独りだと思うと、急に人恋しくなった経験はないだろうか。そんな時の、あなたの脳内で起きている事が解明されるかもしれない。

理化学研究所などのグループは2月8日、マウスを使った実験で、孤独を感じて仲間を求めて行動するとき、脳内で起きる神経反応を突き止めたと発表した。

(出典:理化学研究所)
(出典:理化学研究所)
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研究グループは、メスのマウスが4~5匹入ったケージから1匹だけを隔離して脳の反応を調査。

すると、子育てに関わる「内側視索前野中央部」という脳の一部で、「アミリン」という神経伝達物質の発現が減少し、6日でほぼゼロになることを発見。これは「アミリン」を作る「アミリン細胞」が働かなくなったためで、2日でアミリンを発現する細胞は約半数になり、6日でほぼなくなった。

そして、この隔離したマウスを再び集団に戻すと、アミリンの発現は約2週間で元の状態に回復したという。

孤独になるとアミリンを発現するアミリン細胞が減る(出典:理化学研究所)
孤独になるとアミリンを発現するアミリン細胞が減る(出典:理化学研究所)

また他のマウスが見える状態で隔離すると、完全な単独よりも、仲間を求めて窓柵をかむ時間は5.2倍になったそうだ。窓柵をかんで破ろうとする意欲がより高まると考えられるという。

(出典:理化学研究所)
(出典:理化学研究所)

さらに、人工的にアミリン細胞を活性化したマウスは窓柵をかむ行動が4.7倍に増加。逆にアミリンができないマウスは、窓柵をかむ行動が26%に減少したという。アミリンがあると強く仲間を求め、アミリンが無くなっていくと仲間を求めなくなってしまうのだ。

これらの結果から、孤独を感じて仲間を求める行動は、内側視索前野中央部のアミリンとその受容体によって制御されていることが分かったとしている。

左が孤独状態のマウス、右が集団のマウス(出典:理化学研究所)
左が孤独状態のマウス、右が集団のマウス(出典:理化学研究所)

なお、このアミリンは“孤独”だけに関わっているのではないという。

アリミンは膵臓からも放出されるのだが、こちらのアミリンは満腹情報を伝えて摂食を抑制し、また視索前野で産生されるアミリンは母性行動に関係すると言われているのだ。

ということは、孤独でアミリンが減ったマウスは食欲が抑えらずに大食いになるのか?

また、コロナ禍で人や社会との繋がりが薄れつつあるいま、この研究はどんなことに役立つ可能性があるのだろうか? 理化学研究所の担当者に聞いてみた。

アミリンゼロになると再会をあきらめる

――アミリンがなくなって仲間を求める行動が減るのは、孤独に慣れた状態ということ?

隔離すると次第にアミリンがなくなっていくのは、孤独になれた、再会をあきらめた状態だと思います。実際、かなり柵をかんだり柵の下を掘ったりしても全然会えないと、あきらめてこういう行動はしなくなります。また、アミリンを全く作れなくしたアミリン欠損雌マウスでは、仲間を求める行動が少なくなります。


――アミリンは満腹感にも関係しているというが、ゼロになると食欲が増すの?

アミリンがなくなると食欲が増進し、やや肥満になるという報告がオスのラットなどではあります。しかし、わたしたちのメスマウスを用いた研究ではアミリン欠損マウスなどアミリンがなくても体重は変わらないため、アミリンが体に与える影響には性差があると考えています。

仲間求めて柵をかじるマウス(出典:理化学研究所)
仲間求めて柵をかじるマウス(出典:理化学研究所)

――次はどのような研究につながるの?

人間の孤独や社会的接触が脳に与える影響が知りたいので、非ヒト霊長類のマーモセットでまず同じアミリン細胞があるか、孤独でアミリンが減るかなどを調べます。

マウスのオスは社会性が高くなく、それほど孤独がストレスにならない、そして内側視索前野中央部にあまりアミリンがないのですが、マーモセットはオスも孤独に弱いので、マーモセットではオスにもアミリンがあるのかも興味があります。

なぜ「孤立子育て」がつらいのか?現代の社会問題につながる可能性

――この研究が進むと人間の孤独対策につながるの?

まず、孤独が一概に悪く、社会的接触が常に良いとは限りません。メスマウスでも過密になりすぎるとストレスです。また環境や子どもがいるかいないかなど、いろいろな条件でどれくらいの社会的接触が適度かが変わります。人間でも、孤独が好きな人もいます。要は、その人の個人の状況や好み、その時の環境などに応じて、人は社会的接触を自分でコントロールしていると思います。ほしいのに得られないから孤独になるわけです。

どうやって社会性の調節を人間や動物が行っているかは、そもそも社会的接触や孤独を脳がどう感じ、どうコントロールしているかを知る必要があり、今回の研究はまずその基本メカニズムを知るために必要なのです。それがわかってはじめて、孤独がなぜストレスなのかがわかるようになります。

また、今回のメカニズムではアミリンとその受容体は、子育てをするときも高まるので、より仲間を求めることになります。これはもしかすると、マウスやヒトのように共同で子育てをする種で重要なメカニズムかもしれないのです。するとなぜ孤立子育てがつらいのか、孤独だと子育て意欲さえ減ってしまうことがあるのか、という現代の人間の問題にもつながる可能性があり、こうしたことを今後調べる予定です。

実験の様子(出典:理化学研究所)
実験の様子(出典:理化学研究所)

現在はマウスでの実験の段階だが、今後は人間の孤独に関する研究となる可能性があることがわかった。具体的にはどのような形で孤独対策につながるのか、これからを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。