岸田政権が目玉政策に掲げる経済安全保障推進法案。政府が設置した有識者会議が1日、法案の具体化に向けて提言を出すなど、法案は国会提出に向け佳境を迎えている。

法案の具体的な内容について政府関係者は、日本にとって「攻め」と「守り」を兼ね備えたものだと解説する。「半導体不足」への対応を含むサプライチェーンの強靱化は「攻め」の政策。そして社会基盤を構成する「インフラ」への外部からのサイバー攻撃を防ぐ「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」は「守る」政策だ。

小林経済安保担当相
小林経済安保担当相
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「攻め」の重要物資には政府支援も 対象範囲は

法案では、半導体やマスクなどの医薬品を念頭に「サプライチェーンの強靱化」を掲げる。
具体的には、半導体などを「国民の生存に必要不可欠で経済活動のために重要な物資」と位置づけ、「特定重要物資」に指定する。
今後の課題は、政府が何をどの範囲まで「特定重要物資」として指定するかだ。一口に医薬品といっても、マスクから病院にある専門的な機器まで範囲は広く、指定されると、政府がその分野を「ウィークポイント」だと認めることとなるおそれがある。

また、重要物資に指定されたものについて、政府は「安定供給確保」のための取り組み方針を定めることとなる。企業は、政府の方針に基づいて生産基盤の整備や供給源の多様化、備蓄など、安定供給のための計画書を作成することで、金銭面など政府支援を受けられるようになるメリットがある。
一方で、こうした物資の生産や輸入、販売を行う企業は、重要物資の「調査」として、生産・輸入・販売・調達・保管の状況について国に報告を求められる可能性がある。民間企業への国による介入がどこまで許容されるのか、今後議論が必要だ。

サイバー攻撃多発 どこまでを「守る」か

2021年5月、アメリカの石油パイプラインがサイバー攻撃を受けて停止。また日本でも、原子力規制庁がサイバー攻撃を受けた。近年、世界規模でサイバー攻撃が多発していて、生活上重要な基幹インフラを守る必要性が増している。

サイバー攻撃を受け一時操業停止となった米「コロニアル・パイプライン」の貯蔵タンク
サイバー攻撃を受け一時操業停止となった米「コロニアル・パイプライン」の貯蔵タンク

法案の原案では、政府は守るべき「基幹インフラ」の対象に、エネルギーや水道、情報通信、金融、運輸などを想定。その事業を行うために使う設備やプログラムのうち、何らかの障害が生じた場合に「国家及び国民の安全を損なう事態を生ずる恐れが大きいもの」を「特定重要設備」と定め、その企業を「特定社会基盤事業者」として指定する。

政府関係者は基盤事業の範囲について、「実効性がありかつ過度な負担にもならないもの」であるとし、対象はあくまで「国民生活に多大な影響を及ぼすものに限る」と強調する。

「金融」でいえば、メガバンクや地方銀行、信用金庫のどこまでを対象とするのか今後議論の焦点の一つとなる。

また法案の原案では、「特定社会基盤事業者」は、特定重要設備の導入または設備の維持管理等の委託を行う際に、システムに脆弱な部分がないことなどを、あらかじめ届け出る必要があると規定する。仮にサイバー攻撃により情報流出が起きれば、企業へのダメージは計り知れない。事前に政府が持つ情報を元に審査を受けることで、リスクが回避できれば、企業にとってのメリットは大きいと言える。
一方で、審査の結果、外部からの妨害を受けるおそれが大きいと判断されると、企業は設備投資の計画の変更や中止などの勧告を受けることもある。

政府はこの経済安全保障推進法を早ければ2月末にも通常国会に提出したい考えだ。企業にとって影響の大きい法案なだけに、慎重な議論が求められる。

【執筆:政治部 杉山和希】