静岡県と山梨県をつなぐJR身延線は、富士山の眺望が満喫できるローカル線だ。競争相手ともいえる中部横断自動車道が2021年に全線開通し、高速バスがより便利になった。ライバル出現を機に、JR東海も魅力発信に力を入れている。
富士の麓で93年 生活に欠かせない“住民の足”
車内アナウンス:
ご乗車ありがとうございます。ふじかわ1号甲府行きです
静岡県の富士駅を発車し山梨県へと向かうJRの特急「ふじかわ号」。静岡から甲府まで1日7往復運転されている。

西富士宮まで都市部を走行した後は、富士川沿いの自然豊かな山あいを走り、観光客やビジネス客を運んでいる。
JR身延線は、富士から甲府までを結ぶ全長88.4kmの路線だ。東西に長い静岡県にあって南北に走り、前身の富士身延鉄道の全線開通から93年の歴史を刻む。

駅のアナウンス:
ドアが閉まります
平日朝のJR富士宮駅。身延線が運ぶのは旅行者だけでなく、地元住民を学校や職場などそれぞれの目的地へと運ぶ。
乗客:
静岡に行く時、車で行くより早いし楽なので(特急を)使ってます
別の乗客:
私が生まれた頃から身延線はあるので、ずっとあるといいな。甲府にも行けるし富士にも近い

地域の人にとって欠かせない足であるとともに、観光面でも大きな役割を果たす。この身延線と沿線の魅力の発信に今、JR東海は力を注いでいる。
沿線の魅力を積極発信 その理由は…
峡南広域行政組合・三枝有希さん:
山梨県の観光PRをしています。よろしくお願いします
2021年11月、新型コロナの感染状況が落ち着いていた時に静岡駅で観光キャンペーンが行われた。

JR東海は山梨県富士川地域5つの町と協力して、山梨への旅を提案。
車内広告をすべて身延線の沿線関連にしたテーマトレインの運行や、ふじかわ号の車内での観光アナウンスにも取り組んでいる。

旅行需要の高まりだけでなく、力を入れる理由は他にもある。
2021年8月に全線開通した中部横断自動車道だ。高速道路が新東名から中央道までつながり、人の移動や物流の促進に大きな効果が期待されている。

静岡市と甲府市を結ぶ高速バスも大幅にスピードアップした。所要時間でも運賃でも、JR東海のふじかわ号より高速バスに分がある。

乗務員が案内するウォーキングが人気
新たな魅力発信のため考えたのは、自分たちの強みを生かすことだ。
JR東海富士運輸区・塩谷智俊助役:
四季折々、いろいろな路線区を走っているので、どの季節にどこがきれいか把握しながら乗務しています

10月下旬の土曜日、富士宮駅に続々と人が降りてきた。受付を終えると街中へ出発していく。行われたのは富士山の景色を楽しむウォーキングイベントだ。乗務員がコースを考え案内に立つ。

乗務員:
後ろを振り返ってもらうと、きれいに富士山がご覧いただけます
参加したのは約460人。おすすめの富士山のビューポイントや身延線の踏切など、7.5kmのコースを回る。

乗務員:
山道が険しいので気を付けてください

参加者は富士宮の景観を満喫し心地よい汗をかいていた。
参加者:
富士山がきれいで良かった
別の参加者:
富士宮らしいですよね

富士宮の観光の中心は「世界遺産の富士山」だ。新型コロナの影響で苦しい状況が続いていて、ウォーキングイベントは商店にも好評だ。
富士宮市内の店:
(ウォーキングは)土日に目にするようになった。参加者が足を止めて店に入ってくれると活気が出るのですごくありがたい

JR東海富士運輸区・塩谷智俊助役:
地域の役に立ちたいし身延線の乗客も増やしたいし、いろいろなことを考えました。喜んで頂けたので、やって良かったなと思っています
駅は“街の中心” 街づくりにも大きな役割
加藤洋司記者:
人やものを目的地に安全に運ぶ。鉄道の役割はそれにとどまりません。発着拠点となる駅は、商業や経済、街の発展の中心になってきた歴史があります
鉄道の駅は、周辺の開発や発展の原動力となってきた。

富士宮駅前の広場が完成したのは、今から40年前の1982年。バスやタクシーの乗り場とつながる施設が整備され、市民や観光客の出発・到着の拠点となってきた。
1日の乗降客数が約4800人の富士宮駅。須藤市長は今、施設の改修を考えている。

富士宮市・須藤秀忠市長:
高齢者や観光客に使いやすく魅力的なペデストリアンデッキ(橋上駅舎の歩行者専用通路)にしようと計画を練っています。富士宮の玄関口はここだと胸を張って見てもらい、訪れてもらうためには、きれいにしておかないと
高齢社会が進む中、富士宮市はバスとタクシーの利用促進を軸とした公共交通計画を進めていて、身延線はそのためにも欠かせない存在だ。
富士宮市・須藤市長:
私もそうですが、身延線で通学した学生時代の思い出を青春時代の記憶とともに、いつまでも心に留める人も多いと思います。市民の生活の足であることはもちろん、大勢の観光客を乗せて静岡県と山梨県をつなぐ役割を期待しています

100年目に向け愛されるローカル線に
JR東海は、2021年9月から普段、定期券を使う通勤・通学の人が特急列車を利用しやすくなるよう、定期券と併用できる割安の特急券回数券が使える区間を増やした。特急への乗車を見送って普通列車を長時間待つ高校生の姿がきっかけという。
JR東海富士運輸区・勝又啓太指導車掌:
観光客はもちろんですが通勤通学の方も多くいるので、地域に密着し愛される身延線にしていきたいと思っています

観光客や地元の人にとって、より使いやすくなることは重要だ。貴重な移動手段であり、市民の財産でもある「身延線と駅」。

社会環境や交通環境が変わる中でも大切な役割を担い、100年目に向け走り続ける。
(テレビ静岡)