あなたの「歯」は健康だろうか?

江戸時代ぐらいの昔になると、現代より健康的な生活をしているイメージもあるが、実は同じように歯周病に悩まされていたこと分かってきた。

(出典:東京医科歯科大学)
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東京医科歯科大学などの研究グループが、東京・江東区の深川付近で発掘された江戸時代後期の町人12体の骨を調べたところ、5体のあごの骨の一部が溶けて(骨吸収)おり、約4割が歯周病にかかっていたことが分かったと発表したのだ。

歯周病とは、歯と歯ぐきのすきまから細菌が入り込んで炎症を起こし、歯を支える骨を溶かしてしまう病気。むし歯と違って痛みがないことが多く、気づいた時には歯が自然に抜けてしまうほど重症化することもあるという。

(出典:東京医科歯科大学)

さらに研究チームは江戸時代の人の歯石を調べて細菌のDNAを抽出

見つかった24種類の細菌のうち17種類は現代人の口からも見つかるものだったが、逆に現代人の歯周病の代表的な原因となっている細菌は、江戸時代の人からは見つからなかった。これは、歯周病のような感染症は、時代や環境によって原因菌が異なる可能性があるからだという。

江戸時代と現代の細菌叢の比較 (出典:東京医科歯科大学)

実はこれまで、古代人の歯石に含まれる細菌の調査はほとんど欧米で行われたもので、日本の古代人を対象にした報告はほとんどなく、よく分かっていなかった。

現代人の方が歯周炎の割合が高い可能性

今回の研究では12体中5体から歯周病が見つかったが、現代人より多いのだろうか?また当時はどんなオーラルケアをしていたのか? 東京医科歯科大学の芝多佳彦助教に聞いてみた。

――12体中5体から歯周病がみつかったというのは、現代人に比べて多い?

歯周炎の罹患率は現代でも年代によって異なるため、今回の古人骨12体と単純に比較はできませんが、現代人の方がより歯周炎の割合が高い可能性があります。
(編集部:注※歯周炎・歯肉炎などの総称が歯周病)


――なぜ現代と細菌が違うのに、同じ歯周病になるの?

歯周病の成立は1つの原因細菌によって生じる単一感染症ではなく、複数の細菌種の感染によって生じ、細菌間での相関関係のバランス異常により発症する複合感染症である、とされています。

歯周病は複数種の細菌感染によって発症することから、様々な細菌との相関関係によって歯周病原性を発揮することが考えられます。つまり、細菌種が異なっても現代に近い細菌間のバランス異常により、同一の疾患を惹きおこす可能性があると考えています。

また食生活の変化などにより、ヒトの細菌組成が変化すると報告されており、今後も同様に歯周病の原因菌がさらに変化する可能性はあると考えられます。

12体中7体からは“むし歯”

――ちなみに“むし歯”は何人にあったの?当時の歯磨きとはどんなもの?

本研究では12人中7人でむし歯が認められました。正しいブラッシング理論が周知されていませんでしたが、砂糖があまり流通していないことからこの程度の罹患率で留まっていたと考えられます。過去の報告では、江戸時代のむし歯罹患率は4〜18%というものもあります。

日本では縄文時代から、むし歯は存在しています。歯磨きは、仏教の伝来とともに日本に伝わり、平安時代には上流階級で「歯木」という道具による清掃が行われています。江戸時代中期になると、細い棒の先端をかんで繊維を房状にした歯ブラシの原形のような道具が「房楊枝」として商品化され使用されています。

しかし、江戸時代には、現在のような確立されたブラッシング法や清掃効率の高い歯ブラシは存在しません。当時の人々は現代人よりも歯を磨くことが難しかったことが想像できます。

また、むし歯はハミガキだけでは防げません。むし歯には、砂糖摂取量・間食の回数・食べているものの種類(食物繊維量)などの生活習慣が大きく影響します。


――12体中、歯の治療をした人はいた?

今回調査した江戸時代の古人骨には歯の治療痕跡は認められませんでした。しかし、日本では奈良時代から「耳目口」の医者、平安時代から「口中医」が存在します。江戸時代には、入れ歯を作る「入れ歯師」、歯を抜く「歯抜師」などの職業があり、歯科治療が発達しています。

また、歯痛止め薬や歯磨き粉も売られていました。さらに共同研究者の澤藤さんが、同時代同地域の江戸時代のゲノム解析から、歯磨き粉として用いられた植物の成分を検出しています。


――この研究は、どういう形で歯周病治療に役立てられる?

本研究により江戸時代と現代では異なる歯周病の原因となる細菌が存在する可能性があることがわかりました。

今後、さらに古い時代の歯石を調べることで世界の歯周病の細菌学的な歴史・変遷を解明し、過去と現代の歯周病原因細菌の共通点を調べることで、何が疾患の根本的な要因なのかを明らかにし、それらをターゲットにした検査や治療への応用が可能になる可能性があります。

“歯周病”予防は日々の口腔ケアが最も重要

――最後に、歯周病にならないためのアドバイスを教えて。

歯周病の原因は基本的に歯の表面にいる磨き残し(プラーク)です。歯周病にならないためには、歯ブラシやその他の清掃器具による日々の口腔ケアが最も重要です。

また、かかりつけ歯科医師を見つけ、1年に3回〜4回、定期健診と歯石取りのために歯科医院を受診することをお勧めします。歯周病は自然治癒することがなく、自覚症状が乏しい病気です。そのため、歯周病に対しては早期発見、早期治療が一番重要です。

もし歯周病になってしまった場合には、適切な歯周治療による歯石除去が必要です。重症化してしまった場合には歯周組織再生治療が適応となる場合があります。

(出典:厚生労働省)

ちなみに厚生労働省のサイトによると、歯周疾患の有病状況を示す「4mm以上の歯周ポケットがある人」は45歳以上では過半数。「歯肉出血がある人」は全年齢層の約4割にも及ぶという。

さて、あなたの「歯」は、昔の人より健康だろうか? 生活習慣やオーラルケアの方法が違う江戸時代でも同じ悩みを持っていたようだ。