新型コロナウイルス、オミクロン株の市中感染が確認され懸念が高まる中、岸田政権の対策が加速する現状。BSフジLIVE「プライムニュース」では、まだコロナとの戦い方が手探り状態の中で厳しい現実と向き合ってきた菅義偉前首相を迎え、当時の考えを含めた菅政権の政策について、さらに今後の展望について伺った。

「明かりが見え始めている」発言には明確な根拠

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長野美郷キャスター:
新型コロナ対応では、8月25日に「明かりが見え始めている」と発言され、実際この発言後に感染者数が急減しました。根拠と確信は?

菅義偉 前内閣総理大臣:
欧米など海外では、ワクチン接種率が40%半ば〜50%に近づくにつれて感染の勢いが減速していた。当時、日本では43%程度。また中和抗体薬がよく効いた。東京都では420名の患者の95%が重症にならず数日で回復した。これらのことから、かなり確信を持っていた。ただ、減少し始めても気を緩めず、とにかくワクチンを1日も早く1人でも多くの方に、という思いだった。

反町理キャスター:
「1日100万回の接種」は可能と考えて発言した?

菅義偉 前内閣総理大臣:
もちろん、確信を持って言った。インフルエンザのワクチンでは、最高で1日に60万回打ったことがあった。地方交付税を配分しており、普段から地方自治体とコミュニケーションができている総務省が動くなど、できる方策をすべて使おうと思った。産業医の制度を活用した職域接種、自衛隊の大規模接種も。加えて、7月いっぱいで高齢者の2回接種を終えることも思い切って発言した。

反町理キャスター:
感染者は減り始めたが、1週間後に総裁選の不出馬表明。

菅義偉 前内閣総理大臣:
「明かりが見えている」と言ったときは国民から全く信頼されていなかった。会見すれば、どんどん支持率が下がる状況。私は新型コロナ対策に最優先で取り組む約束をしていた。9月12日に決めていた緊急事態宣言の期日を延長するようなら、そこで現職総理が選挙を戦うべきではないと思っていた。

感謝の声、政治家冥利「国民が納得できる説明はできていなかった」

菅義偉 前内閣総理大臣
菅義偉 前内閣総理大臣

長野美郷キャスター:
視聴者からのメール。「菅政権は短い期間に着実に仕事をした。コロナ対応もワクチン確保など適切だったが、再登板は?」

菅義偉 前内閣総理大臣:
それはありません。

反町理キャスター:
総選挙の応援演説では大歓迎を受けていました。

菅義偉 前内閣総理大臣:
総理を辞めての選挙で、街頭遊説も「非難されるんじゃないか」と非常に怖かった。しかし、本当に多くの人に来て頂き、通りすがりの人が足を止めて「ワクチンありがとう」と。また「携帯電話の料金引き下げありがとう」とも。政治家冥利に尽きました。

反町理キャスター:
視聴者から。「私は菅さんの功績を高く評価します。国民やマスコミはもう少し協力すべきでは。何事にも受け身で当事者意識がなく、文句ばかり言うマスコミに辟易している。菅さんの言いたいことは」。

菅義偉 前内閣総理大臣:
(言いたいことは)言って頂いたようですね(笑)。

反町理キャスター:
(笑)。逆風のとき、何を言っても悪くとられる印象があったのでは?

反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣
反町理キャスター(左)、菅義偉 前内閣総理大臣

菅義偉 前内閣総理大臣:
「明かりが見えた」と言った時から、ずっと聞く耳持たずでマスコミから非難されていた。特に1日100万回を目指すと言ったときには根拠がないとか、あまりに楽観的だとか、ワクチン一本足打法とか。

反町理キャスター:
「ワクチン一本足打法」は、僕も言いました。

菅義偉 前内閣総理大臣:
ただ私は、目に見えない敵との戦いの中で、国民に納得できる説明はできていなかった。秋田の山の麓で生まれ、口下手で言葉が届かないとよく言われた。結果が出れば、最終的には国民に信頼してもらえるという思いだった。

長野美郷キャスター:
今だから思う、危機下の一国の宰相に必要なこととは?

菅義偉 前内閣総理大臣:
全体像を掌握できる能力、そして国民に希望を持たせられること。それはあくまで信頼の上にある。そこは私に足りなかった。

緊急事態法制、専門家会議との関係については検証の必要あり

菅義偉 前内閣総理大臣
菅義偉 前内閣総理大臣

反町理キャスター:
緊急時における私権制限、その強制力について。日本の緊急事態法制は不完全か?

菅義偉 前内閣総理大臣:
国にもっと権限があってよい。方針を定めるのは国、選択の権限は地方自治体の首長にあり、一枚岩で進められない。また、例えば東京都の権限が23区役所にある保健所に落ちないといった問題もある。神奈川県なども同じ。これらは仕組みを作らなければならない。ただ、強制力は日本になじまない。

反町理キャスター:
専門家会議の発言が大きく扱われたが、政治とのバランスを欠いていた?

菅義偉 前内閣総理大臣:
コロナが収束したら、仕組みは検証する必要がある。例えば、北海道の緊急事態宣言か“まん延防止”措置について、行わないという政府の方針が分科会で通らず、分科会の主張通りにしたことがあった。どうしても「厳しくやれ、やらないとだめだ」ということになる。「明かり」発言が批判されたのはそういうことだった。

処理水にカーボンニュートラル 「誰かがやらなければ」を決断

長野美郷キャスター:
コロナ対策以外に「これは成し遂げた」と実感するものは。

菅義偉 前内閣総理大臣:
オリンピック・パラリンピックはやはり招致した国の責任者として、安全・安心の環境を作り開催すべきだと思っていた。マスコミから批判を受けたが、入国する海外関係者は18万人から、85%が接種済みの5万3000人にまで減らした。バブルの管理も日本ならできると考え開催した。選手の皆さんの活躍でコロナ禍の中、多くの国民が勇気や感動、夢をもらった。パラリンピックでも、努力の素晴らしさ、障害のある方・ない方が助け合う共生社会について世界に発信することができた。開催を判断してよかったと思う。

反町理キャスター:
福島の処理水の海洋放出が大英断だったことは間違いない。いまだ地元ではもめているが、決断の方向性と具体化へのプロセス、現状は?

菅義偉 前内閣総理大臣:
安全性と風評被害が極めて大事。IAEAの見解を含め、安全性は間違いない。福島はじめ全国の漁業の代表者とお会いし、風評被害だけはないようにと全ての省庁で対応する中で判断した。誰かがやらないとだめ。

反町理キャスター:
カーボンニュートラルの宣言については。

菅義偉 前内閣総理大臣:
脱炭素社会は世界の潮流。これも誰かが決断しなければ。私は、誰にも相談せずに最初の国会で宣言した。だが発言後に、私にクレームを言う人は誰一人いなかった。経済界も役所も一歩踏み出せずに間合いを見ていた。

反町理キャスター:
カーボンニュートラルも福島の処理水も、あとは総理が決断するだけだったと。

菅義偉 前内閣総理大臣:
その通り。

これからの日本人の“食いぶち”を作るために

反町理キャスター:
菅さんが今後取り組んでいきたいこととして、日本人の「食いぶち」をという話があった。

菅義偉 前内閣総理大臣:
かつて梶山静六さんが「政治家は国民の食いぶちを作るのが仕事だ」と言っていた。日本は人口減少の中で経済成長が難しい。その中で食いぶちを作らなければだめだということ。

反町理キャスター:
具体的に、これからの日本の食いぶちのため必要なことは。

菅義偉 前内閣総理大臣:
カーボンニュートラル、デジタル庁、少子化対策、地方。この4つを成長の柱に位置づけた。どの政権でもやらなければ日本の成長につながらない。

反町理キャスター:
なるほど。

菅義偉 前内閣総理大臣:
カーボンニュートラル宣言をして作った2兆円の基金で、経産省を中心に官民一体で研究開発に取り組む。加えてデジタルの司令塔機能としてのデジタル庁。少子化対策では不妊治療を保険適用にした。また地方には活力があり、アジアで評価の高い農林水産品の輸出ができる。2021年に初めて輸出額が1兆円を超えた。地方の所得引き上げのため、最低賃金も過去最高に引き上げた。地方の地価が26年ぶりに上がったことは一番うれしかった。

河野氏への評価は変わらず「派閥ではなく政策で結集を」

菅義偉 全内閣総理大臣、河野太郎 自民党広報本部長(画面)
菅義偉 全内閣総理大臣、河野太郎 自民党広報本部長(画面)

反町理キャスター:
政策を着実に積み重ねて進めるためには、数の力が必要。

菅義偉 前内閣総理大臣:
同じ考え方をもつ仲間は必要。だが、右向け右となりがちな派閥でなく、政策で結集して進めていった方がいい。国民から見て当たり前のこと。

反町理キャスター:
総裁選では河野太郎さんを応援した。次のリーダーとして河野さんは今も最有力?

菅義偉 前内閣総理大臣:
優秀な政治家がたくさんいる。その中で、当選同期である河野さんの突破力や国際性に期待して応援した。その気持ちは変わっていません。だが次のリーダーについては、岸田内閣がスタートしたばかりだから。

BSフジLIVE「プライムニュース」12月24日放送