2022年に打ち上げられるアメリカのロケットに、日本製の月面探査車が搭載される。開発したのは長野市出身の「エンジニア社長」。世界初の民間月面探査に挑む。

手のひらサイズの月面探査車「YAOKI」

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砂の上を2輪走行する機械。手のひらに乗せられるほどの大きさだ。一見、ラジコンのようだが、実は世界最小・最軽量の月面探査車。名前を「YAOKI(ヤオキ)」という。

「YAOKI」は2022年、月へ行く。NASAの「月輸送ミッション」で、アメリカの企業が打ち上げるロケットの月面着陸機に搭載されることが決まっている。実現すれば世界初の民間による月面探査となる。

「社会に役立つものを作る」チャレンジ精神で開発

開発したのは、宇宙開発ベンチャー「ダイモン」の中島紳一郎社長(55)。

ダイモン・中島紳一郎社長:
ひとつでも無駄をなくすように、一番合理的な形状に行きつくことにこだわった。思いひとつで月面探査くらいできる時代が来たんだよ、ということを示したい

中島さんは長野市出身。子どものころから、ものづくりが好きだった。

ダイモン・中島紳一郎社長:
おこづかいの99%はプラモデルにつぎ込むような子ども時代でした。プラモデルを買って組み立てるというので最初は満足していたんですけど、だんだんそれで満足できなくなってきて。自分のオリジナルを作って組み立てるところに行きつきまして、就職先もエンジニアというのはほとんど一択だった

大学卒業後は、自動車関連会社で駆動系のエンジニアとなった。

転機が訪れたのは2011年。東京出張中に東日本大震災が発生した。混乱する街を目の当たりにし、「自分の技術で社会に役立つものを作りたい」という思いに駆られ、独立を決意したという。

立ち上げたベンチャー企業は、故郷にちなんで「ダイモン」と名付けた。

ダイモン・中島紳一郎社長:
実家が善光寺の境内で、眼下が大門町なんですね。大門町という町名はあるけど、実際に門はない。新しいところにチャレンジするということで、大きな門を開こうという意味も込めまして

(長野市大門町)
(長野市大門町)

1kgあたり1億円の輸送費…軽量化を徹底追求

駆動系の技術と知識を生かして風力発電やロボット開発に取り組んでいたが、5年ほど前から本格的に月面探査車の開発を始めた。

こだわったのは「2輪」だ。

ダイモン・中島紳一郎社長:
なぜ2輪にしたかというと、軽量化ということです。月に行く輸送費が1キロ当たり1億円と言われているので、徹底的に軽量化の必要があった

試行錯誤の末、完成した現在の「YAOKI」。重さは500グラム以下だ。

記者:
思ったより軽いです。ズシンというような重さは感じません

名前の由来は「七転び八起き」 倒れても走行可能

遠隔操作で動かし、内臓バッテリーで6時間ほど走行が可能。車輪の間にあるカメラで月面を撮影する。名前の「YAOKI」は走行能力に由来している。

ダイモン・中島紳一郎社長:
2輪だけだと走りにくいところもあるので、後ろにテールプレートをつけることによって3輪目の代わりにしている。倒れても走行可能なのがもう一つの特長。「七転び八起き」に由来して「YAOKI」

2019年にNASAの月輸送ミッションに応募したところ、軽さや丈夫さが評価されロケットへの搭載が決定。

衝撃や振動に耐える試験や、月と同じ重力空間での性能を確認する試験を重ねてきた。

緊張と期待を胸に、いざ月へ

資金集めには苦労したが、スポンサーがつき、月輸送への目途が立った。

ダイモン・中島紳一郎社長:
月面というのは50年ぶりなので、簡単に言うとどこにも事例がない。ドキドキ9割、ワクワク1割。みんなで楽しんで応援してもらって、多くの人と盛り上がっていきたい

月面探査のミッションを進める一方、ダイモンは子どもたちへの教育にも力を入れている。この夏にはIT関連企業と連携して「YAOKI」の体験イベントを開催した。

プラモデル少年からエンジニアとなった中島さん。ものづくりの楽しさや夢を持つことの大切さを伝えたいとしている。

ダイモン・中島紳一郎社長:
(少し前は)「現実感がないですね」という意味で「夢がありますね」とよく言われた。今は純粋に夢を持ってやろうとしていることが、実現可能な時代が来たんだよと。体験して、自分の力で動いていくことを啓蒙するような教育を目指したい

ロケットは2022年中には打ち上げられる見通し。中島さんの作った小さな月面探査車が、偉業を成し遂げようとしている。

(長野放送)

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