屋外ではマスク不要

ワクチン先進国とされるイスラエル。コロナ感染拡大の早い段階からワクチン接種を進め、今やリスクの高い人を対象に4回目の接種が行われている。しかし、オミクロン株の急拡大はこの国をも直撃し、最近の新規感染者は7万人台で推移している。われわれは入国規制緩和後の2022年1月下旬、現地を取材した。

イスラエルではレストランや公共交通機関などを除き、屋外でマスクの着用は不要だ。そのため、マスクをしている人をほとんど見かけない。筆者は同じく感染者の多いイスタンブールで生活しているが、トルコと比べてもイスラエルのマスク着用率は低く、一見、コロナが収束したかと錯覚するような光景が広がっていた。

屋外でマスクをする人はほとんどいない
屋外でマスクをする人はほとんどいない
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現地では、どのようなコロナ対策が進められているのだろうか?イスラエルのコロナ対策の第一人者で、国内最大の救急治療施設であるテルアビブ・ソウラスキ病院の院長、ロニ・ガムズ教授に話を聞いた。

ガムズ教授はコロナ感染拡大が始まった2020年、医療界の権威として当時のネタニヤフ政権のコロナ対策に大きく貢献した人物だ。

テルアビブ・ソウラスキ病院長 ロニ・ガムズ教授
テルアビブ・ソウラスキ病院長 ロニ・ガムズ教授

――現在のイスラエルの状況は?

ロニ・ガムズ教授:
イスラエルは今、第5の波に直面している。膨大な数の人々が感染していて、そのほとんどがオミクロン株だ。世界中の多くの国と同様、記録的なレベルの人数だ。ただ、良いニュースもある。重症化して入院する人の数は、以前の8分の1くらいになった。それでもまだ多いので、われわれはすべての状況を監視していかなければならない。重要なのは、医療の逼迫を回避することだ。

――今、何が求められている?

ガムズ教授:
市民生活、教育システム、経済の活性化を維持していかなければいけない。これらが最大の課題だ。感染した何百万もの人々を10日間も隔離しなければいけなかったら、市民生活はまひしてしまう。だから陽性者の隔離期間を5日に短縮した。前進し続けるためだ。

4回目接種は第5波防止にも「有効」

――イスラエルでは4回目接種が始まった。一方で、イスラエルの国立病院(シェバ・メディカルセンター)は1月17日、4回目接種はオミクロン株の感染防止には効果が不十分との初期調査結果を発表した。

ガムズ教授:
シェバの研究は少し間違っていた。というのも、このシェバと保健省が実施した分析結果(1月23日発表)では、4回目接種が3回目と比べて感染のリスクを半減させることがわかった。半減しているのに「効果は最小限」とは言えないだろう。

さらに重症化リスクは3分の1まで減る。つまり、4回目接種は効果があるということだ。私は4回目接種の対象を50歳以上の全市民と、慢性疾患などのリスクのある全ての人にも拡大すべきだと考える。

4回目接種の有効性を訴えるガムズ教授
4回目接種の有効性を訴えるガムズ教授

3回目接種(ブースター接種)はイスラエルから始まった。その後、多くの国々がイスラエルに続いた。4回目接種(2回目のブースター接種)もそうなるだろう。確かに現時点では4回目接種はオミクロン株には対応していないが、第5波を防ぐには有効な手段だと言える。 

子供にもワクチン接種を

――イスラエルで5歳から11歳の子供を対象にワクチン接種が始まってから2カ月経つが、接種率は低迷している。

ガムズ教授:
まず、親がコロナをそれほど恐れていないことが理由の一つだ。通常、子供は感染しても軽症であることから、親自身が子供に接種させるかどうかを判断している。ワクチン反対派だけではなく、多くの人が同じような考えを持っている。ただ、賛成派と反対派で対立するべきではない。まず、接種をしない、させたくないという人を認めることが大切だ。

次に、「感染するよりワクチンを接種した方が良い」というメッセージを伝えていく。こうすることによって、広く接種を受け入れてもらうようにしなければならない。私は自分の5歳半の子供にワクチン接種をさせた。ただ、私はワクチン接種の義務化には反対だ。

テルアビブのクリニックで子供に接種を受けさせる親
テルアビブのクリニックで子供に接種を受けさせる親

――日本でも5歳から11歳の子供へのワクチン接種が始まろうとしている。

ガムズ教授:
私のアドバイスは「感染するよりワクチン接種した方が良い」ということだ。重症化するリスクが少ないから接種しなくてもいい、とは考えないでほしい。

――5歳以下の子供を対象にした接種も検討されているという一部報道がある。

ガムズ教授:
まだ何も決まっていない。ただ、子供は出生から幼児まで、はしかやポリオなど多くの予防接種を行う。様々なウイルスから守るためだ。つまり、コロナワクチンもそれらとさほど違いはない。インフルエンザワクチンと同様だ。ただし、コロナについては個人の健康だけではなく、パンデミックの観点から(接種するかどうかの)意思決定が必要になってくる。

オミクロンは「ゲームチェンジャー」

――世界でオミクロン株が急拡大している。「集団免疫」達成はあり得るのか?

ガムズ教授:
オミクロン株の感染拡大に伴い、コロナは「ゲームオーバー」だと言う人がいる。私の考えは違う。オミクロン株はコロナの「ゲームチェンジャー」(流れを変えるもの)だ。オミクロン株はある種の自然な集団免疫をもたらすかもしれないが、時折インフルエンザのように抗原不連続変異(antigenic shift)が起こる。この変異は非常に顕著で、大きな影響を及ぼすことがある。

だからわれわれは常に警戒していかなければならない。毎年どういう変異が起きているのか?北半球と南半球で何が違うのか?インフルエンザと同様、1年ごとの接種が必要になるだろう。だから「ゲームオーバー」ではなく、「ゲームチェンジャー」なのだ。

オミクロンは「ゲームチェンジャー」と語るガムズ教授
オミクロンは「ゲームチェンジャー」と語るガムズ教授

――新たな変異株出現の可能性もあるということか?

ガムズ教授:
それは常に起こりうる。ウイルスは変異せずに同じ状態であり続けることはない。問題はその変異株がより凶暴になりうるかどうかだ。それが起こらないとは言い切れない。コロナはウイルスの仲間だ。また大きな「波」が来る可能性は常にある。

――楽観的になってはいけない?

ガムズ教授:
いや、われわれはウイルスを研究してきたからこそ、楽観的になれる。ウイルスをどう扱えば良いのか、理解しているからだ。波の後に、次の波に向けた準備ができる。だから私は楽観的だ。コロナの波はまた来るだろうが、われわれは通常の生活を取り戻し、また世界中を旅することができるようになるだろう。

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このインタビューの直後(1月26日)、イスラエル保健省は4回目接種の対象を18歳以上のリスクのある人などにも拡大した。ガムズ教授が政府のコロナ対策に今も深く関わっていることがわかる。

ワクチン先進国イスラエルが直面している課題には、いずれ世界も取り組まなければならない日がくるのか。オミクロン株の感染状況の推移と共に、イスラエルのコロナ対策に引き続き各国が注目している。

【執筆:FNNイスタンブール支局長 清水康彦】

清水康彦
清水康彦

国際取材部デスク。報道局社会部、経済部、ニューヨーク支局、イスタンブール支局長などを経て、2022年8月から現職。