子どもの成長に悪影響を与える「毒になる親」、通称「毒親」。毒親の言動として象徴的なのはネグレクトや過干渉、暴力など明らかに「毒となる」行為が多い。

しかし「毒」とまでは呼ばないものの、親の「何気ない行為」が子どもの心を傷つけている場合がある。長年、積み重なれば子どもの健全な育ちに影響を与えかねない。

無意識にやりがちな「謙遜」「比較」が子どもに与える影響について現役保育士、てぃ先生に聞いた。

大人の言動は、子どもへの影響大

子どもたちは日々周りの環境からあらゆることを吸収し、自分自身を育んでいる。心身ともに大きな発達段階にある彼らにとって、周囲の大人の言動が与える影響は想像以上に大きい。

てぃ先生
この記事の画像(8枚)

「子どもたちはパパやママだけではなく、僕たち先生など日常で出会う様々な大人の言葉から影響を受けています。自分自身を信じられる『自己肯定感』も『好奇心』も、『パパやママや先生は自分のことが大好きなんだ』という、心の基礎となる部分がしっかり育っていないと養われにくい。そこに、大人からの言葉が深く関わってくるのです」

まず気をつけたい言動の一つが「謙遜」だ。これは、親が自分自身を卑下する謙遜を指すのではない。親が、第三者に対して自分の子どもを低く評価するような言動だ。

「国民性を否定するつもりは全くないのですが、日本は謙遜の文化がすごく強い感じがします。自分の子どもを自慢するのはあまり良しとされず、むしろ『いやいやうちの子なんて』と言うことが正しい親のあり方である、みたいな。親同士で言い合う分にはそこまで問題ないと思いますが、子どもの前で言ってしまうと状況は変わってきます」

「謙遜」は子どものやる気を下げてしまう

例えば、保育園の活動でダンスをした日のことを例にあげてみよう。

その日、ある子どもがいつも以上に頑張ってダンスに取り組んでいたため、保育士は迎えに来た親に「今日〇〇くん、一生懸命踊っていて素敵でしたよ!」と伝えたとする。

image

「お迎えに来るまでは、その子と保育士の間で『今日の〇〇くんすごかったね!』って盛り上がっているわけです。その子も、『先生がダンスのことママにお話ししてくれたら、きっとママも褒めてくれるだろうな』って期待しているはずですよね」

そこで「よくがんばったね!」「うちの子ってリズム感がいいんですよ」などと、一番近い存在であるパパやママが認めてくれると、子どもの大きな自信となる。

「それが『またダンスを頑張ろう』『他のことももっと頑張れそうだな』などのモチベーションに繋がっていくのです」と、てぃ先生は言う。

image

しかし、そこでもし親が「いやいや、うちの子全然リズム感ないですから」「そんなこと言ったら調子乗るんで!」などと謙遜したとしたらどうだろうか。

子どもは親の言葉をそのまま受け取って「自分はだめなんだ」と思い込み、「ダンスだけでなく生活の基盤となる、すべてのモチベーションを下げかねません」という。

たとえ、その謙遜が親の冗談だったとして、当の子どももすでに冗談を理解できる年齢だったとしても、だ。「それだけ言葉の力は大きい」と、てぃ先生は強調する。

ストレートに子どもを褒めずに謙遜する裏には、園に通う他の親たちの目が気になる、図々しいと思われたくない、などの親の本音もあるかもしれない。しかし、てぃ先生はこう語る。

「そもそも保育園や幼稚園に通う理由は、子どもの成長、発達のためも一つの理由ですよね。そう考えたときに、本当に子どものことを考えるのであれば、親御さんたちは『親バカ』ぐらいがちょうどいい。たとえ周囲が謙遜を美徳とする空気だったとしても、です」

子どもを傷つける「比較」行為

もう一つ、親がついやってしまいがちな行動に「比較」がある。「同じクラスの〇〇ちゃんは、もう箸を使ってごはん食べられるよ」「お姉ちゃんはちゃんと歯磨きするのに、なんで?」などと比べる行為だ。

「比較することは悪いことじゃありません。特に一人目のお子さんの場合、年齢ごとの一般的な成長段階がわかりづらい。それは同年代のお友達と遊ぶ中で比較しないと気付かない部分が大きいですよね。比較したことで、自分の子がまだできていなかったことに気付いて適切にフォローしてあげられた、という場合もある。

ですが、その気付きを子どもに話すのはよくない。『〇〇ちゃんはもう自分で靴履けるのに』『お姉ちゃんは、もうオムツ取れていたのに』などと言うことは、ただただ子どもを傷つけるだけです」

image

比較を用いる親の心理として「子どもの頑張りを引き出したい」とはっぱをかける気持ちもありそうだ。

しかし、この場合は「あえて子どもの心を傷つけて動かそうとしている、言い方は難しいのですが…要するに『脅している』ことに近いわけです。悲しいことに子どもはその声がけで確かに動いてくれちゃうんですよ。大好きな親に嫌われたくないから」とてぃ先生。

比較によって子どもの行動を促すことは良い結果にはつながりにくい。その子自身が興味関心を持って動いたわけではなく、親に嫌われたくないという恐れの気持ちが行動の動機だったからだ。

「いろんな物事への興味関心も、自己肯定感も下げかねません。はっきり言って、いいことは何もないかなと思いますね」

子どもが自ら動く「仕掛け」を作る

では、その子を励まして行動させたい場合はどうしたらよいのだろうか。

てぃ先生は「理想を言えば」と前置きした上で、「その物事を『どうやらせるか』よりも、『興味関心を持ってもらうか』。その導入の部分を考える方がよいのでは」と提案する。

「例えば子どもに自分で靴を履けるようになってほしい、と思った場合。靴を買い換えるタイミングで『〇〇ちゃんの靴をいっしょに選んでみようか?』とか『ママが靴を履くの手伝ってほしいな』とか、その子が靴を履くことに関心を持ってくれそうな声がけを工夫してみるのはどうでしょうか」

image

子どもが自分から能動的に動いてもらうための仕掛けを考えること。言ってみれば、親にできることは、それだけなのかもしれない。しかし、子育ての渦中にあってグズる子どもを目の前にすると、あれこれ仕掛けを考えて工夫することを面倒に感じてしまうことがあるはずだ。

「子どもとのコミュニケーションの工夫を面倒に思ってしまう理由は、親御さんたちが忙しくて時間がないからだと思うのです。経済的に問題ない範囲で家事代行を頼んだり、掃除ロボットや食器洗い機、乾燥機付き洗濯機を活用したり。例えば食事も週に何回かはお惣菜を買ったり、簡単なもので済ませたり。

そうすることで時間はだいぶ生まれますよね。子ども目線だと、毎日手作りご飯もいいけど、たまに夕飯にコーンフレークとか出てくるとテンション上がるじゃないですか。頑張りすぎずに時には手を抜いてもいい。どうしたら自分自身の手間を省けるかをぜひ考えてほしいなと思います」

子どもを「いち人間」として捉える重要性

大切なことは「子どもを『いち人間』として見ること」と、てぃ先生は語る。

「例えば、おもちゃを散らかしていたら『さっさとお片づけしなさい!』と、一言で済ませがちですよね。これがまさに、子どもを子どもとして見ている状況です。同じようなことを会社の同僚にやらないですよね?きっと相手がやる気になるよう、創意工夫を凝らした言動をすると思うのです」

子どもに片付けてほしい時は、こんな風に言ってみてほしいとてぃ先生は提案する。

image

「『まずは緑色のおもちゃ片づけようか!』と声がけすれば、緑のものを探してくれるはず。あとは『緑のものを見つけてきて。そしたらパパが箱に入れるね』と役割分担するのもいい。多分、喜んで緑のものを見つけて持ってきてくれると思うのです」

慌ただしい日常においては反射的に命令口調になったりすることもあるだろう。それでも、「頭の本当に片隅にでもいいので、子どもを“いち人間”として見るという考えを置いておいてもらえたら。実際、そうすることで子どもがすんなり動いてくれる確率は絶対に上がります。結果的には、親御さんたちも楽だと思うのです」とてぃ先生。

無条件の愛情を子どもに伝える

もし、無意識に謙遜や比較をしてしまったら、その場合は「すぐに素直に謝るのが一番いいと思います。言いづらいと思うなら、ぬいぐるみなどに代弁させると気持ちが少し楽なはずです」と言う。

その上で、子どもへのフォローとして2つの方法を教えてくれた。

「1つ目は、無条件の愛情を示すこと。子どもが大きくなるにつれてテストでいい点が取れたから、片付けができたから褒める、という条件付きの愛情に変わりがちです。

大切なのは、あなたが何ら素晴らしいことをしなくても、パパやママはあなたのことが大好きだと伝わるような対応です。簡単な方法は、『大好きな○○ちゃん、おはよう』など何気ないシーンで子どもの名前に『大好きな』という枕詞を付けて呼ぶことです」

image

そして2つ目は「何かを一緒に行うこと」だ。

「『一緒にお料理しよう』『一緒に絵本読もう』と誘うだけでもいい。子どもにとって、『一緒に』はとても嬉しい言葉です。人間って、心を許した相手じゃないと一緒に何かをしたいと思えませんよね。『一緒に何かをする』ことで、子どもは『ママは、パパは、自分のことをちゃんと大好きなんだな』というベースに立ち戻ることができるのではないかなと思います」

謙遜は処世術として、比較は子どもを奮起させる「便利」な言葉として、どうしても癖になりやすい。しかし、その癖に気付き、フォローの引き出しを用意しておくことは、癖から脱却する大きな助けになるだろう。子どもの健全な育ちをサポートするため、ぜひ実践したい。
 

てぃ先生
保育士の専門性を生かし、子育ての楽しさや子どもへの向き合い方などをSNSやメディアで発信。全国での講演活動も年間50本以上。他園で保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」の創設と就任など、保育士の活躍分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。近著に『子どもに伝わるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)、『子どもが伸びるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育て○×図鑑』(ダイヤモンド社)がある。

取材・文=高木さおり(sand)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。

メディア
記事 4546