自分の親に違和感を抱き、家族という輪の中から逃げたいと思った時、どんな方法があるのだろうか。

コミックエッセイ『生きるために毒親から逃げました。』(イースト・プレス)で、著者である尾添椿さんは幼少期から受けてきた心理的虐待を克明に描き、親と縁を切る方法までを具体的に紹介している。

『生きるために毒親から逃げました。』(イースト・プレス)
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こうした経験から同じように毒親のもとで育った人にも取材を続け、「そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~」(ダ・ヴィンチWEB)という連載も行っている。さまざまな人の経験も聞いてきた尾添さんに、毒親との縁の切り方について聞いた。

外部と関わるなかで抱いた「我が家」への違和感

一人っ子の尾添さんは、両親からかわいがられていた。

しかし、いつからか「このおもちゃで遊びたい」と主張をしただけで、両親から「言うことを聞けないなら、椿ちゃんを置いてハワイで楽しく暮らそうっと」と、言われるようになる。「うん」と返事しただけで「『はい』でしょう!」と、怒鳴りつけられることもあったという。

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』(ダ・ヴィンチWEB)

「2~3歳の頃から、私がちょっと意思表示しただけで、『ハワイで暮らそうっと』が発動していた記憶があります。後々になって、おもちゃ売り場で地団駄を踏んでいる子を見かけた時に、親から『お前はあんなこと絶対にしなかった』って言われたんです。欲しいものがあっても言えないほど、親の顔色を窺う子だったってことですよね」

両親は、尾添さんが友達をつくることも妨害した。小学生でうつ病や重度気管支炎になった時も、中学生で不眠を訴えた時も、何もしてくれなかった。

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』(ダ・ヴィンチWEB)

そんな両親をおかしいと感じるきっかけは、外の世界にあった。

「クラスメートと机をくっつけて給食を食べている時に、『椿ちゃんはなんでしゃべらないの?』って言われたんです。家では、しゃべらずに黙々と食べるのが当たり前だったから、そう言われてポカーンとしちゃいました。休日に友達と遊ぶということを知ったのも、小学校中学年くらい。休日は親と出かけるものと思っていたので。家族以外の人と関わることで、うちって何かが違うんじゃないかって気づくんですよね」

小学4年生の頃、授業で作った作品を家の机の引き出しにしまっていたが、ある日、両親が勝手に引き出しを開けて作品を見ていた。

それを知った尾添さんは怒りをぶつけたが、両親は笑いながら「許してよ~、お金あげるから~」と言ってきたという。そこで「私の親はおかしい」と確信したそうだ。

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』(ダ・ヴィンチWEB)

「親ですら私の話を聞いてくれないなら、自分に興味を持ってあげられるのは自分しかいないって思って、小学5年生くらいからは自分で病院に行ったり、行動を起こすようになりました。でも、親に進学も就職も猛反対されて、父から『お前なんかが働けるわけない』って言われた言葉も刺さって、家のために血を残すしか自分の存在価値はないって思ってしまったんです。だから、家を離れようって考えたことがなかったんです」

家を出るきっかけは心理士からの言葉

両親から名前や血筋を残していくことを強制されることは、たびたびあった。尾添さんが中学生の頃に生理不順と診断されたこともあり、両親は「子どもができにくい体質」と認識し、「家を継がせるために養子をとって育てるんだ」と父から言われた。その言葉に抵抗すると、母親に殺されかけて病院に運ばれたこともあった。

そして、母から「人工授精をして、家のために血を残して」と言われた時に、この家にいることはできないと感じたそう。

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』(ダ・ヴィンチWEB)

「その言葉を聞いて、私の親は人じゃないと気づいてからは、家を出ることにためらいはなかったです。その頃にお世話になっていた心理士さんから『世帯分離した?』と言われて、分籍という方法があることを知りました」

家を出て1人暮らしを始めた尾添さんは、子が親の戸籍から抜ける「分籍」に加え、特定の人物に住所を知られないための「住民票の閲覧制限」を行う。

この2つの手段を用いて、両親に自分の居場所を知られないようにした。

「私の親は『家を残せ、血を守れ、墓を継げ』と、家に縛り付ける人たちだったので、『私はあなたたちのモノではありません』と伝えるためにこの手段をとりました。この手続き以降、親が私と連絡をとろうとしている様子はありません。親との縁の切り方はさまざまな方法がありますが、私の親に対してはこの方法が効果的だったと思います」

「人に相談できない」「自信がもてない」という負の影響

自身の経験だけでなく、毒親のもとで育った人の話を聞いてきたなかで、尾添さんが思う毒親は「子どもに興味関心がない親」だという。

「子どもが1人の人間であるという意識が、著しく低い人が多いと感じています。自分たちの都合のいいように子どもに存在していてほしいから、子ども自身がどういう性格か、何を思っているのか、知ろうとしない。子どもに興味がないから、殴ったり暴言を吐いたり、子どもの意見を無視したりできるんだと思います」

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例えば、子どもが「このおもちゃが好き」「ちょっといたずらしちゃった」とアピールしても、毒親からは「どうして好きなの?」「なんでいたずらしたの?」という言葉は出てこない。

「私の両親の場合ですが、子どもが泣いたり笑ったり嫌がったり、どの感情を見せたとしても、ただ面白がるだけなんですよ。子どもがなぜそのアクションを起こしたのか、考えないんです。子どもは、夫婦にとっての付属品という感覚なんでしょうね」

親が子どもに興味を持たないことで、子どもにはどのような影響が及ぶのだろうか。

「毒親のもとで育つ子どもは、1人で生きていくことになるんです。一番身近な大人である親が守ってくれないから。親に何を言っても聞き入れてもらえないので、人に相談すること、自分について打ち明けることができないまま成長してしまう人は多いと思います」

また、親だけでなく周囲の大人との関係も構築できず、孤独に陥ってしまうことも多い。

「毒親って外に対してはいい顔をするので、『素敵なご両親ね』と言われるケースも多い。そうなると、子どもが何を言っても大人には通じなくて、子どもが『自分はおかしいのかも』と思うようになってしまう。孤独を感じるとともに、自己肯定感が下がっていきます。幼い頃に形成された自信のなさは、大人になってもなかなか払しょくできないんですよね」

「一緒にいると苦しい人からは離れる」行動に移すことが大事

毒親に育てられた子どもたちが、孤独から解放されるきっかけはどこにあるのだろうか。

「毒親から逃げた人の共通点は、2つあると思っています。人との関わり合いを諦めなかったこと、孤独のなかでも自分を見失わなかったこと。家族以外の人との関わり合いが大事なので、学校や会社は行った方がいいし、部活・習い事・アルバイトなどのつながりも重要になると思います」

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人と関わることで、家族以外にも支えてくれる存在がいることを知ることができるという。尾添さんは「失敗してもいいから、人と関わり続けてほしい」と、話す。

「親と縁を切りたいと思ったら、行動に移してほしいです。地震や火事が起きたら逃げるのと同じで、たとえ親であっても、自分を危機に陥れるものからは一刻も早く逃げる。友達が泊まらせてくれるかもしれないし、地域の福祉センターに行ってアドバイスをもらうのも1つの方法。離れてみると、信じられないほどの居心地の良さを感じるものです」

自分の置かれている状況を冷静に判断できない場合は、第三者を頼るという方法もある。

「私は心療内科に通って、カウンセラーや心理士の方々に助けられてきました。人にどう思われるかではなく、自分がしたいことを優先して、病院に行って救われる可能性があるなら行ってほしい。専門家にジャッジしてもらって、その意見をもとにどうするか考えていけばいいんです」

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もし、外部との接点をもつことを躊躇してしまうのであれば、好きなものに没頭するのもいいという。

「フィクションでもいいので、いろいろな世界に触れるときっかけが見つかります。私の経験ですが、小説や漫画の幸せそうな家族の描写が、我が家に違和感をもつきっかけの1つになりました。感情的な毒親を見ていると、感情を出すことは醜いことと思ってしまうかもしれないけど、人間は感情がある生き物。自分の感じたことを信じて、動いてほしいです」

そして、大切なパートナーや友達が親のことで悩んでいるようなら、「ただ話を聞いてあげてほしい」とのこと。

「何の話でもいいので、否定せずに話を聞くこと。相手から『どう思う?』と聞かれたら、意見を言う。毒親に苦しめられている人は親との会話のキャッチボールができないまま育っていることが多いので、そのやり取りだけでも大きな支えになると思います。あと、身近に問題行動を起こす子どもがいたら、注意深く見てあげてほしいです。その行動はSOSかもしれない、原因はその子を取り巻く環境にあるかもしれないという視点を持ってほしいですね」

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』(KADOKAWA)

尾添椿
漫画家、イラストレーター。両親と絶縁したことを漫画にしてSNSに公開したことをきっかけに、コミックエッセイを描き始める。2022年3月23日に、ウェブ連載をまとめた書籍『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録』を発売。

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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