コロナ禍にテレワークが推奨されたことで、働き方改革が一気に進んだ。一方で、テレワークによって“孤独”を感じている人も出てきている。

なぜ、テレワークで孤独感を抱いてしまうのか。社員を孤立させないため、会社や上司ができる工夫はないのか。企業の働き方改革の支援を行うクロスリバーの越川慎司さんに聞いた。

コロナ禍によって進んでいる23~24歳の孤立化

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テレワークによる孤独は、「上司や先輩に声をかけることが難しいために感じてしまう閉塞感」と、越川さんは言う。クロスリバーが行った調査でも、“若手”の多くが孤独を感じやすいという結果が出た。

「当社では、805社17万3000人の働き方改革を支援してきています。そのすべてがテレワークを経験しているので、アンケート調査をしてみたんです。その結果、入社したばかりでテレワークをしている23~24歳の方が、孤独感や閉塞感を覚える傾向にあることが見えてきました」

若手社員がテレワークによって孤独を感じているのは、2020年から続くコロナ禍が大きく影響している。

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「今の23~24歳は、内定式、入社式、研修、配属がすべてオンラインで、上司や先輩と直接会ったことがない人もいます。そのため、職場で心理的安全性(安心して自分の考えを発言できる状態)の関係を築けず、相談や困りごとがあった時も上司や先輩に声をかけられないため、孤独感を抱いてしまうのだと考えられます」

また、若手社員が抱く孤独感や閉塞感には、住環境も影響している可能性があるという。

「社会人になるタイミングで1人暮らしを始めた8割以上が、ワンルームに住んでいることがわかりました。ワンルームだと、オンライン会議の際にベッドや洗濯物といったプライベートなものが映り込んでしまうため、ビデオをオフにする人が多いようです。

顔が見えないと上司は声をかけづらいですし、本人も上司に声をかけるタイミングを逃してしまうため、孤独感を抱きやすいといえます。私たちのアンケート調査では、オンライン会議でビデオをオンにする人が21%程度しかいないこともわかりました」

テレワークでの孤独感は本人の気力を削ぐだけでなく、部署や企業全体の生産性を低下させるおそれもあるようだ。

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「企業という組織は、社員それぞれの強みや弱みを掛け合わせ、協力し合う働き方をしないと成果が出ません。その点、テレワークで孤独感を抱いてしまうと、自分から上司や同僚に話しかけにくくなっていくので、メンバーとの共同作業が減りやすいのです。

社会課題が複雑化している現代は、1人で解決できない問題も多いため、社員の孤立化を防ぐことは会社にとっても重要な課題といえます」

越川さんが、アンケート調査で「テレワークがうまくいっている」と回答したチームについて調べたところ、「以前から雑談が多く、既に腹を割って話せる環境を構築できている」という共通点があることがわかった。

ただし、若手社員から会話のきっかけをつくるのはハードルが高いため、上司や先輩の働きかけが重要になる。

「ただ話しかければいいわけではないです。調査から、孤独感を生む声かけも2つ見えてきました。1つは『最近どう?』。上司が使いがちなワードですが、曖昧な質問で部下は答え方に迷います。また、部下が『適当な質問をするということは、私に興味がないんだ』と捉え、モチベーションが下がってしまう恐れもあります。

もう1つは、1on1ミーティングの冒頭に言いがちな『よろしくお願いします』。このひと言で面接のようなかしこまった空気になり、若手社員は緊張してしまうのです。この2つの声かけは、避けた方がいいでしょう」

上司の「表情」「雑談」が部下の緊張をほぐし、生産性を高める

自分の声かけがきっかけで、部下の孤独感を生み出してしまったり、モチベーションを下げてしまったりするとなると上司も慎重になりそうだが、どのような姿勢で向き合うといいのだろうか。

「支援している企業の中から29社を選出し、その中の人事評価トップ5%に入っている管理職の方々の行動履歴を分析したところ、優秀なリーダーは表情を大切にしていることがわかりました。オンライン会議でビデオをオンにしたうえで、一般の人より口角が2cmほど上がっていたのです。

また、出社していてマスクをしている状態では、対話中の頷きが一般の人より3.5~4cm深かった。明るい表情が親しみやすい雰囲気を作り、深い頷きが部下の話に興味を抱いている印象を与えるため、部下も心理的安全性の関係を築きやすくなるのだといえます」

実際にテレワークを導入した会社の上司に「口角を上げてください」と伝えて実践してもらうと、驚きの結果が出た。

「オンライン会議で上司が口角を上げただけで、会議時間が8%短くなったのです。上司の不機嫌そうな顔は、部下が発言しにくくなり、生産性が下がるということが証明されたといえます。また、部下から上司への『今ちょっといいですか?』という声かけが、2倍程度増えたのです。部下に過剰な気遣いをさせないことも、上司の務めになってきています」

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オンライン会議でもビデオをオンにする人は21%程度しかいないという話があったが、ビデオをオンにする割合を高め、チームの空気を良くする方法もあるという。どうやらオンライン会議参加メンバーでの雑談が、孤独感を減らすことにつながるようだ。

「人事評価トップ5%のリーダーは、雑談が上手いんですよね。そして、雑談が多いチームは、テレワークでも順調に業務が進んでいるケースが多いという調査結果もあります。そこで、当社でテレワーク導入の支援をしている企業の7万8000人に協力してもらい、オンライン会議の冒頭2分間だけ雑談をしてもらいました」

雑談の内容は決めずに自由に話してもらったところ、「食事」をテーマにすると発言が活発化した。年齢や性別、国籍に関係なく、全員に共通する話題であるため、盛り上がりやすいのだ。

「最初に雑談をすることで場が温まるからか、会議中に発言する人が1.9倍増え、発言の数も1.7倍増、予定の時刻より早く終わる確率が45%高まったのです。また、雑談の間だけでもビデオをオンにしてもらうよう提案すると、48%の人がオンにしてくれたのです。雑談の効果は非常に大きいといえます」

雑談をする際、上司の最初のひと言次第で、盛り上がりにも変化が出てきた。

「上司が『ランチは何食べた?』と聞くだけだと、18%の人しか答えなかったのですが、『僕はオムライスを作ったけど、みんなは何食べた?』と聞くと、78%の人が答えてくれたのです。

これは“自己開示の返報性”というテクニックで、自分の経験を話してから相手に質問をすることで、相手は答えやすくなるのです。部下とのコミュニケーションに悩んでいる方は、取り入れてみましょう」

オンラインで培ったコミュニケーション術はオフラインでも活きる

コロナ禍によって、働き方の1つとして定番化したテレワーク。「これまではテレワークでも変わらずに事業を継続するためのツールへの投資、DXの面が取り上げられることが多かったが、2021年に入ってから、企業の視点が変わってきている」と、越川さんは話す。

「現在、テレワークでも利益を増やしていくモデルを目指す方向に変化してきています。そのため、設備そのものではなく、設備を使いこなすスキルやオンラインでのプレゼン方法、部下との対話術などを学ぶセミナーなど、社員教育に投資されている会社が増えています」

テレワークを有効活用し、事業をプラスに作用させるための動きが出てきている。ますますテレワークでも上司と部下がコミュニケーションを取りやすく、心理的安全性の関係を築きやすい環境が求められるだろう。

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「一方で、私の講演に参加してくださった279社に聞き取り調査をしてみると、2021年10月頃から出社に戻している企業が71%もあったのです。テレワークの頻度が減っているので、テレワーク孤独も緩和されていくと考えられます。

とはいえ、出社して顔を合わせる場でも、若手社員は緊張しているもの。上司や先輩の働きかけは重要なので、部下と話す時は頷きを深くする、会議の冒頭2分間は雑談するといったことを継続していくと、プラスに働きます」

オンラインだからこそ、意識的にコミュニケーションの糸口を作り出していくことが、自身や同僚の孤独化を防ぐことにつながる。何気ない会話や表情が、仲間の心を動かしていくのだ。出社とテレワークのハイブリッドとなるであろうこの先の時代も、いちビジネスマンとして意識していきたいことと言えそうだ。

越川慎司
クロスリバー代表取締役。国内外通信会社勤務やITベンチャーの起業、日本マイクロソフト業務執行役員を経て、クロスリバーを設立。自社で週休3日・完全リモートワーク・複業を導入しながら、800社以上に「働き方改革」および「学び方改革」を支援。著書に『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』『科学的に正しいずるい資料作成術』『超・会議術』など17冊

取材・文=有竹亮介(verb)