兵庫県の斎藤元彦知事が就任して半年以上が経過した。
「県政の刷新」を訴えて当選した斎藤知事の仕事ぶりを、半年ちょっとで検証するのは酷かもしれない。
だが、知事選で支援した県議はツイッターで「できるヤツは最初の半年で実現の道筋をつける」と記している。
果たして、斎藤知事は「できる知事」なのか。折々の発言と共に振り返りたい。

肝いり「センチュリー解約」を即実行

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兵庫県 斎藤知事:(2021年7月19日・当選翌日)
私は乗るつもりはありません。できれば機能性のある車。ワンボックスに変えたいなあと思ってます

知事選で繰り返し訴えた公用車問題。2019年に「レクサス」から最高級車「センチュリー」に格上げしてリース料が高騰し、前知事が批判を浴びていた。
斎藤知事はセンチュリーには一度も乗らず、職員移動用のワンボックス車を使う徹底ぶりだった。

センチュリーは、就任後1カ月あまりの9月7日に解約。次の公用車には、他府県でも採用が増えている高級ワンボックス車「アルファード」を選んだ。リースの違約金を支払っても、5年間で1台約700万円の経費節減になるという。肝いり政策らしいスピード感を見せた。

コロナ公約は即断念…見えた稚拙さ

兵庫県 斎藤知事:(2021年8月30日・定例会見)
着任して現場の実情を聞くと、そう簡単にはいかないっていう面があるんだなあと

ところが、新型コロナウイルス関連の選挙公約は、あっという間に「なかったこと」にされた。
選挙公報のトップに書いた政策は「重症病床の倍増」だったが、1ヵ月足らずで断念。ワクチン接種が進み重症者が自然減少したため、世論は忘れてくれた。
また、ワクチンについては「全ての医療機関で接種可能にする」と訴えたが、これもいつの間にか忘れ去られている。

行政経験のない新人の選挙戦では、非現実的な政策を訴えることがよくある。
だが、斎藤知事は総務省から大阪府に出向していた「行政のプロ」だ。県政をよく知るはずの県議らの支援も受けた。その割には、公約が稚拙だったと言わざるを得ない。

自らのアイデアで保健所の業務軽減

兵庫県 斎藤知事:(2022年1月28日・訓示後の囲み取材)
膨大な業務が発生する状況を見ましたので、一方でペーパーレス化がだいぶ進んでいる状況も見ましたから、これは業務を切り出せるんじゃないか、という思いを持ちました

選挙でも「現場にどんどん出る」と訴えていた通り、斎藤知事はよく「視察」に出かける。喫茶店の感染対策、水上バイクの事故現場、鳥インフルエンザの殺処分…。それを見て何になるの?という疑問を抱く場面もあるが、視察が生きた場面もあった。

斎藤知事は1月14日、伊丹健康福祉事務所(保健所)を視察した。医療機関が保健所に感染判明を報告する「発生届」が、FAXからすぐ電子ファイルに変換され、ペーパーレスで業務が進む様子を見た。
ならばデータを県庁に送ってしまえば、待ち構える一般職員の応援部隊が事務作業を担えるのでは?というアイデアが浮かんだという。

2週間後には県庁内に「保健所業務支援室」を設置。1週間あたり約200人の職員が、発生届のデータ入力、就業制限通知書や解除通知書の作成という事務作業に当たっている。オフィス仕事を直に知っている、若い世代の知事らしい発想で、実行の速さも光った。

吉村知事をヨイショ?…「連携会議」

兵庫県 斎藤知事:(2021年12月26日・会議後の囲み取材)
人・モノ・投資をこれから兵庫も含めて関西に呼び込んでいくためには、兵庫と大阪両府県がしっかり連携していくってことが大事。プロジェクトベースでしっかり進めていくことを確認できたのは、非常に大きな一歩だなあと思っています

兵庫県と大阪府は、お互いをコロナの感染源と扱うような不毛な争いが絶えなかった。
しかし、斎藤知事の就任で風向きが変わった。2021年12月には第1回「兵庫・大阪連携会議」を兵庫・西宮市のヨットハーバーで開催。斎藤知事と吉村知事、双方の副知事らが参加し、万博を契機とするベイエリアや経済の振興策などが話し合われた。

だが会議は終始、吉村知事のペースで進み、吉村知事が兵庫県の副知事に対し、大阪府との連携を進める組織をつくるのか直接確認する場面もあった。副知事は「素晴らしい」「まったくその通り」などと吉村知事の発言を褒めちぎりながら、組織づくりを約束していたのが印象的だった。

確かに、うまく連携すれば相乗効果は期待できる。
しかし、兵庫県のお金が大阪府のために使われたり、重複するからと兵庫県の事業をやめさせられたりしないのか。

兵庫県 斎藤知事:
一緒にやるべき共同事業が出てくれば、それぞれ持ち合いながら分担し合っていくってことになるんかなあって思います。重複するものの無駄を切っていくという方向で議論するのではなくて、どういった分野に国内外から投資を呼び込んでいけるかという、前を向いた思考で議論をしていくべきだと思ってますので

大阪府 吉村知事:
兵庫県民の皆さんにとってもプラス、大阪府民の皆さんにとってもプラス、その事業しかやりません。兵庫県から1票を全く受けてない立場です。受けているのは斎藤知事ですから。そういった意味で、兵庫の事業をどうするかはすべて斎藤知事の判断になる

兵庫県民にとってプラスか否かは、斎藤知事に判断を委ねるという。ここで気になるのは2人の関係だ。最近まで大阪府で「上司と部下」の関係だったし、国政政党の副代表でもある吉村知事は「次の選挙の推薦」を左右できる立場だ。それでも利害が対立した時、斎藤知事には毅然とした対応が求められる。

批判は「印象操作」?…もっと謙虚に

兵庫県 斎藤知事:(2021年12月1日・定例会見)
ツイッターについては、1日1回程度更新させていただいている状況です。私も個人でやってるもんですから、精神的な面も含めて『そこまではしんどい』というところもあったんで、そういった意味で(ブロックを)させていただいているところもあります

「聞く力」という言葉があるが、斎藤知事の聞く力には疑問符がつく。
知事としての公務もつぶやくツイッターで、批判的な県民を「しんどいから」と次々とブロックしてしまう。吉村知事とは頻繁に携帯電話やメールでやり取りするのに、兵庫県内の市長・町長とはあまり会わないし、連絡も取り合わない。批判するような報道には、「印象操作しないでもらえたら」なんて言葉も出てしまう。

選挙戦では「ネガティブキャンペーンには負けない」などと訴えていたが、今はもう知事である。県民や首長らを「敵」と「味方」に分けるような今の姿勢はいただけない。

知事は、県民の命と暮らしを守る仕事だ。まるで敵のような県民ですら、守っていくのが知事なのだ。
残る8分の7の任期で、「できる知事」になってほしい。

(関西テレビ放送 報道センター神戸支局長 鈴木祐輔)

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