親子関係でよく話題になるのが、毒親である母(毒母)によって娘が苦しむケース。小さな頃から行動や言動を否定され、自己肯定感が低く生きづらくなってしまうというものだ。また、編集部にもこうした毒親エピソードが寄せられるが、こちらも女性の投稿者が目立つ印象を受ける。

それでは、息子の立場ではどうなのだろう。毒親問題を扱うカウンセラー・高橋リエさんに聞くと相談者の9割は女性だが、男性でも悩んでいる人はいるという。

※高橋さんは子どもの不登校がきっかけで、自分も自分の親も毒親だったことを自覚。その原因を解明し“解毒”した経験から情報発信を続けていて、編集部でも伝えたことがある。

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今回は毒母が息子に与えかねない悪影響、そうした関係を作らないための注意点を伺った。

強迫観念に対人恐怖…毒母の後遺症

高橋さんによると、人は異性の親を美化する傾向があるほか、女性は子育ての問題を通じて毒母の支配・コントロールに気づけるが、男性は仕事に逃げることもできる。そのため、母と息子の問題は表面化しにくいという。

しかし、息子でも毒母に育てられると後遺症のように、性格や考え方に影響することは考えられるという。その代表例が「〇〇でなければならない」といった強迫観念。

親の価値観を受け継いで「人より優秀でなければいけない」とか、高学歴志向、「男の子はスポーツをやるべき!」などの時代錯誤な思い込みが異常に強くなることがある。本人が生きづらさを抱えるだけでなく、周囲にも押し付けてストレスを与えかねないという。

本人の生きづらさにもつながる(画像はイメージ)
本人の生きづらさにもつながる(画像はイメージ)
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また、人間関係は「支配・被支配」となりがち。強い立場の人には従うが、弱い立場の人には支配的に振る舞う傾向もみられるという。こちらの背景には、親に恐怖で支配されたことで、対人恐怖のような問題を抱えていることが考えられるとのことだ。

「部下や妻を怒鳴りつけるなどのパワハラ、モラハラ、DVとして表面化することもあります。ハタ目には彼らは怒っているように見えますし、本人もそう思っていますが、実は恐怖を感じていて、神経系が瞬時に『戦うか逃げるか』の態勢となり、自分より相手が弱いと『戦う』を選んで徹底的に攻撃してしまう、という神経の反射反応が起きているのです」(高橋さん)

ハラスメントをする傾向にもある(画像はイメージ)
ハラスメントをする傾向にもある(画像はイメージ)

このほかにも、親の支配を正当化して「親には従うものだ」「自分の親は素晴らしい」と思い込んでいたり、親の価値観をそのままコピーして、自分の考えや主体性がない。マルかバツか、敵か味方かのような、二極思考になりやすい傾向もみられるという。

異性との関わりを遠ざけることも

さらに、悪影響が心配されるのは恋愛や結婚への意識。例えば、息子が毒母からの支配に気付いてそれを嫌だと感じていた場合、結婚や親子関係にネガティブなイメージを強く抱き、結婚を拒否することがある。また、毒母への恐怖から女性恐怖症などを抱えてしまい、異性と関わることを遠ざけることさえも考えられるという。

母の支配が加速して息子をペットのようにかわいがり、手放したくないあまりに無意識に自立させないように仕向けることもあるとのことだ。男性は母親のような女性と結婚する傾向もあるため、結婚相手が実は“毒妻”だった、母と妻の関係が険悪になり板挟みとなるケースもみられる。

母と妻の板挟みになることも(画像はイメージ)
母と妻の板挟みになることも(画像はイメージ)

「独身を貫いて奴隷のように母親に尽くし、母親のために生きるという選択になったり、結婚はしたけれど何ごとにつけ、自分の妻子より親を優先するため、夫婦仲や親子関係に問題が生じているというケースもあります」(高橋さん)

嫌だと「気付いている/いない」でその後は分かれる

高橋さんによると、毒母に育てられた息子は「母親が支配的、過干渉で嫌だと気付いている場合」と「気付かないまま従っている場合」の大きく2パターンに分かれるという。

母親が嫌だと気付いている場合は、自立した後に親や家族と絶縁したり、連絡に応答しなくなることが少なくない。物理的に離れられなかったとしても、心理的な距離をとるなどして親の支配を脱していることが多いという。

高橋さんはこうした行動を「自分の人生を生きるための、健全な選択」としていて、このパターンでは毒母の後遺症があっても、自分を変える意思を持つ人が目立つという。

嫌だと自覚している場合はまだいい(画像はイメージ)
嫌だと自覚している場合はまだいい(画像はイメージ)

しかし、気づかないまま従っている場合は要注意。こちらはさらに(1)社会不適応など、目に見える形で症状化しているケース(2)ハタからは問題が見えにくいケースに分かれる。(1)は親の重圧や長年のストレスで、統合失調症やひきこもりになっていたり、あるいは仕事が続かない、人間関係がつくれない、神経過敏などで悩んでいることが多いという。

「自立して社会生活を送っていても、実は誰にも心を開けない“仮面ひきこもり”の状態であったり、親の価値観に合わせて生きているため、年とともにストレスによる神経疲労がかさんでうつ状態になり、動けなくなることも多いです。一方で借金を重ねて親に肩代わりさせる、詐欺などの犯罪に走るなど、派手に問題を起こす人もいます。親に心労や負担をかけることで無意識に復讐しているのではないかと、個人的には感じています」(高橋さん)

人間関係に悩むことも多い(画像はイメージ)
人間関係に悩むことも多い(画像はイメージ)

(2)の代表例は、親の期待に応え続け、高学歴でステータスの高い職業について「勝ち組」のエリートになっているが、その裏で、妻子に暴言や暴力をふるったり、弱い立場の人にハラスメントをしているようなケース。期待に応え続けてきたストレスや鬱憤をやつあたりのようにぶつけてしまうのだという。

あなたは当てはまる?3つのチェックポイントで確認

それでは、毒になる親子関係を作らないためにはどうすればいいのだろう。高橋さん監修で毒母によくみられる傾向を3つ挙げてもらったので、気になる人は比べてみてほしい。

・母親が、娘には厳しく手伝いなどをさせるが、息子にはさせないで優遇し、ちやほやしてしまう。その結果、息子に「自分は特別だ」という意識をもたせ、場合によっては自己愛の強い、鼻持ちならない大人になる。

・息子がやさしい性格だからといって、母親の愚痴の聞き役をさせてしまう。息子が「自分が母親を支えなければ!」と思い込むと、実家を出られなくなったり、結婚後も母親を最優先するため、問題が生じる。

・母親が息子をペットのように可愛がって世話を焼いてしまう。息子が自分では何もしない、できない大人になるため、自立しなくなる。

息子を溺愛する傾向もある(画像はイメージ)
息子を溺愛する傾向もある(画像はイメージ)

高橋さんは、毒母が必要以上に支配的になってしまうのは、本人が抱えている不安や自律神経の異常(過緊張・過剰警戒)が影響しているのではないかとも指摘する。母親に何より意識してほしいのは、子どもの気持ちと意思を尊重することだ。

「親は『こんなに心配をしているのだから、子どものためを思っている』と思い込んでいますが、実は自分の不安に突き動かされているだけ。自分の不安を解消して自分が安心するためで、子どもの気持ちを思いやるという余裕がまったくないのが実態です」(高橋さん)

また、毒母に育てられた男性には、母親よりも自分の人生と今の家族を優先していいということ。そして、人間関係や仕事に悩んでいる、うつや適応障害のような症状が出ている、生きづらさや苦しさを感じている場合は、自分が悪いせいではないことに気付いてほしいという。

「ひょっとしたら親に支配されて育ったせいなのかもしれない、と思ってみてください。親の期待に応えるために生きてきて、本当の自分が生き埋めになっていたかもしれないと気づいて、親と物理的・心理的距離をとり、自分の人生を取り戻してほしいです」(高橋さん)

毒親が子どもの意思を無視し続ければ、社会的に成功できたとしても、大人になってから悪影響が出たり、嫌われることも考えられる。

その親心が支配になっていないか、今一度考えてみるべきかもしれない。

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例・「この子は私がいないとだめなのよ」が口癖で、実家を離れた今も、毎日電話でダメ出しをされ、電話に出ないと執拗にかけてくる・「産まなきゃよかった」が口癖の母、私が自己肯定感が低いのはその影響だ・子供の幸せに嫉妬する親、「ああいうタイプは信用できない」と難クセをつけ、恋人と強引に別れさせられた

プライムオンライン編集部
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