連日100万人を超える新規感染者を記録しているアメリカでは、新学期を迎えた学校が大揺れだ。中西部シカゴでは、教職員組合が、対面式授業を「拒否する」との結論を出し、行政と対立しているのだ。“重症化リスクが低い”と言われているオミクロン株の急増で、生活や経済をそのまま維持するのか、それとも規制をするのか-米国で現在進行形のこの問題は日本もまもなく直面する可能性がある。

市長「学校は安全」VS組合の7割が「NO」

シカゴ市をはじめ、多くの都市では、2022年1月の新学期も対面式授業を続けることは、年末から決まっていた。このため、各自治体は、検査態勢を強化するなどし、安全対策を呼びかけており、ホワイトハウスのコロナ対策チームによれば、5日時点で、全米の96%の学校が再開しているという。

しかし、シカゴ市の公立学校教職員組合は4日、投票を行い、対面式授業を行わないことを決議した。組合員の投票の結果は73%が「オンライン授業」を支持したという。オミクロン株が急増している中で、感染対策が不十分であるというのが主な理由だ。

「感染者数が減少するまでオンライン授業を」と訴えている教職員組合
「感染者数が減少するまでオンライン授業を」と訴えている教職員組合
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この決定を受け、シカゴ市では、翌5日以降、原則として全ての公立学校を休校とし、オンライン授業も行わないと発表した。市側は、「対面式授業こそが子どものためだ」として、組合側と連日交渉を重ねているが、話し合いはまとまっておらず、7日以降も学校再開のメドは立っていない。

教職員組合と市が対立し、休校となったシカゴの学校
教職員組合と市が対立し、休校となったシカゴの学校

ライトフット・シカゴ市長は5日の会見で、語気を強めてこう言った。「学校がとても安全な場所だと知っていながら、なぜまた同じ議論を繰り返すのか。学校の換気対策など、1億ドル以上をかけてコロナ対策をしてきた。子どもたちが学校で学べるようにこれからも戦う」と、全面対決の様相だ。

“再開”めぐる分断は2020年にも

市長はこうも言った。「最も愚かなことは、科学を無視することだ」―このセリフ、2020年を思い出さずにはいられない。新型コロナウイルスが米国で猛威をふるう中、経済再開を急ぎたいトランプ大統領(当時)に対し、「科学を無視するな」と迫ったのが、規制緩和に慎重な民主党の首長が率いる自治体だった。マスク着用をめぐっても、米国は分断した。しかし今回は少し様子が違う。シカゴ市長のライトフット氏は、民主党なのだ。

シカゴ市長のライトフット氏「学校再開のために戦う」と明言
シカゴ市長のライトフット氏「学校再開のために戦う」と明言

シカゴ市長らが言う「科学」とは、以下の状況に支えられていると考えられる。2020年時点と違って、オミクロン株の重症化リスクが低いと報じられていることに加え、子どものワクチン接種が始まり、12歳以上の子どもにも3回目接種が認められること、そして検査態勢を強化していることなどだ。

NY市長「そんなお金はない」

オミクロン株の感染が爆発している中で、日常生活を維持するべきかどうか、という議論は、学校だけに留まらない。元日にニューヨーク市長に就任したばかりの、アダムス氏(民主党)は、ABCテレビの番組に出演した際、「もう一度、街をロックダウンすることは、コロナと同じくらい危険だ。私たちはコロナ対策に11兆ドルを費やしてきた。また変異ウイルスが出てきたからといって11兆ドルを費やすのか?そんなお金はない」と明言した。

NY新市長のアダムス氏は「ロックダウンしない」と断言
NY新市長のアダムス氏は「ロックダウンしない」と断言
 

「ウィズコロナ」という言葉が出てきて久しいが、今回のオミクロン株の感染爆発によって、規制を強化する国や地域もあれば、経済活動の維持を表明しているところもある。日本はどちらの道を選ぶのか、喫緊の課題と言える。アメリカの先行例を参考にすることで、シカゴの学校のように新たな分断や対立を生まない、納得感のある説明と対策が必要だ。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。