2月1日、作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が89歳で亡くなった。作家、政治家、保守の論客として、昭和・平成・令和を駆け抜けた石原氏は日本に何を遺したのか。BSフジLIVE「プライムニュース」では、ともに国政に旋風を巻き起こした橋下徹氏を迎え、過去の番組出演時の映像を振り返った。

亀井静香氏「あいつは『日本人とは何かと真剣に考えること』を遺した」

亀井静香 元衆議院議員
亀井静香 元衆議院議員
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新美有加キャスター:
自民党時代から志を同じくし、石原氏を人生の友と呼ぶ亀井静香元衆議院議員に、反町キャスターがインタビューを行いました。

反町理キャスター:
2021年末にお会いになったときの様子は?

亀井静香 元衆議院議員:
弱った素振りを見せる男じゃない。ただ、別れ際に俺の手を握って「またな」と言って泣いていた。だが、あの状態で中国はけしからんとかアメリカがやりたい放題やっているとか、お互い悲憤慷慨しながら話をしていたんだから。

反町理キャスター:
最後まで石原慎太郎だったんですね。石原さんが首相になっていたら、今の日本は大きく変わっていたと思いますか?

亀井静香 元衆議院議員:
あいつが一番いい。これほどアメリカのポチを続けることも、中国に馬鹿にされることも、北朝鮮がどんどんミサイルを飛ばすこともなかっただろう。バイデン大統領や習近平国家主席とも対等に渡り合っていただろうね。ただ政治の世界の利害調整などは、なかなかやれない部分だったろうな。

石原慎太郎 東京都知事(当時)(左)、亀井静香 衆議院議員(当時)
石原慎太郎 東京都知事(当時)(左)、亀井静香 衆議院議員(当時)

反町理キャスター:
石原さんは我々に何を残してくれたんでしょう。

亀井静香 元衆議院議員:
「日本人とは何か」を真剣に考えるということじゃないか。本居宣長の「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」、彼が目指した日本人はそういうイメージだと思う。我々もそれを求めて生きていけばいいんじゃないの。太陽は沈んだけれども、陽はまた昇るんだよ。

石原氏「日本はアメリカに精神的にも解体された。この克服を」

石原慎太郎 衆議院議員(当時)
石原慎太郎 衆議院議員(当時)

新美有加キャスター:
2014年7月10日の出演は、安倍政権が集団的自衛権の閣議決定を限定容認した直後。

石原慎太郎 衆議院議員(当時):
保守とは体制の維持ではなく、良きものを保って守るという意味であって、そのためには部分的改革や革新、新しい試みも必要。

反町理キャスター:
今の自民党は、石原さんから見て「良きものを保って守る」保守と思われる?

石原慎太郎 衆議院議員(当時):
努力はしている。戦後の体制を変えようと安倍首相が言うのは正しい。やはり日本は戦後、人種偏見に則ったアメリカによって精神的にも解体された。これを克服しないとダメだ。みんな憲法9条にこだわって、集団的自衛権となると戦争が始まるとバカな論議をしているが。

石原慎太郎 衆議院議員(当時):
保守というのは日本の美しきところを守ることで、その象徴が正しい日本語だと思いますよ。日本国憲法なるものの前文、最初の一行に「平和を愛する諸国民の公正と信義『に』信頼して」。助詞が違う。こんな日本語はない。「信義『を』信頼」が正しい。こんな間違いが3つも4つもある。英語で作ったものを外国人が拙劣に訳したから。この一字を直すことも自主憲法に繋がるわけだ。

日本人は奴隷に甘んじる平和を忌避した。先人に感謝する

反町理キャスター(左)、石原慎太郎 元東京都知事(中)、評論家 西部邁氏
反町理キャスター(左)、石原慎太郎 元東京都知事(中)、評論家 西部邁氏

新美有加キャスター:
石原氏が番組でたびたび憂いていたのは、日本の対米姿勢。2015年4月8日の出演は、当時の安倍首相が戦後70年談話を出すと話題になっていた時期。世界ではイスラム過激派によるテロが頻発していた。

石原慎太郎 元東京都知事:
私はイスラム過激派による非人道的なテロは絶対に許すものではない。ただ、ここに歴史的な蓋然性、必然性は認めざるを得ない。中世という時代の後、世界の歴史では明らかに白人が有色人種を一方的に支配、収奪してきた。これに対する反発は当然起きるでしょう。

評論家 西部邁氏:
第一次世界大戦後に国際連盟を作るとき、人種差別をやめようと規約に入れる日本の提案は、ウィルソン議長が巧みに議題から外した。また、戦争を支持させたいルーズベルト大統領が日本の真珠湾攻撃を喜んだことは議事録にまで残り、翻訳もされている。だが日本人が、そんなことはないと言う。この奴隷根性は何なのか。

石原慎太郎 元東京都知事:
おっしゃるとおり。戦後70年談話が云々されているが、日本が行った戦争は自衛のためだったとマッカーサーが議会で証言している。日本人は他の有色人種のように奴隷に甘んじる平和を忌避したんだと思いますよ。私は先人に感謝しますね。

反町理キャスター:
戦後70年の日本とアメリカの関係をどう評価しますか?

石原慎太郎 元東京都知事:
日本は奴隷的な平和を70年満喫してきたな。白洲次郎が「吉田茂はなかなかの政治家だったが、1つ大きな間違いをした。サンフランシスコ平和条約締結の調印時、日本の独立時に、アメリカの作った憲法を破棄しなかった」と言った。その通りだと思う。

首相は「中国は非常に危険な国」だとはっきり言えばいい

石原慎太郎 衆議院議員(当時)、習近平 中国国家主席(右上画面)
石原慎太郎 衆議院議員(当時)、習近平 中国国家主席(右上画面)

新美有加キャスター:
石原氏は都知事時代に尖閣諸島購入を表明するなど、中国に強い警戒感を抱いていた。2014年7月10日の放送時は、中国の東シナ海・南シナ海への海洋進出への懸念が強まっていました。

石原慎太郎 衆議院議員(当時):
国民が集団的自衛権の問題に関心を持たざるを得ない原因は、中国の脅威。首相は、中国は非常に危険な国だとはっきり言えばいい。確かに中国は工業力を持ち経済大国になってきた。軍事力を備え人口も多い。これは国力。しかし、だから全てのことをまかり通らせることができる、とはならない。中国のやっていることは、かつて白人が有色人種の土地を全部植民地にしたのと同じやり方じゃないですか。

反町理キャスター:
現実的なプロセスとして、当面はアメリカと連携しながら対応を? 

石原慎太郎 衆議院議員(当時):
例えば、日本を基地とする米軍第7艦隊は、世界最大のタスクフォース。中国にはない。また日本の海上自衛隊の対潜水艦能力は世界一で、第7艦隊が備えていないもの。アメリカが日本を捨てきれない理由のひとつ。日本の自衛隊、科学技術にはポテンシャルがあるが、日本は航空産業も復活させなければダメ。

人間の価値は個性。その違いが感性。感性を磨け

石原慎太郎 元東京都知事(左)、堺屋太一 元経済企画庁長官
石原慎太郎 元東京都知事(左)、堺屋太一 元経済企画庁長官

新美有加キャスター:
石原氏は、高度経済成長を経て経済大国になった後に長らく低成長を続ける日本を憂いていました。2015年9月10日のご出演です。

反町理キャスター:
石原都政はワンマンだとも言われたが。

石原慎太郎 元東京都知事:
最後はリーダーが決めなきゃダメ。そういう見識や度胸があるリーダーがだんだん日本にいなくなった。企業の世界でも、昔はいろんな人が世界は、国家はどうだという話。今は日本の経済界のトップと話していても、わが業界は、わが社はという話になってしまう。

反町理キャスター:
その理由は?

石原慎太郎 元東京都知事:
教養、感性の問題、そして世界観とか価値観の問題。また、個々人と国家の関わり合いに対する意識の変遷だと思います。

堺屋太一 元経済企画庁長官:
日本人の人生を役所が決めるという習慣ができた。人生はまず生まれてから教育を受け、大学を卒業したらすぐ就職、お金を貯め、結婚したらすぐに子を産め、住宅ローンで家を買え、老後に備えて役所に年金を収めろ。この図式に沿って生きれば一番得なように、社会福祉もできています。

石原慎太郎 元東京都知事:
それが幸せな人生のモデルになっちゃった。要するに官僚統制国家。ダイナミックな発想が出なくなった。だから感性を磨くこと。人間の価値というのは個性。その違いが感性です。

橋下氏「石原さんは40歳も年下の僕に『友よ』と……」

石原慎太郎 元東京都知事
石原慎太郎 元東京都知事

反町理キャスター:
石原さんは橋下さんを「日本のために失いたくない政治家」と。

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
ありがたい。だが、人をまとめることができない。首長はできても、永田町に向いていない。

反町理キャスター:
石原さんと親しくなったのは?

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
大阪府知事に当選して、東京都庁に伺った。石原さんは都知事室で夜景を見ながら、この大東京は精神の土台が脆弱だ、自立の精神が全く欠けていると。そこで少し反抗しちゃって、今の若者もそうヤワじゃないと思いますよって。

反町理キャスター:
あっ、刃向かったんですね。

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
世界の国と比較して悪い国かというと、医療はここまで充実し、悪い部分もあるが教育、社会保障もあり、給料もそこそこ。全否定はどうか、というのがよく激論になった。高度な精神論と足元の生活の話が食い違う。

反町理キャスター:
同じ首長同士でも。

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長
橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
石原さんは戦争を経験され、日本という国の自立にこだわりがあった。世代の違いがある。ただ保守と革新について話すと、意味のない議論だと。石原さんは極めて合理的。保守だから、リベラルだからどうというのは大嫌い。ひとつひとつに理由が必要だろうと。

反町理キャスター:
なるほど。ほかにはどんな話を?

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
中国には、アヘン戦争で欧米列強に植民地化された怨念がある。石原さんも占領された怨念がエネルギーになっている。中国の横暴は許せないがその点は一緒ではないかと話したら、「違う、屁理屈言うな!」と大激怒されて(笑)。僕の屁理屈にも答えてくれて、本当に楽しかった。

反町理キャスター:
年末にお宅を訪ねられたとき、どういうお話を?

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
皇室の話、靖国の話、戦争責任や戦争指導者の問題など、様々。日本という国の自立について次世代に伝えてほしい、頼むぞというメッセージを感じました。

反町理キャスター:
最後はどういうお別れをしたんですか。

橋下徹 元大阪府知事 元大阪市長:
40歳も年下の僕に「友よ」って……。握手した手は柔らかかった。ありがたかったですね。

BSフジLIVE「プライムニュース」2月7日放送