温かいシャリと冷たいネタを同時冷凍

飲食店の「困った」を解決に導く冷凍テクノロジーの最前線を見つめた。

報道陣にお披露目されたのは高品質な冷凍を実現する冷凍機「アートロックフリーザー」。
これまで困難とされていた食材の急速冷凍を可能にした。

この記事の画像(12枚)

そのひとつが握り寿司。温かいシャリと冷たいネタを同時に冷凍することが難しいとされてきたが、新型の冷凍機に入れるとわずか25分後にはネタもシャリもカチカチに。

冷気を多くの方向から当てることで食品から熱を奪う効率を上げ、乾燥や変色といった食材へのダメージを与えることなくありのままを保つことに成功しているという。

3時間かけて自然解凍したお寿司の味は、マグロはうまみがあり水っぽくもなく、シャリもしっとり。言われなければ解凍したものだとわからないという。

冷凍庫の開発、販売を手がけたデイブレイク社ではこの一年で売上が前年の5倍にアップした。

「来店できない客にも食べてほしい」

東京・港区にある「鮨心」。
コロナ禍で客足が減り複数あった店を手放したという。

「鮨心」中村導昌社長:
やはり楽しみにしていたお客さまが気軽にご来店できない状況が長く続きました。
東京にお寿司を食べに来られない方においしい江戸前寿司を楽しんでいただき笑顔をお届けしたい。

来店できない客にも自分が握った寿司を食べてほしいという思いで冷凍機を導入。
9月から冷凍寿司のネット販売に踏み切った。

冷凍寿司に合わせた真空技術も社長自ら考案。
今後は冷凍と真空の技術を合わせ冷凍寿司の産地直送も実現させたいと話す。

そしてこの冷凍技術の活用は、飲食店だけでなく一次産業にもメリットが。
旬の時期に捕れすぎて廃棄されてしまうフードロスを削減し、市場の安定供給にも繋がるという。

デイブレイク・木下昌之代表取締役社長:
生産者さんに寄り添いながら本当にいい資源をちゃんと持続できるような仕組み作りであったり、食材を世界中で流通できるよう広げていきたいと思います。

人材不足解消やサービスの標準化にも

三田友梨佳キャスター:
一橋大学ビジネススクール准教授の鈴木智子さんに聞きます。
今回の試みはマーケティングや消費者行動などを研究されている鈴木さんの目にはどう映りましたか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子氏:
家族で営む小規模な飲食店でも冷凍技術を使ってより効率的なビジネスを展開することが可能になったと感じました。

今、飲食店にとって"出来る人材"はどのお店も喉から手が出るほど欲しいはずですが、この課題に対するひとつの答えになる可能性があります。

三田キャスター:
人材不足への答えになるということですか?

鈴木智子氏:
マーケティングでは人が行うサービスを同じレベルで揃えるのは非常に難しいとされていて、これを飲食店にあてはめてみると、腕利きの料理人はお店の大きな魅力である一方、作り手によって味が変わることを意味しています。

そこで、腕利きの料理人が多めに料理をつくって今回の特殊冷凍を利用すると腕利きの料理人を複数いるのと同じ効果が得られます。

さらにこの効果によって、料理人が不足していても多くのお店を展開できるようになったり、新たな料理人が育つ時間を持てるようになったりします。

三田キャスター:
今回の特殊冷凍を使うとお寿司屋さんでもオンライン販売が可能になりますが、これについてはいかがですか?

鈴木智子氏:
飲食店の価値はお店の料理人やスタッフと顧客との間で創られるとされ、これをマーケティングでは「価値共創」という言葉で表します。

感染の拡大とともに、贔屓のお店にいけない、お店が続くように応援したいという声をよく聴きます。

特殊冷凍によって、お寿司などもオンライン販売できるようになると贔屓の飲食店を応援できる方法になり、お店と顧客の "美味しい関係"が続くことにつながります。

三田キャスター:
いま苦境にある飲食店がテクノロジーの力でピンチをチャンスに変えられるといいですね。

鈴木智子氏:
新しいテクノロジーを家族で営む飲食店などが導入するには資金面などハードルの高さはありますが、今は補助金も期待出来ますし、経営改善の投資には金融機関も前向きなので取り組みが進むことを期待したいです。

三田キャスター:
こうした試みでお店にとっては新たなビジネスチャンスになることを期待したいですし、消費者にとっても食卓での選択肢が増えることに繋がりそうです。

(「Live News α」10月27日放送分)