本格スタートした韓国大統領選挙。

韓国では11月5日、最大野党「国民の力」が前検事総長を党の公認候補者に選出した。一方、与党「共に民主党」はすでに候補者を決めていて、事実上この2人の一騎打ちになるとみられているが、いま異例の事態が起きている。

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“疑惑だらけ” 一騎打ちの韓国大統領選

FNNソウル支局 一之瀬登支局長:
韓国の大統領選挙は2022年3月9日に予定されていて、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に代わる新大統領が誕生します。

最大野党の「国民の力」は11月5日、党の公認候補に前検事総長・尹錫悦(ユン・ソギョル)氏を選出しました。自身を検事総長に起用した文政権の疑惑を追及するなど、権力と対峙する姿勢から「政権交代の象徴」とも言われています。

一方、与党の「共に民主党」は1カ月前に、弁護士出身で前京畿道知事・李在明(イ・ジェミョン)氏を選出しています。貧しい家庭に育ち苦労して弁護士になり、大統領候補にまでなったたたき上げですが、過激な発言で「韓国のトランプ」とも呼ばれています。

選挙戦は事実上この2人の争いとなる見通しですが、すでに両者には疑惑が持ち上がっていて、韓国メディアは「次の“悪”を選択する大統領選挙」と揶揄しています。

では、どんな疑惑が持ち上がっているのだろうか?

金銭に職権乱用…2人に持ち上がる疑惑の数々

FNNソウル支局 一之瀬登支局長:
李在明氏には「都市開発をめぐるお金の疑惑」が持ち上がっています。李在明氏は城南市の市長時代に、市の開発公社と民間の投資会社が双方に出資して都市開発事業を進めました。

ソウル近郊の都市開発だけに事業自体は成功し、多額の利益を上げるのですが、その利益の配分をめぐって疑惑が持ち上がります。

市の開発公社は資本金の50%にあたる約2億4000万円を出資し、3年間で約176億円の配当を受けます。一方、民間の投資会社は資本金のわずか7%である約3400万円を出資して、約387億円もの配当を受けるんです。

実に1000倍以上という配当で、「民間の投資会社を優遇したのではないか?」という疑惑の目が向けられます。

検察は投資会社から約5000万円を違法に受け取っていた疑いで、市の開発公社の幹部を逮捕したんですが、この幹部こそ李在明氏の側近といわれている人物です。

さらに、この幹部と共謀して市の開発公社に60億円を超える損害を与えた疑いで、民間の投資会社の大株主と弁護士を逮捕しました。

この疑惑をめぐって李在明氏は国会で野党の追及を受けますが、一貫して自身の関与を否定しています。しかし、側近をはじめ関係者が次々と逮捕されているだけに、自身の疑惑が一層深まっている事態です。

李在明氏はこのほかにも、映画「私の頭の中の消しゴム」にも出演した女優キム・ブソンさんとの不倫疑惑があるほか、義理の姉への暴言が報道されるなど、数々の疑惑や騒動が取り沙汰されています。

対する最大野党「国民の力」の尹錫悦氏をめぐっては、2つの大きな疑惑があります。検事総長辞任後の2021年9月、その疑惑に関する捜査が動き出しました。

検事総長在任中、自身に批判的な与党関係者の告発を、部下の検事を通じて野党議員に働きかけた“職権乱用の疑い”が持たれています。また、妻が株価操作事件に関わった疑惑も浮上しています。

反日強行派と未来志向? 異なる日本への姿勢

加藤綾子キャスター:
これだけ疑惑だらけの人が大統領候補と聞くと、大丈夫なのかなと思ってしまうんですが、気になるのは日本との向き合い方ですよね?

FNNソウル支局 一之瀬登支局長:
日韓関係についての両者のスタンスは異なっています。まず李在明氏は「反日強硬派」として知られています。候補に決まった際の演説(10月10日)でも「日本を追い抜き先進国に追いつき、世界をリードする」と日本を意識していて、11月2日には「韓国国内の親日行為に対する追及を国家的に続けるべき」と日本に対して厳しい考えを示しています。

そして、尹錫悦氏は「領土・主権・過去の歴史に関しては堂々とした立場を主張する」とする一方で、日本に対して「隣国として未来のために新しいビジョンを提示する」としています。

最新の世論調査では、与党の李在明氏が31.2%。野党の尹錫悦氏が43.0%と、現状では尹錫悦氏が一歩リードしている形です。

ただ、両候補に大きな疑惑が持ち上がる異例な事態なだけに、捜査の行方が選挙戦のカギを握るともいえます。いずれにしても日韓関係を占う大統領選挙だけに、今後の動向に注目が集まります。

新政権に求められる“有事対応”

加藤綾子キャスター:
韓国の大統領選では、いつも何か疑惑を抱えていることが多いなという印象ですが、今の話を聞いていると、尹錫悦氏の方が(日韓関係に関して)未来に向けた関係が築けそうだなと思ってしまうんですけども…。

社会学者・古市憲寿氏:
親日って形で大統領になってしまうと、世論からの突き上げを多くくらうと思うので結局、自由に動けるわけでもないと思うんです。そういう意味でもどちらの候補になったとしても、日韓関係を劇的に改善するわけじゃ多分、ないと思うんですね。外交的にちょっと厳しくても経済的にうまくやればいいって考えもあると思うんですけど、心配なのはこれからは有事ですよね。

北朝鮮の問題もありますし、台湾有事であるとか、アメリカと中国の緊張感が高まる中で何か有事が起こりかねない。そういう時に日本とアメリカと韓国の3国が連携をとることは、すごい大事だと思うんです。その足並みが最近は揃って来ないってことも増えてきてますから、安全保障に関してだけはせめて、どちらの候補になったとしても、うまく足並みを揃えてほしいなと思いますね。

加藤綾子キャスター:
韓国の大統領選挙は2022年3月9日に予定されています。

(「イット!」11月8日放送分より)