難病に立ち向かい、奮闘する一人のサックス奏者がいる。音楽を諦めず、たくさんの人の心を動かした夢のコンサートまでの道のりを追った。
緊張した様子で舞台を見つめる吉田正男さん(45)。
吉田正男さん:
夢みたいです…

吉田さんは夢を叶えるために、この日まで歩んできた。
吉田さんは高校生のころからサックスを始め、卒業後は吹奏楽団でサックス奏者として活躍していた。

しかし、20代後半に吉田さんの人生は一変した。
吉田さんは、「脊髄小脳変性症」という、徐々に運動機能が衰える難病を患った。

現代医療では、治療法は確立されておらず、さらに、この病気には遺伝性があり、亡くなった父親と10歳違いの兄も同じ病気だった。
(Q.最初に症状が出たときの気持ちは?)
吉田正男さん:
ああ…(僕にも病気が)来たという感じ…。悔しい気持ちが強かったです

吉田さんの生きがいも奪われた…
吉田正男さん:
感覚は残っているけど、できないというもどかしさがあります

(Q.諦めざるを得ない気持ち?)
吉田正男さん:
そうですね…。そんなときもありました
もう一度、舞台の上でサックスを演奏したい…。

夢の舞台へ…憧れの奏者も助っ人に
訪問看護師の岩根朋子さんは、広島国際大学の医療学科の学生が中心に活動する難病患者の夢を叶えるプロジェクトがあることを吉田さんに伝えた。

訪問看護師・岩根朋子さん:
即答で「ある! ある!」と言って、目をキラキラ輝かせて、すぐにコンサートがしたいと話をされて
コンサートが決まると、吉田さんにも変化が現れた。
訪問看護師・岩根朋子さん:
それまで笑顔を見る機会があまりなかったんですけど、このプロジェクトに参加して、笑顔をたくさん見せてもらって、すごくうれしい気持ちです

訪問看護師・岩根朋子さん:
夢とか希望とか、そういったことは医療ではまかないきれない…すごい力をもたらしてくれるんだなと、日々感じています

コンサートには、心強い助っ人が参加してくれた。
サックス奏者の波山美晴さんは、吉田さんがサックスを始めるきっかけとなった人だ。

サックス奏者・波山美晴さん:
吉田さんから連絡があって、病気の進行は長年の付き合いで知っていたので、ずっと心配な部分もあったんですけど、病気と関係なく、やってみたい気持ちが強いところに心打たれて

サックス奏者・波山美晴さん:
すごく私の演奏をずっと好きでいてくれるのは知っていたので、「私でいいですか?」という。でも、うれしかったです

波山さんは、思うように演奏できない吉田さんを全力でサポートする。
サックス奏者・波山美晴さん:
乗り越えてほしいなというところは、正直感じていました。吉田さんが楽しく演奏してくれるのが一番だなと思います

憧れの波山さんとの共演。必死の練習が続いた。
支えてくれる人たちに囲まれ…こぼれる笑顔
ある日、吉田さんの姿は宮島にあった。プロジェクトに参加する学生と親睦を深めるためだ。
遠出が難しい吉田さん。みんなに囲まれて、思わず笑みがこぼれた。

(Q.何を頼まれたんですか?)
吉田正男さん:
(揚げもみじの)チョコレートです

(Q.チョコレートが一番好き?)
吉田正男さん:
はい
プロジェクトのリーダー・浅香弥音さんは、吉田さんの夢の実現を誰よりも願っている。

広島国際大学 医療福祉学科・浅香弥音さん:
まず、一番はすごくうれしくて…プロジェクトに依頼をいただけること自体うれしくて。本当に吉田さんの思い描いているコンサートを実現できたらいいなと思います

吉田さんの音楽への情熱と、たくさんの人の支え。みんなの思いが、夢の舞台へとつながる。
「きょうのために生きてきた」
多くの人の支えがあって、本番当日を迎えることができた。
いつも笑顔で緊張を和らげてくれた岩根さん。練習をサポートし、一緒に舞台で演奏してくれる波山さん。そして、コンサートを企画・運営してくれた学生たち。
本番前、みんなで円陣を組み、「最後まで笑顔で乗り切るぞー」と気合を入れる。

みんなの思いを胸に夢の舞台へ。吉田さんは、サックスの音色に思いを乗せた。
吉田正男さん:
夢がかなうということを届けたいです

一生忘れることのできない夢のコンサート。支えてくれた人たちへの感謝を胸に、決意を新たにする。

吉田正男さん:
きょうのために生きてきたようなもの。この一瞬一秒を忘れずに、今後とも歩んでいきたいと思います

一人のサックス奏者の情熱は、夢の実現だけではなく、関わった人たちの絆をより強くした。
新たな夢に向けて、挑戦はこれからも続く。
(テレビ新広島)