SDGs企画、今回はSDGsが掲げる17の目標のうち、12番の「つくる責任・つかう責任」がテーマ。これはリサイクルや食品ロスを減らす取り組みを通して、持続可能な生産・消費形態をつくるというもの。
今回紹介するのは、駆除され、捨てられるはずだったイノシシの皮から作られたお洒落な革小物。

毎年2000頭以上処分されるイノシシ

しなやかで丈夫、特別なメンテナンスも必要ないことから、ヨーロッパでは「孫に継ぐ革」として、代々大切にされているイノシシ革。

長崎・諫早市にある築80年の古民家で、作品作りに没頭するのは小畑真裕子さん。北海道出身で暖かい土地にあこがれがあった小畑さんは、結婚を機に2019年に諫早市への移住を決めた。

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小畑真裕子さん:
もともとは絵描きから始まっていて、もう20年ぐらい、何かしらはずっと表現し続けているんですけど、2年半前ぐらいから革は始めました

アクセサリー作りも手掛けていたが、商品を卸していた店のオーナーから革を使った製品づくりを勧められた。
しかし、このレザークラフトへの興味が高まるとある壁にぶつかった。

小畑真裕子さん:
最初は結構、抵抗感があったんですよ。皮を刻むという行為に。やっぱり、ちょっと革は向いてないなって、最初は思って。革産業のこととか、色んなことが気になってしまって。勉強すると、さらにもう自分は革を触るのはちょっとやだなって

そう思っていた小畑さんの人生を変えたのは、牛の床革との出会いだった。

小畑真裕子さん:
革って、層になっていて、上の部分がすごく強度が高いんですよね。それがよく使われる革なんですけど、スライスされた時に下に残った革を、床の革ってかいて「床革(とこがわ)」っていうんです。ほとんど廃棄されているのが現実で、それだったら作れるかもって。捨てられているっていうのを聞いた時に、その素材で何か作ってみようかなと

もともと動物が大好きで興味があったという小畑さん。ただ捨てられてしまうだけの動物の皮で自分にできることはないのか。調べているうち新たな転機が訪れた。

小畑真裕子さん:
色んな話を聞いていく中で、獣害駆除という問題があると知って。諫早市は年間2,000頭(イノシシ)が駆除されていて、そのうちの300頭ぐらい食肉になって、ていうのを聞いて、じゃあ、その皮ってどうされているのかなって

小畑さんの中での革に対する想いと、獣害駆除という社会問題への想いがひとつの線となって繋がった瞬間だった。小畑さんはすぐ行動を起こした。

小畑真裕子さん:
諫早市の食肉加工組合みたいなところがあるんですけど、すぐ電話して「いま皮ってどうされてますか?」って言ったら、「廃棄してます」って。で、「買い取らせてくれませんか?」って言ったら、「いいですよ」って、二つ返事で言って頂いて

野生で生きるイノシシの命の個性が

そうしてスタートしたイノシシ革の小物製作。「皮」から「革」にするために必要な下準備は全て手作業で行う。腐敗を防ぐために、一晩 塩水につけた後、塩を揉みこんで塩漬けにする。

大きいものでは皮だけで8kgもある。下準備だけでもなかなかの重労働。

そしてある程度まとまったら東京のなめし業者へ。その後、約1カ月をかけ「皮」から「革」となって戻ってくる。

小畑真裕子さん:
端切れがすごくいっぱいあるから、端切れも大事に使おうと思っていて。こういう端切れから、大体はポケットを切り出して、カーブを見て。カットにかかっているんですよ。カットを失敗すると絶対、出来がアレなので、綺麗にカットしていきます

真剣な表情で革をカットする小畑さん
真剣な表情で革をカットする小畑さん

イノシシの革繊維はとても密になっていて、傷や型崩れに強い。牛革の5倍から10倍は強く、そして軽い。また人の肌と近い成分でできているので、普段さわっていると保湿クリームのような効果があり、自然にメンテナンスできるという。

小畑真裕子さん:
(力は)結構いる。肩が結構パンパンになりますね。一回でサクッと(切る)。あと定規を合わせないで、まっすぐいきたいから結構集中して。
こういう小物作るのも好きです。タッセルとか。チマチマした作業が結構好きで。穴が全然ないとしたら、サイズ的には財布は2~3個できますかね。3個くらいはできるかな

一番楽しいのはミシンを踏んでる時。重労働のカットが終われば、ミシンの爽快感へとつながってゆく。

小畑真裕子さん:
表面に傷があるんですよ。野山を走り回った時に木とかが引っかかるじゃないですか、イノシシに。革用の牛とかだったら傷つけないような飼い方をしてらっしゃってるから、みんな革は綺麗なんですけど

小畑真裕子さん:
あえてこの傷がいっぱいあるっていうのは、なんか魅力かなって、命の個性を感じるっていうか。皮になるまでっていうのにドラマがある。ドラマっていってもただハッピーだけじゃない。
色々な人が関わって、イノシシを撃ったハンターさんもそうだし、その皮を剥いでくださる加工場の方もそうですし、それをなめしてくださる業者さんもそうですし、っていうのがこのヘリとかのカーブとかクリップ跡とか、そういうところに見えるんです。ナイフでちょっとつけてしまった穴とか。
そういうのをなるべく消さずに残しながら作りたいって思っていて、だからへりをあえて使うようなデザインが結構多いです。だからオンリーワンだし、でもそれって自然なカーブじゃなくて、人がつけたカーブで、そのストーリーが少しでもこの作品にこめられれば

伝えたいのは「革」を通じての循環型の社会。

小畑真裕子さん:
伝えたいのは、ただこれだけ。物がいっぱいある世界で、どこかに出かければ物ばっかり売っている。だから更に物を作るのはどうかなって、でもやっぱりすごくいい素材だし、もちろん土に還ってくれる、循環を起こせる素材

小畑真裕子さん:
10年でも20年でも使えるし、やっぱりもったいない精神って大切かなって。
本当にいいもの、本物を選べる自分でありたいし、大量生産であっても、どっから来て、どんな人が働いてって、もっと根っこを見てゆく作業を一つづつしていくっていうか、そうした時にこういう商品をあえて手にとりたくなれるような社会とか生き方とかって、私は美しいかなって思ってる。
そういう風に生きたいなって思っています。そういうメッセージがイノシシ革と一緒に伝わればいいかなって

捨てられてしまう皮にもう一度命を吹き込む…。小畑さんの挑戦は始まったばかり。

(テレビ長崎)

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