人の行動をやって欲しい方向にそっとうながす「ナッジ」と呼ばれる手法がある。「言われてみればそうかも」と思わず納得の仕掛けを取材した。

「気づきを与えて行動を後押し」する仕掛け

「30m先のごみ箱に捨てに行きませんか?」と提案する、こちらの張り紙。
冒険のような感覚で貼り紙の通りに道を進み、神戸市・さんきたアモーレ広場に設置されたゴミ箱を利用してみると…

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ゴミ箱の音声:
捨ててくれてありがとう。

“お礼”の言葉をかけてくれたこのごみ箱は、神戸市とP&Gジャパンが協力し、地元の大学生と共に作ったという「仕掛けゴミ箱」だ。

設置された広場の周りには、「あなたがぽい捨てをしていないおかげで、きれいな街が保てています!」「街をきれいにするのはあなたです!」などと書かれたポスターも貼られている。

このように、人の行動を「やってほしい方向へそっと促す」手法は「ナッジ」と呼ばれ、神戸市はこれによってゴミ捨ての意識を高め、街の景観の向上を目指したいという。

兵庫県立大学・黒川博文講師:
「ポイ捨て禁止」などとよく書かれていると思うんですけど、「禁止」という言葉は使わない方がいいなというふうに思って、ゴミ箱があるということに気づきを与えながらポイ捨てを減らすということができないかということを考えて、このゴミ箱を設置しました。

次もポイ捨てせずにゴミを捨てよう、ということをイメージして、そういう文言を使っています。気づきを与えて、行動を後押しする。

行動経済学に詳しい黒川講師によると、大切なのは「興味をもたせ、ごみ箱まで行動させる」ということ。
二度目以降もゴミ箱を利用しやすくするため、感謝の言葉と褒め言葉を流しているという。

ゴミ箱の音声:
ありがとう!また神戸がきれいになったわ。
ポイ捨てしないあなた、最高!

“喋るゴミ箱”を体験した人からは…

男性:
何かな?と思わせる仕組みなので、子どもも喜んで捨てると思う。

女性A:
捨てるのが楽しくなりそう。

女性B:
話す言葉にいろんな種類がある。次は何だろう?となると思う。

感染対策にもひそむ「ナッジ」

実は、私たちの暮らしに広まっているという「ナッジ」の手法。
たとえば、公衆トイレの張り紙は「トイレを汚すな」といったものから「いつもきれいにご利用いただき、ありがとうございます」といったものに変化。

新型コロナウイルスの感染対策として、スーパーのレジ前には立って待つ場所に「印」があることが多いが、この印があることによって、自然とソーシャルディスタンスを保つことができる。

また、銀行の待合室などには、3つ並んだ席の真ん中にぬいぐるみを置くことで、強制されることなく間隔をとることができる。

厚労省の公式サイトに掲載されている「人との接触を8割減らす10のポイント」の中にも、「ビデオ通話でオンライン帰省」「スーパーは1人または少人数ですいている時間に」など、「できない」「いけない」ということを感じさせないような工夫が取り入れられているのだ。

明治大学・齋藤孝教授:
人って命令されると不愉快になったり、否定されると嫌な気持ちになりますよね。だから一つ行動を先取りして、肯定的な表現をしてあげると動いていくというのがあるので、学生や子どもにもこういうのっていいんですよね。「いつも時間ぴったりに来るね」とか「いつも宿題よくやってくるね」って言うと、やってくるようになるっていう…

加藤綾子キャスター:
確かに小さいとき、親から「勉強しなさい」って言われたら、「そういうこと言ったからもうやらない」みたいなこと、ありますよね。

石本沙織アナウンサー:
ゴロゴロしてる夫に対しても「ゴロゴロするな」じゃなくて「運動したらかっこよくなるんじゃない」といった声かけとか…これは効果的かなってちょっと思いました。

加藤綾子キャスター:
伝え方って大事ですよね。

石本沙織アナウンサー:
我慢はなく、ちょっとした言い方の工夫ですすんでやりたくなるような「ナッジ」の取り組み、ますます増えていきそうです。

(「イット!」2月4日放送分より)