新たな才能を発掘する「HAZERU ART」

都内の作業場で思いのままに筆を動かす画家のせつ はやとさん。

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完成した手描きのアート作品はパソコンに取り込み、明るさなどを微調整する。

画家・せつ はやとさん:
絵は飾ることしかできないというか、飾る物だと思うんですけど、それが "用途を持った物"に変わるのが面白いなと。

2年前に勤めていたIT企業を辞め、世界中を旅行し撮影した写真をもとに、1年ほど前から本格的に絵の制作をはじめた。

せつ はやとさん:
最終的にこのもので 「HAZERU ART」さんのところにアップします。

「HAZERU ART」とは、 デジタルアートの作品を投稿するプラットフォーム
アート作品にさらなる価値を与え、“爆ぜる”(はぜる)アーティストを生み出すサービスだ。

無料で閲覧、気に入った作品を購入

100人以上の様々なアーティストが投稿した作品をユーザーが無料で閲覧できるほか、気に入った作品があれば、作品が印刷されたTシャツやアクリル板などのグッズをサイト内で購入することが可能だ。

「HAZERU ART」運営 KICONIA WORKS・書上拓郎代表:
私の知り合いにアーティストやクリエイターの方が多くて、彼らがアートで生計がたてられているかというとそうでもなくて、一部の人しかたてられていない。
そういった人たちを何かしらサポートできるサービスがないかというところから、アートというところに着目しました。

一般的にアーティストが絵を売って収入を得るには、ギャラリーで個展を開いて絵を購入してもらう必要があり、収益化のハードルが高い現状があるという。

このサイトでは、誰でもアーティストとして登録が可能で、デザインを元にグッズ化されたものの利益の7割がアーティストへ還元される。

せつ はやとさん:
絵そのものを買ってもらうというのはなかなか難しいけど、グッズになったときに絵に興味を持ってもらえたり、買ってもらえることはすごく嬉しいですね。

今後はデジタルの手軽さを生かし、アートフレームにデジタルアートを配信するサブスクリプションサービスの提供を予定し、世界に向けたサービスを目指す。

「HAZERU ART」運営・書上拓郎代表:
例えば動画でいうとYouTubeがあったりとか、どんな方でも才能があって努力すれば再生数が伸びて売上がたって脚光を浴びるということがありますが、そういったところをアートの世界でも広げていきたいと思っているので、「HAZERU ART」を通じて有名なクリエイターさんだったり、アーティストさん、新しい才能が出てくるというところを支援できたらなと思っています。

アート市場の裾野を広げる

三田友梨佳キャスター:
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに聞きます。
今回の試みはビジネスの視点から見ると、どう映りましたか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
「価値の本質は希少性にある」という考え方がありますが、この仕組みは広げるということに意味があると思います。
例えば、ダ・ビンチの「モナリザ」のような世界にひとつしかないアートはその希少性ゆえ価値が高い一方、アートは一部の芸術家や愛好家のためという面もあります。

しかし、最近では、ビジネスの世界で、芸術家の発想法をビジネスに取り入れる「アート思考」が注目されていまして、アートは芸術家だけでなく社会で広く活用されるようになってきています。

今回の取り組みは、アートの裾野を広げるイノベーションになるのではと思います。

三田キャスター:
アートがより広く社会に根付くためにはどんなことが鍵になりますか?

長内厚さん:
キーワードは「デジタル」「プラットフォーム」だと思います。

ハードウェアは作れば作るだけ部品代のコストがかかります。
一方、ソフトウェア・デジタルなものは、同じものを大量に作ってもコストはあまり増えません。

デジタル技術によってアートがソフトウェア的につくられると、普及にかかるコストが大幅に低下して、広く貧富の差なく様々な人に作品が届けられるメリットが考えられます。

三田キャスター:
確かに私たちもデジタルによってアートに触れる機会が増えそうですが、もう1つのキーワードであるプラットフォームが果たす役割とは?

長内厚さん:
例えば、個人が動画を撮影するという習慣は、80年代の家庭用ビデオの普及で始まっています。
YouTubeというプラットフォームの登場で、動画を共有するということに繋がりました。

単にデジタルアートを作るのではなくて、デジタルアートを普及させるためのアート版YouTubeのようなプラットフォームが重要になってきます。

“アートの使い分け”で生まれる多様性

三田キャスター:
デジタルによってアートが広く普及すると、これまでのアートの価値であった希少性を損ねることにはなりませんか?

長内厚さん:
確かに希少性は下がります。
しかし、デジタルアートが社会に根付いても、「モナリザ」のような芸術品の価値が無くなるわけではないと思います。

アナログ的なアートの希少性の価値と、デジタルなアートが「アート思考」を広げる役割を果たすという価値、このアートの使い分けというのが進んでいくのではないでしょうか。

様々なタイプのアートがあるということで、アートの裾野がさらに広がり、より多様性が生まれてくると考えられるます。

三田キャスター:
多様性によってアートが身近にある環境が整いはじめていますが、デジタルでもアナログでもより多くの芸術に触れることで、新たな才能との出会いも待っているのかもしれません。

(「Live News α」10月11日放送分)