事業や中小企業への支援など、コロナ経済対策の実現に向けた調整にも奔走している。関係者が「仕事人」と評するなど、仕事に対して妥協は許さぬ姿勢で日夜コロナ対応に当たっている。

菅政権から岸田政権に変わり閣僚や副長官は一新されたが、副長官補3人は全員が留任となった。岸田政権において、経験豊かな3人の副長官補は政策の継続性において大きな役割を担っていると言える。政権の屋台骨を支える“ホシツ“の役割は、国内外の課題が山積する中、岸田政権内で存在感を増しそうだ。

(フジテレビ政治部)

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